第二十二話 企画発案
「そうか『出張もときストアー』か!」
「二人で納得してないで、僕たちにもわかるように説明しろ」
「はい。説明します。さっき走り書きしたものをコピーしただけですが、いちおう資料を用意したので配りますね」
ソーダイは持っていた紙束を、全員に配り始めた。
異世界の文字はわからんのだが……。
こら、オスカー。書類を食うな。
「『出張もときストアー』は、神明神社の例大祭と年末年始に合わせて年二回、神社の参道に出店しています。屋台というか、移動販売というか……」
「行商みたいなもんか」
「まぁ、そういう感じです。今回提案する出店場所は関所前。関所の通行が出来るようになれば人の往来は増えるでしょうし、立ち往生している人たちにお店を知ってもらうには、実際の商品を目の前で見て買ってもらうのが一番です。そして、販売する商品はすぐに食べられるお弁当やパンなどがいいと思います。これは僕が空港で飛行機が飛ばずに二日過ごした経験なんですが、その時に欲しかったのは食料と寝床でした。僕がその時にいた空港では飲食店や売店やラウンジなど設備が充実していましたが、どこも混みあっていて、飲食店と売店は品薄でした。他の人も同じように食料と寝床を求めていたという事です。ルネ君から話を聞きましたが、関所前はそのような設備がなく、各自テントを張ったり持参した携帯食を食べているんですよね? だったら、お弁当やパンなどの需要は充分見込めるとおもいます」
「そうだね。関所からカヌセーヌに入国せずに引き返すにしても、次の宿場までは十時間以上かかる。お弁当やパンなら、そういう引き返す人たちにも道中で食べるために買ってもらえるかもしれない。ただ、問題が一つあるよ。ここから関所までは徒歩六時間。商品や資材・備品を持って、どうやって行くの?」
ソーダイは少し間を開けて返答をしたが、おそらくこの質問は想定内だったんだろう。
珍しく『自信』が浮かんでいる。
「最初はユーゴさんに魔法を使ってもらおうと考えました。僕の荷物を部屋に運んだのが、ユーゴさんの魔法だったのだと聞いたので。ですが、この方法はやめました。移動の魔法は移動先に魔方陣を描かないといけないそうなんですが、ユーゴさんは今ご事情があって人ごみを避けていらっしゃるということですので、関所前には行けません。そこで、オスカーに商品と資材の運搬をお願いしようかと思います」
なに? オスカーを⁉
「おまえ、オスカーを馬車代わりに使おうってのか⁉」
「はい。昨夜、オスカーがケガ人を二人背負って飛んで帰ってきたのを見て考えたんです。成人男性二人分の重量を背負って、関所からわずか一時間程度のスピードで移動できるのは素晴らしい才能です。しかも、着地の際はゆっくりと静かに降り立ち、揺らさないように配慮していました。ルネ君は『馬車代わり』と言いましたが、馬車よりもはるかに精度が高い技術だと思います」
「そりゃあ、そうだ。オスカーには僕が乗って飛び方を教えたんだからな。速いのはもちろんだし、積み荷は大切に扱うように躾けてある」
あの時、ソーダイは、そんな事を考えていたのか。
てっきり、僕が悪魔だって事を納得しようと『思案』しているのかと思っていたのに。
「販売員にルネ君がいればオスカーは安心していられるでしょう。行きも帰りもタツキさんをルネ君が抱えて飛んで行ってもらえば、移動時間は大幅に短縮できますよね? 店舗設営を簡略化すれば、夜のうちに行って帰ってくることが出来ると思います」
数秒間、タツキは目を閉じて黙っていた。
なにか考えていりゃあいいが、まさか寝ていやしないだろうな?
「わかりました。出張もときストアーの出動を許可します。ただし、条件が一つある。出張ストアーの運営を担当するのは俺じゃなく、そうだい君にやってもらいたい」
「え? 俺がですか?」
ソーダイは狼狽えたような素振りをしたが『自信』をまとった『期待』と『興奮』が立ち昇っている。
かたや、感情が視えないタツキは表情を若干引きつらせ、ふたたび目を閉じた。
「そう、しばらくは、俺は店番をしていようと思う。じつは、非常に久しぶりに山道をハキューネくんだりまで歩いた結果、俺の膝と腰がセンシティブな状態になっていて、舗装されていない場所での立ち仕事には不安がある」
なんで、そこでキメ顔なんだよ。
「腰痛と膝関節痛は突如として来るからねぇ。うん! ここは若者に任せたほうが良い!」
それで、さっきからやたら背中をさすっていたのか。
中年同士の庇いあいは情けなくて見ていられないな。
「痛みが酷いようでしたら、お薬もありますが、まずは安静が一番ですものね」
「ありがとう、エステルさん。普通に生活する分には大丈夫そうだから」
「片道で体が痛いなんて、弱すぎるんじゃないのか?」
「交通が発達してる俺たちの世界では、一日に一万歩も歩ければ充分なんだよ。休みなしに三万歩は、やりすぎた」
「わかりました。出張ストアーの担当は、俺とルネ君とオスカーで。では、次は販売予算の設定ですね」
「ハンバイヨサン?」
「ルネ君、販売予算っていうのは、売るために必要な物を揃えるための金額なんです。商品や資材や備品を購入したり、人件費や輸送コスト、広告費、テナント料などが含まれます」
要するに、店を出す準備にかかる金額を決めるって事か。
それにしても、ソーダイが自信をまとって仕事の話をすると、マエダにそっくりだな。
このまま人格スイッチが変わらなければ扱いやすいんだが。
「よく勉強してるね、そうだい君。今回は初めて出店する場所で、しかも特殊な状況だ。過去のデータが無いし、競合もいないから動向を探ることも出来ない。関所の状況によっては、門前の人数が減ってしまう可能性もある。出来るだけ準備期間を短くして一刻もはやく出店したい。販売予算は立てず、必要な物を揃えてすぐにでも出店しよう。手さぐりになってしまうけど、今回は売上よりもデータ収集が目的と割り切っていこう。ソーダイ君、各種リストの作成にどれくらいかかりそう?」
「前回の夏祭りに出店した際のデータが残っているので、それを土台に作成すれば二、三時間ほどで出来ます」
「じゃあ、そうだい君は今日上がりで、今夜の業務時間を使ってリストと作業スケジュールの作成。ユーゴも今日は上がりで良いよ。ルネは、まだ動けそう?」
「さっき食ったから」
「じゃあ、俺と二人で買い物に行こう。支度金、現金で渡してもこっちの世界で買い物なんて出来ないだろうから、一緒に行って服や靴を買ってあげるよ」
なんだと⁉ タツキと二人でなんて、ソーダイがまた……!
「あ、いいなぁ~。お土産、期待してますね」
『安穏』『意欲』『高揚』
あれ? いつもの人格豹変スイッチはどうした?
無けりゃ、それに越したことはないんだが……、なんだか拍子抜けだな。




