第二十六話 靴屋と服屋
「ルネ。まず、靴を買おう」
そうか。靴か。ずいぶんボロボロになったからな。
ここは、靴屋か。
ガラスの棚に並べられた布靴は、どれも派手な色をしている。
壁に取り付けられた板の上にも靴が並び、足元に積まれた箱の上にも靴・靴・靴。
「すみません! 足のサイズを測ってもらいたいんですけど」
「は~い」
達樹に声をかけられて寄ってきた女は、黒いエプロンを付けている。
なるほど、この店の従業員の証は黒いエプロンなのか。
「そちらのお子様ですか?」
「お子様じゃない!」
「あら、ごめんなさい。中学生さんですかね? そちらの椅子に座っていただいて、靴を脱いで、片足だけで結構です。靴下のまま、この板の上に足を乗せてください」
まったく、失礼な女だ。
僕のどこがお子様に見えるって言うんだ。
「ほら、乗せたぞ!」
「ちょっと足の位置調整させていただきますね~。え~、二十一・五かな? 靴のサイズは二十二か……二十二半にしても良いかもしれませんね。本日は通学用でご検討ですか?」
二十二? それが僕のサイズなのか?
そう言えば自分のサイズなんて気にしたことなかったな。
これまでは、屋敷に来た商人が測って、それに合うのを並べて、僕はそこから選ぶだけだったし。
そうか、屋敷を出てから服や靴を買うのは初めてか。
ここに居ると、盗みもしなくていいんだ。
「いえ、今日はスニーカーを。洗い替えも必要なので二足欲しくて」
「あ、そうなんですね。では、ジュニアサイズのコーナーにご案内します。靴を履きなおしていただいたら、こちらへどうぞ」
女が連れて行ったのは、店内でも最も派手な靴が並ぶ棚の前だった。
様々な色に不可思議な模様。宝石飾りがついているものまである。
「こちらの上の段がこの秋の新商品ですね。このシリーズが男女問わず人気があります。何かスポーツとかやられます?」
「いえ特には。普段履き出来るもので、なるべく着脱がしやすくて丈夫なのがいいですね」
「あぁ! 男の子さんの親御さんは皆さん、そうおっしゃいますよね。では、こちらはいかがですか? お子様の足の成長をサポートする設計になっておりまして、通気性にも耐久性にも優れた人気のお品物です。履き口がゆったりしていますし、マジックテープなので着脱しやすいですよ」
「う~ん、二足買うから、もう少し安めの方がいいなぁ」
「でしたら、こちらはいかがですか? こちらもマジックテープとゴム紐で着脱しやすいですし、つま先にゆとりがあるタイプなので、長時間履いていても足が痛くなりにくいんです」
何やら色々な靴を見せられているが、僕にはちっともわからないな。
靴なんて歩けりゃいいんじゃないのか?
さっさと決めて、もっと他の所が見たいのにな。
「ルネ、この靴でいいかな? ちょっと履いてみて」
「え? めんどくさい。派手じゃなきゃなんでもいいよ」
「ダメだよ。靴は履き心地が重要なんだから、足に合うかしっかり試着しないと!」
じゃあ、なんのためにサイズを測ったんだよ。
半ば無理やり、また靴を脱がされて、試着させられ、歩かせられ、ジャンプさせられ、また別の靴を履かされ……。何度もその繰り返し。
うんざりだ。
「どう? 歩きやすい? どこも痛いとかキツイとかない?」
僕の世界の靴と比べれば格段に軽いし、足にしっかり張り付くから動きやすい。内側も柔らかくて指が当たっているところも全く痛くない。
だが、似たようなのをいくつも出されて履かされても、正直たいして違いはわからない。
どれも同じじゃないのか? と思うけど、それを言うとまた長引きそうだ。
「これがいい。これが歩きやすい」
「そっか! じゃあ、これにしよう! 色は何がいい? 赤と、グリーンと、イエローと」
「黒がいい」
「黒? 黒は……、あった。これの二十二センチ二つありますか?」
「あいにく二十二センチの黒は展示品のみでして」
「じゃあ、もう一つは……こっちのデザインの黒ならあります?」
「あぁ、少々お待ちください……はい。ございます」
「じゃあ、その二足でお会計してください。ルネ、会計してくるから、ここでちょっと座って待ってて」
あぁ~、やっと終わった。
買い物ってこんなに面倒なもんなのか。
ちょっと腹が減ったな。
飯屋があるって言ってたけど、何があるんだろう?
焼き肉屋はあるかな?
いくらでも食べていいやつ。
「お待たせ。一足はタグを切ってもらったから、履き替えて。次に行くよ」
また、履き替えるのか‼
「なぁ、まだ飯食いに行かないのか?」
靴屋を出てからさらに歩いているが、どこも服屋ばかりで飯屋が一向に現れない。
「先に必要な物を買うって言っただろ? 服と下着と靴下。本当は好みに合わせて買ってあげたいところだけど、その様子じゃ花より団子って感じだな」
「脱いだり着たりするんじゃないだろうな?」
「そうしたいのはやまやまだけど、どうせ、もう飽きちゃったんだろ? 店に行ったらサイズだけ測って、それに合ったのをいくつか見繕おう」
服が重ねて置かれた台の中央に、顔がない人形が立っている。
これが服屋の入口か。不気味だな。
「ルネ、こっちに立って」
小走りで店内に入っていったかと思えば、今度は両手で手招きをして飛び跳ねている。
あいつ、今日は上機嫌だな。
腰がどうとか言ってたのは、なんだったんだ。
「どこに立てって?」
「ここ。この壁に線が書いてあるでしょ? 壁際に立って、頭の上がどの線に届いたかで、身長を測るんだよ。ほら、立ってたって」
「立ってる。早く測れ」
「百五十……よりも、ちょっと上か。ルネは手足が長いから、百六十でいいか」
「わかったなら、そのサイズの服持って会計しに行け」
「機嫌悪いなぁ。じゃあ、最低限必要そうなもの入れていくから、カゴもってて」
ズボンが三本。長袖のシャツが五枚。薄手の上着が三枚に、下着、靴下。
こんなにたくさんいるか?
「ハイパーライトダウンだって! これから寒くなるし、これも一枚買っておこうか?」
「ジャケットか? 寒けりゃ、オスカーにしがみつけば良いだけだから、僕は別に……」
「まぁまぁ、ちょっと着てみてって」
やっぱり着せられるんじゃないか。
「どう? 温かい?」
「……羽根が出せない」
「……‼ そうか! じゃあ、このシャツもカットソーもカーデガンも、みんなダメかぁ~」
情けない顔でうなだれるな。
まったく、わかりやすく落胆するな。こいつは。
「大丈夫だ。ドラクールの誰かに頼めば羽根穴ぐらいあけてくれる。そのナンチャラダウンで終わりで良いんだろう? 早く会計して飯食いに行くぞ」




