第十話 会議
「じゃあ、みんな席について。これから臨時会議を始めます」
タツキはそう言いながら、僕をソーダイの隣に座らせた。
「深夜帯の売上をしっかりと取っていくために、この四人をチームとして動いていこうと思ってますので、まずはメンバーを紹介します。こちらは、そうだい君。この店で3年目のアルバイトで、これまではお弁当や総菜などの管理・発注業務と配達を主に任せていましたが、今回は深夜帯の接客や新人教育を含めた店長業務を担ってもらいます。店長は前田さんがすでにいますが、ご家庭の事情もあり二十四時間営業の全てをお任せは出来ないので、日中は前田さん、夜間はそうだい君の共同リーダーシップ制にします」
タツキに促されて、ソーダイは照れくさそうに頭を下げた。
「続いて、そうだい君とルネは『初めまして』になるよね。ユーゴさん。これまで深夜帯の売上を支えてくれていた常連で、俺の古い友人でもある。ユーゴはしばらくの間、俺とそうだい君が付いて店舗業務を教えるから、そのつもりでね」
ユーゴはわずかに口角を上げて会釈した。
そうか、こいつ窃盗容疑で追われてるんだった。この店で働くのは隠れ蓑ってわけか。
「あとは、ルネ君。俺と一緒に営業管理をお願いしたい。具体的には、これから決めよう」
僕の紹介を雑に終わらせてくれたのは幸いだな。
僕の正体を知ってるのは、今のところタツキだけだ。
どこかのタイミングで口止めできるといいんだが……。
タツキは「その前に……」と立ち上がってソーダイの背後に回り、その両肩に手を置いた。
ソーダイの顔がみるみる紅潮していく。
『親愛』『恋慕』『興奮』『緊張』。
あぁ、なるほど。こいつタツキに気があるのか。
僕がタツキの話をした程度で『嫉妬』していたのは、片思いだからだな。
なんだ、くだらない。
「そうだい君に教えてあげないといけないね。この店の秘密」
「ひ、ひみつ? ですか?」
ソーダイの声が上ずっている。
恋愛感情とは考えもしなかったが、対象者が目の前にいるとわかりやすいな。
「口で説明しても理解できないと思うし、今夜出勤してもらおう。実際に見れば信じないわけにいかないから」
「信じるか倒れるかのどっちかだな」
ユーゴはそんな冗談を言いながら意地悪く笑った。
「では、この後の予定なんだけど、そうだい君はこの後そのままシフトに入って、古川さんが出勤したら、彼女に発注業務の引継ぎをお願いします。十一時に退勤して、二十一時四十五分にまた出勤してもらえる?」
「わかりました」
「ユーゴは昨夜遅くに到着したばかりだから、今日は休んでていい。夜は、そうだい君と同じ時間に売り場に来て」
「はいよ」
「ルネは先にシャワー浴びて。その後で朝飯を用意してあげるから、食べたら九時から出勤。今日は昨日に引き続きお店の事を教えてもらって」
「……わかった」
また昨日と同じって事は、掃除か。
クソつまらんが、ユーゴの手前あまり文句を言って目立ちたくないな。
「ルネとユーゴは、しばらく俺の部屋に泊まることになるから……」
「え⁉」
「は⁉」
「よろしくぅ~」
僕がユーゴ・ドルトーと一緒に暮らす⁉
「無理無理無理無理‼‼」
「なんで俺だけ帰らなきゃいけないんですか!」
「ソーダイは出てくんなよ! ややこしくなる!」
「ずるいじゃないですか! 二人だけタツキさんの部屋にお泊りなんて!」
「僕は嫌なんだよ!」
ヴァンパイアハンターと同居なんて冗談じゃない!
「俺はどっちの坊やと同室でもいいけど?」
ニヤニヤと肘をつくユーゴの隣で、タツキは少し困った表情を浮かべている。
やっぱり、感情が視えない。
なぜ、ソーダイにしか能力が使えないんだ?
昨日、昼飯の後には普通に使えてた。
マエダやアイの感情を視れていた。
配達先のババアやガキにも使えてたはずだ。興味がなかったからどんな感情が視えたかは覚えてないが、使えない違和感があった記憶はない。
フルカワと異臭を放つ二人組は顔を直視してないから、能力は発動しない。
昼飯の後、夕飯の後、そして今朝。
違うな。ソーダイにだけ能力が使えるんじゃない。
タツキに使えていない。
「そうだい君は、アパートの部屋があるだろう?」
「でも、二人ともずるいです! 俺も一緒がいい!」
ユーゴはタツキとソーダイのやり取りを眺めながら「いやぁ、モテるねぇ」と呑気に笑っている。
「じゃあ、僕はソーダイの家に行く」
正直、なるべく異空間ゲートになっているこの建物からは離れたくないが、敵と同居するより千倍マシだ。
ユーゴだけじゃない。
能力が効かないという点では、タツキにも油断はできない。
慎重に事を運ばなければ。
エステルの、ドラクール家のかたき。おじい様との約束もある。
だから、だから、ソーダイ。その『不満』にまみれた顔をこっちに向けるな。
わかってる! お前がタツキの部屋に泊まりたいのは、わかってるから!
でも、僕だって命がかかってるんだ!
頼むから、涙ぐむのをやめてくれ。
「ルネは世間知らずだからなぁ。目を放すのは心配なんだけど……」
「全員一緒に寝起きしたらいいじゃないか! タツキ、部屋はいくつある?」
「リビングダイニングの他は、納戸を含めて三部屋」
「ベッドの数は?」
「ゲストルームに一つ。寝室に一つ。納戸にはソファがあるけど、4人は無理だよ」
「良いじゃないか! じゃあ、俺は寝室のベッドでタツキと一緒に寝るとしよう!」
なんてことを言うんだ!
僕の横でソーダイがカタカタ鳴ってるじゃないか。
何が鳴ってるんだ? 歯か? 足か?
気になるが、怖くて横を向けない!
「ユーゴが俺のベッドで寝るんなら、俺はリビングで寝袋の方がマシだよ。まぁ、その辺の事は今夜また相談しよう。それより、会議を続けるよ」
タツキは何やら書かれた紙の束を各々に配った。
「これは、バリエスト語……」
「ルネの国の文字じゃないけど、これならわかるだろう? 手書きだから読みづらいかもしれないけどね。まず、一つ目から……」
タツキは紙に書いてある内容に沿って話をした。
たしかに読める。
これはトロキオ周辺の一部の地域で使われている文字だ。
夜は僕の世界で営業していて、少しは客もいるとはいえ、文字の読み書きまで出来るものだろうか?
能力は効かない。
古い友人はヴァンパイアハンターで、そいつも僕の能力が効かない。
僕の世界の事にやたらと詳しいし、僕が人間を食ったと言っても驚きもしない。
タツキは、本当に異世界人なのか?
もしかしたら僕は、とんでもない奴と関わってしまったのかもしれない。




