第二十五話 ショッピングモール
バスから降りると、目の前には巨大な建物。
周囲には大量の車。
数えきれないほどの人間が行き交っている。
いくら他の種族がいないとはいえ、人間ばかりがこんなにいるのか⁉
マエダと行った焼き肉屋にも人間はたくさんいたが、ここまでじゃなかった。
「ここは王都か?」
「ここは、ただのショッピングモールだよ」
「ショッピングモールとはなんだ? 人間製造工場か?」
「ここで人間が生まれてるわけじゃないよ。この大きな建物の中に、たくさんのお店があって、みんな買い物をしに来てるんだ。ルネの世界だと、市場がイメージ近いかな? ほら、ヨークバーに大きな商店街があるじゃない? 服飾品や日用品を売ってる店や、飲食店や、魔具の専門店とかが並んでるでしょ。ショッピングモールは、そのたくさんある店を全部建物の中に入れたものだよ」
「ぜんぶ建物の中に⁉ いったい何のために⁉」
「買い物をしてる間、雨にも雪にも降られずに済むし、空調が効いてる……。あ、そうか。空調がわからないか」
「わからん」
「空調は、温かい風や冷たい風をだして……、うん。あのね、暑くも寒くもなくするやつ!」
「お前、投げ出してないか?」
「まぁ、いいじゃん。入ってみればわかるよ!」
入口はタツキの店と同じ、自動で動くガラスの扉だ。でも、ずっと大きい。
入る人間と出ていく人間がごちゃごちゃしてて、歩きにくいな。
ゴー
「うわぁ!」
なんだ、今の風は⁉
上から? これもカガクってやつなのか?
「ほら、手をつないでないとはぐれるよ」
床も天井も柱も、ツルツルで明るくて、こんな景色は見たことがない。
広い通路の両脇には隙間も無く店が並ぶ。
高い天井から垂れ下がったいくつもの球体。
「おい、あれはなんだ? あの円い奴!」
「あぁ、あれは飾り」
「あんなのが飾り? あれが美しいのか⁉」
「そう言う事は、言わないの」
「あれは? かぼちゃが山積みになってる! なんで箒と帽子が置いてあるんだ? 誰かの忘れ物か?」
「あれも、飾り。もうすぐハロウィンだからね。ハロウィン用の飾りだよ」
「ハロウィンってなんだ? 飾りに専用の物があるのか?」
「ハロウィンはこの世界の行事っていうか、お祭り? みたいなものだよ。まぁ、この国じゃなく外国の祭りだけどね。かぼちゃのランタンを作って飾ったり、お化けの仮装をするらしい。最近、この国に入ってきたやつだからさ、俺はよく知らないんだ。仮装してお菓子を食べる日? みたいな感じじゃないかな?」
「カヌセーヌの国土創建の日みたいだな」
「あぁ、そうだねぇ。魔獣の恰好してパレードするよね。魔獣役が果物やパンをバラまいて、街の人たちが群がって奪い合ってるのを見たことあるよ」
「この世界にも祭りがあるのか」
「どこの世界でも、人間は祭りが好きだよなぁ」
色とりどりの品物。
たくさんの絵。
建物の中なのに、店の看板が並んでるのって変な感じがするな。
にこやかな人間の姿をかたどった板。小さな旗もたくさん立ってる。
何より、この人間の数!
大人、子供、赤ん坊、年寄り……。いくらでもいる。
「こんなにいるなら、一人くらい食ってもバレないんじゃ……」
「ダメだよ、監視カメラついてるからね」
「カンシカメラ?」
「遠隔視認魔具みたいなもんだよ。ほら、天井に黒いのがあるだろう? 警備員も巡回してるからね。飯屋もたくさんあるから、あとで連れて行ってあげるよ。まずは必要な物を揃えに行こう」
すごい。この世界はなんてカラフルなんだ。
床に模様が描いてある。魔術が存在しないなら魔方陣じゃないんだよな? 何のために描いてあるんだ?
建物の中なのに木が生えてる。
あれは、椅子か? 大きなマカロンみたいだ。
ずっと音楽が聞こえる。でも楽隊の姿は何処にもない。
「どうぞ!」
うわ! なんだ? 思わず受け取ってしまった。
「ルネ、何もらったの?」
「わからん」
何か書かれてる紙に、指の先ほどの小さな枕が付いている。
「あぁ、おまけ付きのチラシか。俺たちが配ったティッシュと似たようなものだよ。これはチラシにラムネがくっついてるんだ」
そうか、これが無料配布ってやつか。
胸元にいきなり差し出してくるから、つい手に取ってしまった。
そうか、こうやれば相手は拒否する隙がないのか。
でも、このやり方は歩いている相手にしか使えないな。
「そのチラシは……あぁ、保険か。それはいらないな。ルネ、ラムネだけ食べてチラシは捨てちゃっていいよ」
「ラムネって、この枕みたいなのか?」
「枕! そうか、その形状は枕か。なるほどな。これは袋だよ。中にラムネっていうお菓子かが入ってる。このお菓子はうちの店にもあるよ。貸して、開けてあげる」
タツキから手渡されたラムネは、白いメダルのような菓子だ。
粉を固めた物のようだな。
口に入れると、シュワシュワとほどけるように溶けて口の中に広がっていく、甘酸っぱい。
ゼリーインリョーの味にちょっと似てるな。
「ルネ、上の階に行くよ」
「なんだ、これは⁉」
階段が動いている⁉
「あ、そうか。エスカレーターは初めてだと乗るのが難しいか。でも、いま混んでないし挑戦してみようか」
「乗る? これに乗るのか?」
「ほら、子どもだって乗ってるでしょ? 大丈夫だよ。手をつないでてあげるから。ステップが出てくるタイミングに合わせて踏み出せばいいだけだよ」
「ま、まて、っちょっとまて。てっ手すりが動く!」
「そりゃあそうだよ。手すりが一緒に動かないと上半身だけ取り残されちゃうでしょ」
黒いステップが銀色の板についてる黄色いギザギザの下から次々と出てくる。
タイミングを合わせる? 今か? い、今か?
あぁ、目が回ってくる。
「ほら、思い切って!」
「うわ! 引っ張るなよ!」
「乗れたじゃん」
あ、本当だ。乗れてる。手すりの横から遠ざかる床が見える。
飛ぶのとは感覚が全然違うな。
「今度は降りるっよ!」
「おわぁ!」
いちいち引っ張るな!
エスカレーターを降りて、さらに奥へ歩いていく。
タツキがヨークバーの街を例に挙げた理由が分かった。
まるで、街一つ丸ごと詰め込んだような広さだ。
僕の手を引くタツキの大きな手。
そういえば、こんな風に、誰かから手をひかれた事が昔々あった気がする。
あれは、誰だったんだろう?




