第三十三話 休み希望
「おかえりなさい!」
店で出迎えたのはユメとアイだった。
「マエダはいないのか?」
「店長は、今日お休みだよ。シフト表は見てないの?」
「シフト表?」
シフトっていう働き方についてはソーダイから聞いたが、シフト表ってのは初耳だな。
「なんだ、教えてあげてないんだ。トレーニングの進捗ってどうなってるんだろう? 愛、知ってる?」
「わ、私は、て、て、店長の指示でレジだけ……」
「そっかぁ。シフト表がわからないと自分が働く時間もわからないし、それだけサッと教えてあげるね」
ユメはカウンターの端に置かれた書類の束の中から、一枚の紙を取り出した。
「これがシフト表。一枚で一か月分ね。縦にスタッフの名前が並んでるでしょ? 自分の名前の列を見ると、何日の何時から何時まで働くのかが書いてあるから確認してね。斜線してあるところはお休み。斜線の上から丸印が書いてある日は、他に予定があって休みの希望を出した日。ルネ君は……、真っ白だね。まだシフト作ってないのかな? 休みの希望は伝えた?」
休みの希望と言われても、特に予定もないしな。
「休みの希望とかは言ってない」
「そうなの⁉ 遊びに行きたい日とか、見たいテレビがある日とか、お休み希望で言ってもいいんだよ?」
「テレビ? 別に予定もないし、特に困らないが。ダメなのか?」
ユメとアイは顔を見合わせて無言で頷く。
まったく似てないが、やっぱり双子なんだな。
動きは息がぴったりだ。
「ルネ君、今月は予定が無いの? 全く、なんにも?」
「あぁ、今のところは……」
「じゃあさ、三十一日に希望休出して。一緒にパーティー行こう、エステルちゃんも一緒に!」
パーティー? 舞踏会か?
エステルがユーゴの亜空間で暮らし始めてから、そろそろ十年くらい経つはずだ。
その間、娯楽など無かっただろうし、気分転換になるかもしれないな。
「わかった。エステルにも伝えて一緒に伺うとしよう」
「オッケー! 決まりね。じゃあ、オーナーに伝えておいてね。三十一日の土曜日。絶対に忘れないでよ! あ、ルネ君のシフトにもう書いちゃおっと。三十一日希望休! 時間とか場所とかは今度改めて教えるね。衣装の準備も一緒にしたいから、今月のシフトが決まったら教えて」
「わかった。タツキに聞いておく」
舞踏会なんて久しぶりだな。
ダンスも音楽もどうでもいいが、料理がたくさん出るからな。
エステルはユメとアイに預けて、僕は料理を楽しみに行こう。
「あ、ルネ君。事務所にそうだい君がいるから、連れて帰ってくれない? 朝からずーっとパソコンで作業してたみたいで、いい加減に寝かせないと倒れちゃうよ」
「ソーダイが? あいつ、寝てなかったのか」
ソーダイが事務所にいるって事は、オスカーが部屋に一人って事じゃないか。
寂しがってたら、どうするんだ。
一緒に寝てるくらいしてくれてもいいのに。
「おい、ソーダイ。お前、ずっと起きてたらしいな」
ソーダイはジムショの床に大小さまざまな箱を並べて、何やら物を詰めていた。
「あぁ、ルネ君。おかえりなさい。買い物はもう終わったんですか?」
「もうって……、お前、外を見てないのか? 日が暮れたぞ?」
「え? あ、本当だ! そんなに時間たってたのか」
ソーダイの顔には『興奮』と『疲労』が渦巻いている。
若干『興奮』が勝っているのは、『高揚』が土台にあるせいだろう。
「お前、何やってんだ?」
「寝ようと思ってたんだけど、興奮して寝られなくなっちゃって。事務所のパソコンを使ってリスト作りと、出張ストアーの荷物の準備をしてたんですよ」
「それは、今夜の業務時間にやる予定だったじゃないか」
「そうなんだけど、目を閉じても次々とやりたい事を思いついちゃって、余計に眠れなくなっちゃったんですよね」
笑う顔が怖いな。くっきりとクマが出来た目が見開いてて、口は引きつっている。
ずっとパソコンとやらを操作してたとか言ってたな。まさか、飯も食ってないのか?
あ、そうだ。
「ソーダイ。土産だ。お前、飯食ってないんだろう? これでも食え」
「え? 本当に買ってきてくれたんですか⁉ うわ、嬉しい! あ、これパンパーネの限定カレーパンじゃないですか!」
「なんだ、知ってたのか。タツキが驚いてたから、お前も知らないと思ってたのに」
「俺、ここのパン屋さん好きなんですよ! カレーパンは人気で、いつも数種類おいてるんですけど、期間限定のやつはまだ食べた事なくて。食べてみたかったんですよ。このカレーうどんパン! ありがとうございます!」
驚きはしなかったけど、思った以上に喜んだな。
『疲労』が少し減って『歓喜』と『期待』が浮かび上がった。
やっぱりソーダイには食い物だな。
簡単な奴だ。
「今夜やる仕事なら、急ぎじゃないだろう? それ食って、少しは寝ろ。人間は僕と違って飯食っても回復しないんだから」
「そうですね。ありがとうございます。ちょっと片づけたら、上に行きますよ」




