↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/92

第二十六話 靴屋と服屋

「ルネ。まず、靴を買おう」

 そうか。靴か。ずいぶんボロボロになったからな。

 ここは、靴屋か。

 ガラスの棚に並べられた布靴は、どれも派手な色をしている。

 壁に取り付けられた板の上にも靴が並び、足元に積まれた箱の上にも靴・靴・靴。


「すみません! 足のサイズを測ってもらいたいんですけど」

「は~い」

 達樹に声をかけられて寄ってきた女は、黒いエプロンを付けている。

 なるほど、この店の従業員の証は黒いエプロンなのか。


「そちらのお子様ですか?」

「お子様じゃない!」

「あら、ごめんなさい。中学生さんですかね? そちらの椅子に座っていただいて、靴を脱いで、片足だけで結構です。靴下のまま、この板の上に足を乗せてください」

 まったく、失礼な女だ。

 僕のどこがお子様に見えるって言うんだ。


「ほら、乗せたぞ!」

「ちょっと足の位置調整させていただきますね~。え~、二十一・五かな? 靴のサイズは二十二か……二十二半にしても良いかもしれませんね。本日は通学用でご検討ですか?」

 二十二? それが僕のサイズなのか?

 そう言えば自分のサイズなんて気にしたことなかったな。

 これまでは、屋敷に来た商人が測って、それに合うのを並べて、僕はそこから選ぶだけだったし。

 そうか、屋敷を出てから服や靴を買うのは初めてか。

 ここに居ると、盗みもしなくていいんだ。


「いえ、今日はスニーカーを。洗い替えも必要なので二足欲しくて」

「あ、そうなんですね。では、ジュニアサイズのコーナーにご案内します。靴を履きなおしていただいたら、こちらへどうぞ」


 女が連れて行ったのは、店内でも最も派手な靴が並ぶ棚の前だった。

 様々な色に不可思議な模様。宝石飾りがついているものまである。

「こちらの上の段がこの秋の新商品ですね。このシリーズが男女問わず人気があります。何かスポーツとかやられます?」

「いえ特には。普段履き出来るもので、なるべく着脱がしやすくて丈夫なのがいいですね」

「あぁ! 男の子さんの親御さんは皆さん、そうおっしゃいますよね。では、こちらはいかがですか? お子様の足の成長をサポートする設計になっておりまして、通気性にも耐久性にも優れた人気のお品物です。履き口がゆったりしていますし、マジックテープなので着脱しやすいですよ」

「う~ん、二足買うから、もう少し安めの方がいいなぁ」

「でしたら、こちらはいかがですか? こちらもマジックテープとゴム紐で着脱しやすいですし、つま先にゆとりがあるタイプなので、長時間履いていても足が痛くなりにくいんです」

 何やら色々な靴を見せられているが、僕にはちっともわからないな。

 靴なんて歩けりゃいいんじゃないのか?

 さっさと決めて、もっと他の所が見たいのにな。


「ルネ、この靴でいいかな? ちょっと履いてみて」

「え? めんどくさい。派手じゃなきゃなんでもいいよ」

「ダメだよ。靴は履き心地が重要なんだから、足に合うかしっかり試着しないと!」

 じゃあ、なんのためにサイズを測ったんだよ。

 半ば無理やり、また靴を脱がされて、試着させられ、歩かせられ、ジャンプさせられ、また別の靴を履かされ……。何度もその繰り返し。

 うんざりだ。


「どう? 歩きやすい? どこも痛いとかキツイとかない?」

 僕の世界の靴と比べれば格段に軽いし、足にしっかり張り付くから動きやすい。内側も柔らかくて指が当たっているところも全く痛くない。

 だが、似たようなのをいくつも出されて履かされても、正直たいして違いはわからない。

 どれも同じじゃないのか? と思うけど、それを言うとまた長引きそうだ。

「これがいい。これが歩きやすい」

「そっか! じゃあ、これにしよう! 色は何がいい? 赤と、グリーンと、イエローと」

「黒がいい」

「黒? 黒は……、あった。これの二十二センチ二つありますか?」

「あいにく二十二センチの黒は展示品のみでして」

「じゃあ、もう一つは……こっちのデザインの黒ならあります?」

「あぁ、少々お待ちください……はい。ございます」

「じゃあ、その二足でお会計してください。ルネ、会計してくるから、ここでちょっと座って待ってて」

 あぁ~、やっと終わった。

 買い物ってこんなに面倒なもんなのか。

 ちょっと腹が減ったな。

 飯屋があるって言ってたけど、何があるんだろう?

 焼き肉屋はあるかな?

 いくらでも食べていいやつ。


「お待たせ。一足はタグを切ってもらったから、履き替えて。次に行くよ」

 また、履き替えるのか‼


「なぁ、まだ飯食いに行かないのか?」

 靴屋を出てからさらに歩いているが、どこも服屋ばかりで飯屋が一向に現れない。

「先に必要な物を買うって言っただろ? 服と下着と靴下。本当は好みに合わせて買ってあげたいところだけど、その様子じゃ花より団子って感じだな」

「脱いだり着たりするんじゃないだろうな?」

「そうしたいのはやまやまだけど、どうせ、もう飽きちゃったんだろ? 店に行ったらサイズだけ測って、それに合ったのをいくつか見繕おう」


 服が重ねて置かれた台の中央に、顔がない人形が立っている。

 これが服屋の入口か。不気味だな。

「ルネ、こっちに立って」

 小走りで店内に入っていったかと思えば、今度は両手で手招きをして飛び跳ねている。

 あいつ、今日は上機嫌だな。

 腰がどうとか言ってたのは、なんだったんだ。

「どこに立てって?」

「ここ。この壁に線が書いてあるでしょ? 壁際に立って、頭の上がどの線に届いたかで、身長を測るんだよ。ほら、立ってたって」

「立ってる。早く測れ」

「百五十……よりも、ちょっと上か。ルネは手足が長いから、百六十でいいか」

「わかったなら、そのサイズの服持って会計しに行け」

「機嫌悪いなぁ。じゃあ、最低限必要そうなもの入れていくから、カゴもってて」

 ズボンが三本。長袖のシャツが五枚。薄手の上着が三枚に、下着、靴下。

 こんなにたくさんいるか?


「ハイパーライトダウンだって! これから寒くなるし、これも一枚買っておこうか?」

「ジャケットか? 寒けりゃ、オスカーにしがみつけば良いだけだから、僕は別に……」

「まぁまぁ、ちょっと着てみてって」

 やっぱり着せられるんじゃないか。

「どう? 温かい?」

「……羽根が出せない」

「……‼ そうか! じゃあ、このシャツもカットソーもカーデガンも、みんなダメかぁ~」

 情けない顔でうなだれるな。

 まったく、わかりやすく落胆するな。こいつは。

「大丈夫だ。ドラクールの誰かに頼めば羽根穴ぐらいあけてくれる。そのナンチャラダウンで終わりで良いんだろう? 早く会計して飯食いに行くぞ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。