第二十九話 エステルへの土産
「ルネ、こっちに可愛い花の形のクッキーがあるよ。エステルさんに買ってあげたら?」
「ダメだ」
「なんで? 喜びそうだよ?」
「ヴァンパイアにとって、食べ物を贈るという行為は求婚にあたる。だからダメだ」
「そうなの? 一緒にご飯食べてたんじゃないの?」
「食事を共にしたり、食事を振舞うのは問題ない。食料を贈るのは、相手の今後の食事を自分が保証するという事を意味するんだ。要するに求婚だ。だから、エステルには買わない」
「でも、何もないんじゃ可哀そうじゃない? せめてお花とかさ」
「だから、食料はダメだと言ってるだろうが」
「あ、そうか。ドラクールの主食は花か。だったら、アクセサリーなんかいいんじゃない? 若い子向けの雑貨屋さんなら、可愛くて安い指輪とかあると思うよ?」
指輪か。女への土産に装飾品は定番だな。それならいいか。
「わかった。その店に行ってみよう。あと、酒はどこに売ってる?」
「え⁉ お酒買うの⁉」
「ユーゴへの土産だ。あいつにはエステル達が世話になってるからな」
「それで、お酒?」
「高ランクの人間の冒険者は酒好きが多いんだ。特に剣士と魔術師はよく酒場に入り浸っているからな。ユーゴの好みはわからんが、発泡性の果実酒なんかは人気があるし良いと思うんだが、どうだろう? この世界にも酒はあるんだろう?」
どうした? なぜ顔を覆って震えてるんだ?
「酒はここに売ってないのか?」
「いやいや。ごめん。酒は俺が代わりに買うよ。子ども……、じゃなくて、この世界では国の承認がある人しか酒は買えないから」
「そうか、じゃあ任せる。酒の種類もお前が選んでくれ。友達なら好みを知ってるだろう?」
「うんうん。わかった。お酒屋さんすぐそこだから、パッと買ってこよう」
ふらふらと足取りがおぼつかないな。
大丈夫か? あいつ。
相変わらず笑ってんだか泣いてるんだか、よくわからん。
「ここが雑貨屋?」
「正確にはファンシー雑貨屋さん。若い女の子専用のお店ってところかな。可愛い文房具や、カバンやアクセサリーなんかが売ってる。ほら、指輪あるよ」
「可愛いって感覚はよくわからん。正直、どれがいいのかもよくわからないな。おい、タツキ。お前、どれが良いと思う?」
「それは、俺が決めちゃダメでしょう。ルネからのお土産なんだから、ちゃんとルネが選ばなきゃ。なにより、俺はエステルさんの好みなんて知らないしさ」
「そうだな。お前、モテないから女の好みなんてわからないか」
「ルネさん? すっごい高みからマウント取ってくるね?」
エステルの好みか……。聞けばきっと『ルネ様が選んだものなら何でも』とでも言うんだろうが……、それは本心じゃないからな。
エステルはピンクが好きで、フリルが好きで、リボンやレースが好き。
そういえば、動物が可愛いとか言ってたな。山羊に羊にウサギ。
うん? これはウサギの形か?
首にピンクのリボンをまいた白いウサギの飾りがついている。
腹のあたりにあるのは薄いピンクの石。
「これにする」
「あぁ、それ? いいじゃない。このハート形のケースに入れてあげたら? そのままだと、小さいから無くなっちゃいそうだし」
「そうだな、そうしよう」
カウンターへ行き会計をすると、店員の女はニマニマと僕の顔を眺めながら「プレゼントですか?」と聞いてきた。
「土産だ」
「そうなんですね。ラッピングいたしますか?」
「ラッピング?」
「指輪ケースをお求めいただいていますので、指輪はケースに収めて、ケースは専用のお箱に入れることが出来ます。その上から包装紙でお包みして、おリボンを付けられますよ?」
店員は包装紙とリボンを差し出して見せてきた。
包み紙なんてなんだって同じだろう?
中身が変わるわけじゃあるまいし。
だが、ハート柄の紙とピンクのリボンか。エステルが好きそうだな。
「じゃあ、そのラッピングをしてくれ」
「かしこまりました」
どうにも馬鹿にされたような笑い方が気になる。
店員だけじゃなく、周りにいる客の女どもも僕をチラチラ見ながらヒソヒソ話している。
不愉快な店だな。
店員は器用に箱を包み、リボンを結んだ。
商品を一つ売るたびにこんな事をしていたら、時間がかかって仕方ない。
だが、まぁ、女の店だと言ってたからな。
こういう無意味そうなことが重要なんだろう。
「お待たせいたしました。お品物でございます」
袋までピンクなのか。
「エステルさん、喜んでくれるといいね」
「エステルは、僕が渡せばなんでも喜ぶ」
「……あ、うん。そうか」




