第十八話 修行
「ルネってさ、本当にヴァンパイアだったんだね」
抱きかかえて飛び始めた後、「体勢が悪い」だの「足元が不安」だのと散々文句を言い、ようやく落ち着いたかと思えば、いまさら何を言い出すんだこいつは。
「信じてなかったのか?」
「特殊能力を使ってるところも見てないし、魔術も使わないし、たくさん食べるってだけだったからな」
特殊能力はずっと使ってたんだけどな。こいつには何故か効かないけど。
サーチスキルは傍から見ても使ってるかわからないからな。
「それにしては、オスカーを見ても、僕の翼を見ても、怖がらないな」
「いやいや、オスカーは怖くないでしょ(笑)。俺もこっちの世界を知ってから、そこそこ長いからね~。でも、ルネくらい若い悪魔族なら、なんでも魔法で解決しそうじゃない。歩くより飛ぶ方が早いし」
「体力も魔力も、無駄に使いたくないだけだ。飛翔はどっちも使うからな。なるべく歩くようにしてる。地上の獲物の方が狩りやすいしな」
「じゃあ、なんで今は飛んでるの?」
「なんでって……、最善だろうが。背負って歩くより楽で早いし、揺れも少ない」
「そうじゃなくてさ、なんでカイルとエリオだっけ? あの子たちを助けようと思ったのって事。いま言ったじゃない。飛翔は体力も魔力も消費するって。召喚術も魔力消費が大きい術でしょ? なんであの子たちのために使ったの?」
「なんでって、そんなの……。だって、カイルは旅慣れてない感じで、あいつじゃどうしようも出来ないだろうと思って……」
そういえば、なんでだ?
今までだったら、どうしてた?
たぶん、様子だけ確認して、きっと何もしなかった。
死んだら食おうくらいの気持ちで、近くに隠れて死ぬのを待ってたかもしれない。
「そうだね。あの子、医者に診せたいって衛兵に掛け合っただけで、他の旅人や冒険者たちに助けを求めた感じでもなかったし。ここは国外なのに、カヌセーヌの衛兵が見てるだけで何もしてくれなかったとか言ってたし。ちょっと、未熟って言うか、分不相応だと思う。よくここまでこられたよね。自業自得だよ。ルネが助けてあげる必要はないんじゃない?」
そのとおりだ。僕だって、そう思う。
考えが甘くて痛い目を見るのは当たり前で、そこを打開して成長するものだ。
「そうだな。あいつは未熟で自業自得だ。でも、そういうのはたぶん関係ないんだ。僕はいま、不本意ながらお前に雇われていて、キラキラなんちゃらの従業員だ。無料配布とは言え、僕はゼロリビーの商品をカイルに提示し、あいつはゼロリビーで買った。だから、僕はカイルを客として扱う。それだけだ」
「店員と客の関係は、商品の受け渡しで終わってるとは思わない?」
「……。マエダが言ってたんだ。自分が何をすれば相手が喜ぶのかを考えて実行しろって。それが僕のスキルを向上させる修行になると思って実践してる」
そう、たぶんそういう事だ。
今の僕のままじゃ、トリスタンには敵わない。
魔力も、体力も、魔術も、スキルも、何もかもを向上させる必要がある。
これは修行だ。何も無駄なことはしてない。
「さぁ~っすが! 前田さんは良いこと言うなぁ。……そうか、修行か。じゃあ、俺も雇用主として、しっかり協力しないとな。俺はスタッフに恵まれてるなぁ!」
「やめろ! 頬ずりするな! きっしょく悪いんだよ! 叩き落されたいか‼」
「俺が死んだら、飯も給金もなくなるぞ~」
「忠義を金で買って、情けなくないのか⁉」
「売ったのはルネだろう~?」
「お前が提示した条件だろう!」
「了承したのはルネでしょ~」
「利害が一致しただけだ! 主従関係じゃないからな!」
「じゃあ、金で買った忠義で良いんじゃ~ん」
「揚げ足を取るな!」
「ルネ様! 戻っていらしたんですね!」
店に着いたと同時に、エステルが表に出てきた。
ずっと外を見ていたのか?
待ってたって客が来るわけないのに。
「あぁ、不測の事態でな。早々に切り上げて帰ってきた」
「ルネ君、羽根が……」
ユーゴに引っ張られて出てきたソーダイの顔には『驚愕』と『混乱』。
ほらな、悪魔族を初めて見た人間は、こうなるのが普通なんだ。
『混乱』を鎮めるためか『思案』が顔を覆っていく。
存分に考えるがいい。
考えたところで、何も変わらんがな。
「エステル。ユーゴの亜空間にある屋敷に、薬師を連れてきていると言っていたな? ケガ人の治療は頼めるか?」
「まぁ! ルネ様、お怪我を⁉」
「僕じゃない。あいつだ」
エステルは「まぁ! 可愛らしい!」とオスカーに駆け寄った。
可愛い?
『かっこいい』だろう?
お前の大好きなピンクは何処にもないじゃないか。
「こいつはオスカー。僕の眷属だ。紹介はあとでゆっくりするから、まずはケガ人の治療を。おい、カイル! 着いたぞ。降りろ」
なんだ、こいつは気を失ってるのか。
きつめに防壁魔法かけといて良かった。じゃなきゃ振り落とされてたところだ。
「ユーゴ、このケガ人をお前の亜空間に連れていくことは出来るか?」
頭を掻きむしりながら、ユーゴは明らかに面倒くさげに「できますけどぉ~」と漏らした。
「すまないが、こいつをドラクールの薬師に診せてやって欲しい。頼む」
ユーゴには、すでに何人もの同胞を受け入れてもらっている。
エステル達を救ってくれた礼も充分に出来ていない。
今は頭を下げるしか出来ないが、いつか大恩に報いなければ。
「ベルゼビュートのお坊ちゃまに頭を下げられるのは、まぁまぁいい気分だ。わかったよ。報酬は出世払いって事にしといてやる。いちいちカードを通して出入りしなくてもいいように、どこかに扉を作ってやろう」
「助かる」
「よし! じゃあ始めるか!」




