第二十三話 僕と配下と眷属と
「続いて、エステルさんにも報告をお願いできるかな? エリオ君の容態とカイル君の様子はどうですか?」
「カイルさんは落ち着いて、今は屋敷の一室で休んでもらっております。エリオさんは傷口の処置はいたしましたが発熱もあり、今は小康状態です。薬師が言いますには、ケガをする以前から衰弱状態にあったのではないかと」
「彼らがどこから何の目的でハキューネに来たのかは聞けました?」
「どうやら、お二人は西側諸国から来たようです。ノーヅ港まではクルーズ船を乗り継いでいたそうで、ヨークバーまでの船便が無かった為に、仕方なく山道を歩いていたと」
カヌセーヌが西側に港を開いていないのを知らなかったのか。ずっと船だけでカヌセーヌに入国するつもりだったとすれば、あの旅慣れてない感じも頷けるな。ノーヅ港までは何もかもクルー任せで来たんだろう。
「甘っちょろい人間が、下調べもせずに観光旅行でもしてたんだろう。怪我が治ったらノーヅ港まで送ってやって帰らせよう」
「それが、目的は観光ではなくて……。その、カイルさんが仰るには『亡命』だと……」
「亡命?」
「それ以上は教えていただけませんでした」
『亡命』とは随分とキナ臭い話だな。まぁ、エリオとやらが回復したら話を聞けばいいか。
カイルの服装や言動からは、とても難民には見えないが、まぁ事情があるんだろう。
「とにかく、しばらくは養生が必要ですわ。薬師の見立てでは半月はかかるだろうと」
「わかった。エリオと話せるようになったら教えてくれ」
「承知いたしました」
あいつらの事はエステルに任せておいて問題ない。
ドラクール家は領地に多くの人間を住まわせるだけでなく、彼らのための療養所や学校などを運営していた。人間の世話には慣れているからな。
「では、引き続き二人をよろしくお願いします。エステルさんには成り行きで従業員寮に住んでもらっちゃってるけど、どうしようか? うちは人手不足だから、従業員になってもらっても構わないんだけど……」
「わたくしは、ルネ様のお手伝いをするだけですわ。全てはルネ様の御心のままに」
…………。
「エステルは今のところドラクール家の者として僕に仕えている、僕の配下だ。だが、まだベルゼビュート家の当主を継いでいない僕には、エステルに命令をすることは出来ない。そして、我が領地より外の人間であるお前たちに命令することも出来ない。だから、これは僕からの『お願い』になるが、エステルのしたいようにさせてやって欲しい」
ソーダイの顔には『疑問』が浮かび、ユーゴは口笛を吹き、タツキはまた目を閉じた。
エステルが嬉しそうに手を叩く理由はわかるが、他の三人が何を考えてその反応なのか、やっぱりわからないな。
「じゃあ、エステルさんはルネの配下のままにしとこう。俺や他のスタッフはエステルさんに業務命令もしないし、協力を頼みたいときは必ずルネを通す。ルネがエステルさんに仕事をさせてもいいと思えば、エステルさんに『お願い』をしたらいいし、エステルさんはそれに応えたかったら協力してくれればいい。―……って事で良いかな?」
「わかった。それでいい」
「ルネ様から『お願い』だなんて! いくらでも命じてくださって構いませんのに」
安心しろ。エステルに『お願い』なんて言葉は使わないから。
「じゃあ、反省会はこれにて終了って事で!」
おいおい、まだ話は残ってるだろうが。
「ちょっと待て。オスカーの処遇を決めてないぞ? 貨物の運搬をさせるというなら、相応の待遇を求める」
「ルネ、オスカーはルネの眷属だろう? オスカーはルネの手足。肉体の一部と言っていい。だったら、オスカーとしての労働契約は必要ないよね?」
あれ? え? そう……なのか?
「でも、オスカーにはオスカーの寝床や餌が必要だし……」
「い~や、それは出来ないよ。だって、寝床や餌を俺が用意しちゃったらさ、それこそオスカーを馬車代わりにしてることになるよ? ルネの大切な眷属に、そんな扱いは出来ないなぁ」
確かにそうか? 馬車の置き場、厩舎に餌。雇い主が用意するのは当然だが、オスカーは馬車じゃないから……?
「でも、ルネの技術の一部とみなして、ルネに特別手当をつけるよ。だから、オスカーの餌はルネの給料で買えばいい」
「寝床は?」
「一緒に寝れば? 二人部屋とはいえ、一番大きい部屋だからスペースはあるでしょ」
ま、まぁ、いいか。……いいのか⁇




