第二十一話 反省会
「はい、では反省会を始めま~す」
朝、七時四十五分。
反省会という名の会議が、僕とソーダイの部屋で開かれた。
その理由は……、
「シッギャ~! クシャシャシャ」
「オスカーは会議に参加しなくていいんだよ?」
「タツキ、何をいうんだ。オスカーも立派に役に立ってるんだから、参加させろ」
「ケギャ!」
「これがリアルガチのモンスターペアレントかぁ」
「まぁまぁ、良いじゃないですか。オスカーはルネ君から離れたくないみたいだし、頑張ってくれたのは本当なんですから。このまま始めましょう」
ソーダイは随分と落ち着いたな。
オスカーにも慣れたようで、頭をなでる余裕さえある。
「そうですわ。オスカーはルネ様の眷属。陰に日向に、常に付き従うものです」
さすが、エルテルはよくわかっている。
やっぱり常識や価値観が合う同種族がいるのは安心するな。
「わかった、わかった。多数決で『チームおっさん』の負けだよ。じゃあ、まずは店頭の売上報告から、そうだい君お願い」
「はい。わかりました」
ソーダイは何やら紙の束を持って、読み始めた。あんなもの、いつの間に用意してたんだ?
「店頭の売り上げは、オーナーの自払い二万四千五百四十円のみ。来店客数ゼロです。店舗前には人通りが全くなく、事前に伺っていた通り、このまま集客するのは難しい状況だと思います。オーナーとルネ君が出ている間、ユーゴさんに登山道まで連れて行ってもらいました。途中の獣道もそうですが、整備されている登山道にも街灯は無く、一時間ほど様子を見ましたが人が通る様子はありませんでした。現状では登山道からの集客もままならないと感じました」
随分いつもと調子が違うな。
こいつ、こんな風にまとも喋ることも出来るのか。
「わかりました。オーナー自払いの金額以外は想像通りの報告だったよ。じゃあ、次にこっちの報告。ハキューネの関所前には想定通りに立ち往生する人がたくさんいた。ティッシュは三百持って行って、配れたのはわずか二十七個。ポケットティッシュ自体が未知のもので、警戒して受け取ってくれないことが多かった。ルネはどうだった? 配ってみて、反応は?」
「金か食い物持ってこいって言われた」
「そうそう、俺の方もそんな感じだった。あっちの世界じゃ、無料配布のサービスなんてやってる事自体が珍しいから、イケると思ったんだけどなぁ」
確かに、物珍しいってだけで喜ぶ連中は人間にも悪魔族にも多い。たとえ役に立たない物でも話のタネに受け取ろうと思ってもおかしくないのに。
ティッシュが未知の物だったから?
透明なパックは確かに少し警戒するだろうが、物自体は薄くて柔らかいただの紙だ。
もっと好意的に受け取られてもいいと思うのに。
「あの、ちょっと思ったんですけど」
「なに? そうだい君」
「無料配布を受け取ってもらえない場所というのがあると思います。僕は以前、大都会で働いていましたが、華やかな百貨店や複合ビルが立ち並ぶ表通りは、無料配布のティッシュやチラシを手に取る人が多かったんですが、少しアングラ的な施設、合法スレスレの飲食店や風俗店なんかが多い裏通りでは受け取る人が少ないんです。これは、配っている物じたいよりも、配っている人への警戒心が強いからだと思います。受け取ったら高額な物を売りつけられるんじゃないか? とか、思うのかも。関所の周辺が、そのような『受け取ってもらえない場所』であった可能性はありませんか?」
なるほど、罠であることを警戒するわけか。
「それはあるだろう。このトゥクール山は無主地だ。関所前にカヌセーヌ王国の衛兵はいるが、彼らは入出国者の警戒管理を担っているだけで、門のこちら側の出来事には関与しない。
登山道の管理をしている三国の省庁は設備維持をするだけで、通行人同士のトラブルにも魔物の危険性にも注意喚起の立札を立てる程度だ。無主地の通行に慣れている奴ほど慎重になる」
「無主地というのは?」
なんだ、ソーダイは無主地も知らないのか。
さっきから小難しい言葉を使うから本当は頭が良いのかと思ったが、たいしたことないな。
「それは俺が説明するよ。無主地というのは、どの国も領有権を主張していない場所の事なんだ。俺たちの世界では、南極が有名かな? あとは国境の一部地域とか、複数の国が領有権を主張してどっちつかずの場所もあるけどね。向こうの世界では強力な魔物が多く生息している地域のほとんどが無主地となっているんだよ。領土を拡大しようにも魔物に邪魔されて出来ないって言うのが正確かな?」
タツキの説明は表向きの話だ。
カヌセーヌ王国を取り巻く無主地は、維持管理や領有権の主張こそはしていないが、実態はトロキオの支配下だからな。
冒険者が名を上げるために少々魔物を狩るくらいなら目をつぶるが、魔物の大量虐殺や森林破壊をすれば、トロキオ軍は自然保護の名目で『対処』する。
人魔大戦で敗北を喫したとはいえ、トロキオが負けたのは一組の冒険者パーティーに対してであって、人間族の軍事力は以前としてトロキオの足元にも及ばない。
だから、どこの国も領有権を主張したがらない。
これは、公然の秘密だ。
「え⁉ じゃあ、ここって危険な魔物がいるんですか?」
「ここは山の南側だから、小さい奴しか出ない。ベートやペリュトン、ル・ガル―くらいだな。北側に行くとファラミーヌやグランベートもいるし、渓谷地帯はワイバーンの繁殖地があるけどな」
「それって、例えばどのくらいの強さなんですか?」
「そうだい君、この店から半径二百メートルは結界が張られてるから魔物は来ないよ。大丈夫。ユーゴが魔物避けの魔法をかけてくれるから、山の中を歩く間に魔物と出くわす事はないから」
なるほど。
それで、この店に来てから魔物を見かけないのか。
「関所の周辺にも結界は張られている。他の旅人たちも魔物避けの対策はしてるはずだ。だから、警戒しなきゃいけないのは野生動物と、強盗……いわゆる山賊ってやつだ。僕たちはいつもの調子で店のエプロンをつけていったが、その格好も珍しいというより怪しいと思われた可能性はある。こんな間抜けな格好の山賊なんて見たことないけどな」
「あと、もう一つの要因としては……」そこまで言いかけて、ソーダイは口を継ぐんだ。
「そうだい君、どうしたの?」
「いえ、ちょっと思いついたんですが……、やっぱり違うと思ったので、やめておきます」
『遠慮』『不安』『防衛』。言うと厄介なことを思いついたのか。
何を言おうとしたのか知らんが、これは突っつかない方がいいな。
「とにかく、人の敵は人ってことですよね。やっぱりまずは警戒心を解いて、お店に親しみを持ってもらった方がいいと思うんです。そこで、ひとつ提案があるんですが」
「そうだい君、ティッシュもらってもらえるアイディアがあるの?」
こいつはまだティッシュに執着してんのか。
よっぽどティッシュが好きなんだな。
「いえ、ティッシュではなくて。この店の立地と営業時間、そして関所の通行ができない現状を踏まえると、ティッシュでの集客は軽微で効果が薄いと感じます。そこで『出張もときストアー』の発動を提案します」




