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『黒歴史ノートが異世界で最強の魔導書になっていました』  作者: 伊佐波瑞樹


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第81話 合同演習が終わった翌日、俺の黒歴史がまた余計なことを言い始めました


 合同演習が終わった翌朝、俺はいつもより少し早く目を覚ました。


 窓の外には薄い朝靄が残っており、王立魔道学院の中庭を囲む木々が、白い霞の向こうにぼんやりと浮かんでいる。昨日の演習で歩き回った影響なのか、寝台から身体を起こすと両脚にわずかな重さがあったものの、痛みがあるわけではなかった。


 むしろ、身体よりも頭の方が疲れている気がする。


 森の中で何度も立ち止まり、仲間と相談し、負傷者を発見してからは周囲の状況を確かめながら教員の指示を待った。振り返ってみれば、魔法を使って派手に戦ったわけでもないのに、普段の実技授業とは違う疲労が残っていた。


(異世界に転生して、魔法学院の合同演習に参加するって聞いたら、もっとこう……魔物との戦闘とか、隠された遺跡の発見とかを想像するよな)


 前世の俺なら、間違いなくそう考えただろう。


 そして、実際に参加してみれば、最も大切だったのは地形図を確認し、仲間の話を聞き、危険な場所へ不用意に近づかないことだった。


 もちろん、それらが重要であることは理解している。


 ただ、心のどこかで少しくらい冒険らしい出来事を期待していたのも事実だった。


《マスター。そのお気持ちは理解できます》


 頭の中へ響いた声に、俺は寝台の上で動きを止めた。


《かつてのマスターが構想された『暗黒皇帝による魔導学院潜入編』では、入学から三日目に封印された古代竜が復活する予定でしたので》


(朝から何を思い出させてくれてるんだよ!)


《さらに五日目には、学院地下に眠る七つの魔王核が覚醒し、マスターが全校生徒の前で真の姿を解放する展開となっております》


(展開が早すぎるだろ! せめて普通の授業を受けさせてやれよ、昔の俺!)


 俺は思わず額を押さえた。


 前世の中学生だった俺は、一体どんな学校生活を夢見ていたのだろうか。


 入学して三日で古代竜、五日で魔王核。


 そんな学院に通っていたら、まともに勉強する暇もない。


《なお、七日目には学院長がマスターの正体に気づき、ひざまずく予定でした》


(学院長まで巻き込むな! しかも七日目って、まだ顔と名前を覚え始めたくらいだろ!)


《当時のマスターは、正体を隠した最強者が周囲から畏怖される展開を非常に好まれていたようです》


(……それは否定できないけどさ)


 俺は深く息を吐き、寝台から足を下ろした。


 現実の学院生活は、昔の俺が考えていたほど都合よく進まない。


 授業も試験もあり、友人との付き合いもあれば、分からないことを調べるために図書館へ通う必要もある。


 それでも、今の生活は嫌いではなかった。


 むしろ、前世では経験できなかったことが、ここにはたくさんある。


 そう考えながら制服へ着替えていると、隣の寝台から布団の擦れる音が聞こえた。


「……おはよう、シュウ。今日は早いね」


 エリオット・ファーレンが、まだ少し眠そうな顔で身体を起こしていた。


 柔らかな朝の光が彼の髪を照らし、寝癖のついた一房が妙な方向へ跳ねている。普段は落ち着いた印象のエリオットだけに、その姿を見ると少し親しみが増す気がした。


「おはよう。昨日は早く寝たからかな。なんとなく目が覚めちゃって」


「そうなんだ。僕はまだ少し眠いかな。昨日の演習、思ったより疲れたみたい」


 エリオットは小さく欠伸をすると、窓の外へ目を向けた。


「でも、今日は普通の授業に戻るんだよね。昨日のことも気になるけど、少し安心するな」


「分かる。森の中を歩くのも悪くないけど、毎日あれだったら大変だよ」


 俺が笑うと、エリオットも肩を揺らした。


 それから彼は、机の上に置かれたノートへ視線を向けた。


「そういえば、昨日の夜に書いた振り返り、もう一度読んでみたんだけど……僕たち第二班、もっと早く相談できた場面があったと思うんだ」


「へえ。どんなところ?」


「経路が混雑して待機することになったとき、最初はみんな先生の指示を待つだけだったんだ。でも、待っている間に自分たちの荷物や体調を確認しておけば、移動を再開するときにもっと落ち着いて行動できたんじゃないかなって」


 エリオットは机へ歩み寄り、ノートを開いた。


 そこには昨日の出来事が時系列で書かれており、余白には小さな文字で自分の考えが添えられている。


 俺はそれを覗き込みながら頷いた。


「なるほど。俺たちも、後から思い返すと改善できそうなことが結構あったよ。特に怪我した人の声が聞こえたときは、俺、最初に先生を探しに走ろうとしたし」


「でも、実際には走らなかったんだよね?」


「うん。みんなと話して、連絡札を使うことにした」


 エリオットは安心したように微笑んだ。


「それなら、よかったと思うよ。シュウは何かあると、すぐに自分が動こうとするから」


 その言葉に、俺は苦笑した。


 否定したいところだったが、思い当たることが多すぎる。


「……やっぱり、そう見える?」


「うん。でも、最近は前より周りを見てくれるようになったと思う」


 エリオットはそう言って、少し照れくさそうに笑った。


「僕は、今のシュウの方が話しやすいかな」


 俺は一瞬、返す言葉に迷った。


 エリオットとは学院に入ってから同じ部屋で生活し、授業や図書館での調査を通して、少しずつ親しくなってきた。


 その彼から、そんなふうに言ってもらえるとは思わなかった。


「……ありがとう。俺も、エリオットと同じ部屋でよかったよ」


「急にそんなこと言われると、ちょっと恥ずかしいね」


 エリオットは笑いながらノートを閉じた。


 俺たちは顔を見合わせ、どちらからともなく笑ってしまった。


《マスター。友情を育む、たいへん素晴らしい朝でございます》


(珍しく素直に褒めるじゃん)


《なお、旧設定では親友がマスターの真の力を目撃し、忠誠を誓う展開となっております》


(友情を主従関係に変えるな!)


 危うく声が出そうになった俺は、慌てて制服の襟を整えるふりをした。


 エリオットは特に気づかなかったようで、洗面道具を手に取っている。


 俺は内心で安堵しながら、朝食へ向かう準備を進めた。


     ◇


 朝食を終えて一年三組の教室へ向かうと、昨日の合同演習について話している学生たちの声が、廊下まで聞こえてきた。


 教室の窓は開け放たれており、朝の涼しい風が机の上に置かれた紙を揺らしている。何人かの学生は昨日の地形図を広げ、別の班が通った経路と自分たちの経路を比べていた。


 俺が教室へ入ると、すぐに聞き慣れた声が飛んできた。


「おっ、シュウ! 昨日はお疲れ!」


 振り返ると、フィン・ラデルが大きく手を振っていた。


 彼はすでに席へ着いていたが、俺の姿を見ると椅子から身を乗り出し、嬉しそうに笑っている。


「おはよう、フィン。昨日はちゃんと休めた?」


「もちろん! 寮に戻って飯食ったら、すぐ眠くなっちまってさ。気づいたら朝だったよ」


 フィンはそう言いながら肩を回した。


「ただ、今日は足がちょっと重いな。あの森、歩いてるときはそこまで気にならなかったんだけど」


「俺も少し重い感じがするよ。変な痛みはないけどね」


「ならよかった。そういや、セシリアとミリアはもう来てるぞ」


 フィンが教室の奥へ視線を向けると、窓際の席で二人が話しているのが見えた。


 セシリア・ノールは淡い栗色の髪を肩の辺りで揺らしながら、ミリアの開いた記録帳を覗き込んでいる。ミリア・ハーゼンは何かを説明しているようだったが、俺たちが近づくと顔を上げ、少し嬉しそうに微笑んだ。


「おはようございます、シュウさん。エリオットさんも」


「おはよう、ミリア。昨日はお疲れさま」


 俺が声をかけると、ミリアは丁寧に頭を下げた。


 セシリアも柔らかく微笑み、俺たちへ挨拶した。


「おはようございます。皆さん、体調は大丈夫ですか? 昨日は長い時間歩きましたから、少し心配していたんです」


「俺は大丈夫。フィンも元気そうだし」


「元気だけは自信あるぞ!」


 フィンが胸を張ると、セシリアは小さく笑った。


 その隣でミリアが記録帳を閉じようとしたため、俺は少し気になって尋ねた。


「二人で昨日のことを話してたの?」


「はい。私が書いた記録の中で、少し気になる部分があったので、セシリアさんに確認していたんです」


 ミリアはそう言いながら、開いていた頁をこちらへ向けた。


 そこには昨日、負傷者の声を聞いてから巡回教員が到着するまでの流れが、簡潔にまとめられている。


「私、先生が到着した時刻を正確には覚えていなくて……。記録には『連絡後、しばらくして到着』と書いたんですけど、これでよかったのかなと思ったんです」


 俺は記録を眺めた。


 確かに、俺たちは連絡札を使った時刻を厳密に確認していたわけではない。


 森の中では、周囲の安全を確かめることに意識が向いていた。


「正確な時刻が分からないなら、その書き方でいいと思うよ。無理に数字を入れるより、分からないって残しておく方が自然だし」


 ミリアは少し安心したように頷いた。


「そうですよね。セシリアさんも同じことを言ってくださったんです」


 セシリアは穏やかに微笑んだ。


「私も、時間までは覚えていませんから。曖昧な記憶を合わせて正確だったことにしてしまうより、そのまま残しておいた方がいいと思いました」


 俺は二人の言葉に頷いた。


 昨日の演習を通して、第四班は互いの意見を確認することに慣れてきた。


 それ自体は、よい変化だと思う。


 ただ、ここで俺は一つ気づいた。


(……そういえば、俺たち、昨日から記録の話ばっかりしてないか?)


 もちろん、必要なことではある。


 けれど、せっかく魔法学院へ通っているのだから、もう少し魔法の話もしたい。


 そんなことを考えていると、フィンが机の上に両手を置いた。


「そうだ! 今日の実技授業、何やるか知ってるか?」


 俺は顔を上げた。


「実技? 今日はセレナ先生の授業があったよね」


「そうそう。昨日はほとんど魔法を使わなかったからさ、今日は思いっきり使える内容だといいなって思って!」


 フィンの目が輝いている。


 どうやら、考えていることは俺と同じらしい。


 エリオットは時間割を確認しながら言った。


「今日は午後に魔法実技があるね。内容はまだ聞いていないけど、合同演習の翌日だから、あまり激しい訓練にはならないんじゃないかな」


「ええっ、そうなのか?」


 フィンは残念そうに眉を下げた。


 しかし、すぐに顔を上げる。


「でも、魔法を使えるなら何でもいいや。昨日は地面を見てる時間の方が長かったし!」


 その言葉に、俺たちは笑ってしまった。


 セシリアも楽しそうに笑いながら、少し考えるように首を傾げた。


「そういえば、セレナ先生は以前、魔法の強さだけでなく、使い方の工夫も大切だとおっしゃっていましたよね。今日はそういう授業かもしれません」


 ミリアはその言葉を聞き、興味深そうに頷いた。


「私も楽しみです。昨日の演習とは違う形で、皆さんと協力できるといいですね」


 俺は三人の顔を見回した。


 昨日は同じ班として森を歩いた仲間たちだが、今日は教室で普段通りに話している。


 それだけのことが、少し嬉しかった。


 合同演習が終わっても、俺たちの学院生活は続いていく。


 その当たり前の事実が、昨日までより少しだけ特別に感じられた。


     ◇


 午前の授業が始まると、リディア・フェルン先生が教室へ入ってきた。


 先生は教壇に立ち、学生たちの様子を見回してから、穏やかな声で話し始めた。


「皆さん、昨日の合同演習はお疲れさまでした。大きな怪我なく戻れたことを、まずは嬉しく思います」


 教室の空気が少し引き締まる。


「演習の正式な講評については、各班の記録と巡回教員の報告を確認してから行います。今日は通常の授業へ戻りますが、身体の痛みや疲労が残っている人は、無理をせず申し出てください」


 俺は自分の脚の状態を確かめた。


 多少の重さはあるが、歩くことに問題はない。


 隣のフィンも同じように足を動かし、特に気になる様子は見せなかった。


 リディア先生は出席を確認したあと、黒板へ今日の予定を書き始めた。


 午前は魔法理論と基礎歴史。


 午後は魔法実技。


 そして、実技授業の欄には小さく『属性応用・共同課題』と記されていた。


 その文字を見たフィンが、隣で小さく身を乗り出した。


「シュウ、見たか? 共同課題だって!」


「見たよ。どんなことするんだろうね」


「昨日みたいに歩くだけじゃないといいな!」


 フィンは期待を隠しきれない様子で笑った。


 俺も少し楽しみになってきた。


 六属性の通常魔法は学院で学んでいる範囲の技術として扱えるため、アルカディアの秘密を明かさずに使用できる。


 もちろん、周囲から見れば六属性を扱える時点で珍しいらしいのだが、それでも《禁書アルカディア》の能力とは別物だ。


(今日は普通に魔法を使えるといいな)


《マスター。普通、という表現には少々疑問がございます》


(何でだよ)


《六属性を扱う十七歳の学生が、普通の範囲に収まるかどうかは議論の余地がございます》


(……そこは今さらだろ)


《加えて、マスターには六つの心装武器、魔眼、召喚術、絶対破壊など、かつて設定された数々の能力が――》


(使わないからな! 授業でそんなもの出したら大騒ぎになるだろ!)


《承知しております。では、授業で使用する技名として『漆黒の支配者が奏でる六重奏』はいかがでしょうか》


(普通の属性魔法にまで黒歴史を持ち込むな!)


 俺は額を押さえそうになり、慌てて手を机へ戻した。


 その動きに気づいたエリオットが、少し心配そうにこちらを見る。


「シュウ、どうしたの? 頭でも痛い?」


「いや、大丈夫。ちょっと考え事してただけ」


「そう? 無理しないでね」


 俺は笑って頷いた。


 まったく、アルカディアと会話していると、何もないところで突然おかしな反応をしてしまいそうになる。


 周囲に怪しまれないようにするだけでも、結構な努力が必要だった。


     ◇


 午後の実技授業が行われたのは、学院の第二実技場だった。


 広い石畳の訓練場には、一定の間隔を空けて木製の台が並べられている。台の上には水の入った小さな容器、拳ほどの石、細い金属棒、そして手のひらに収まる程度の白い球体が置かれていた。


 どれも一見すると普通の道具に見えるが、白い球体だけは微弱な魔力を帯びている。


 俺は訓練場へ入った瞬間、その反応に気づいた。


(あれ、魔導具なのかな?)


《簡易的な魔力反応器具のようです。内部に小型の魔力伝導核が組み込まれております》


(へえ。今日はあれを使うのか)


《構造は比較的単純です。マスターであれば、より高性能なものを製作することも可能でしょう》


(いや、作らないからな。授業の道具を見ただけで改造しようとするなよ)


《かしこまりました。では、世界最高峰の魔導具製作者としての第一歩は、またの機会に》


(そんな第一歩、踏み出す予定ないんだけど!)


 俺は内心で突っ込みながら、指定された位置へ移動した。


 すでに多くの学生が集まっており、台の上に並べられた道具を興味深そうに眺めている。


 フィンは石を見つけると、早速目を輝かせた。


「おっ、土属性の課題かな? これなら俺、結構得意だぞ!」


 セシリアは水の入った容器へ目を向けた。


「水属性も関係しそうですね。でも、金属棒と白い球体は何に使うのでしょうか」


 ミリアは道具の配置をじっと観察している。


 彼女は少し考えたあと、小さく首を傾げた。


「球体には魔力があるようですけど、他の道具と直接つながっているわけではありませんね。何かを組み合わせる課題なのでしょうか」


 そのとき、訓練場の奥からセレナ・ヴァイス先生が歩いてきた。


 先生は学生たちの前で足を止め、手に持っていた薄い板を教壇代わりの台へ置いた。


「全員、揃ったようですね。今日は属性魔法の応用について学んでもらいます」


 学生たちの視線が先生へ集まる。


「魔法を扱ううえで、強い威力を出せることは確かに重要です。しかし、実際の生活や冒険では、必要な効果を必要な場所へ届ける技術も同じくらい大切になります」


 先生はそう説明すると、台の上に置かれた白い球体を一つ持ち上げた。


「これは《魔力応答球》と呼ばれる訓練用の魔導具です。一定の条件を満たした魔力が内部へ届くと、淡い光を放ちます」


 先生の指先からわずかな魔力が流れると、球体が柔らかな青色に輝いた。


 学生たちの間から感嘆の声が上がる。


「ただし、魔力を大量に流せばよいわけではありません。強すぎる魔力を受けると反応が不安定になり、一定時間、光を失います」


 先生は魔力を止め、球体を台へ戻した。


「今日の課題は、この球体を安定して発光させることです。ただし、球体へ直接魔力を流してはいけません。台の上にある道具を利用し、指定された経路を通して魔力を届けてください」


 俺は思わず台の上を見た。


 水、石、金属棒。


 そして、魔力応答球。


 どうやら、単純に属性魔法を放つだけでは済まないらしい。


 セレナ先生は学生たちの表情を見回し、少しだけ微笑んだ。


「なお、今日は二人一組で行います。使用する属性は自由ですが、魔力応答球を壊さないこと、周囲の台へ影響を与えないこと、そして互いの役割を相談して決めることが条件です」


 フィンが小さく拳を握った。


「よし、面白そう!」


 俺も思わず笑った。


 確かに、これは楽しそうだ。


 ただ魔法を撃つだけではなく、魔力の性質を考えて使う課題らしい。


 セレナ先生は組み合わせを指定し始めた。


 俺はエリオットと組むことになり、フィンはユリウスと、セシリアはミリアと組むことになった。


 フィンは少し意外そうにユリウスを見たが、すぐに笑顔を浮かべた。


「よろしくな、ユリウス! 俺、土属性なら結構得意だから!」


 ユリウスは落ち着いた表情で頷いた。


「よろしく。ただし、最初から大きく動かす必要はない。まず道具の性質を確認しよう」


「分かってるって! ……たぶん!」


 その返事に、ユリウスの眉がわずかに動いた。


 俺は思わず笑いそうになったが、隣のエリオットも同じように口元を押さえていた。


     ◇


 課題が始まると、実技場のあちこちで小さな魔法が使われ始めた。


 水の入った容器へ魔力を通そうとする学生、石の内部へ土属性の魔力を流す学生、金属棒を伝導体として利用しようとする学生など、方法はさまざまだった。


 俺たちの台にも、同じ道具が並べられている。


 エリオットはまず水の入った容器を持ち上げ、光へ透かすように眺めた。


「シュウ、これって普通の水に見えるけど、魔力を通しやすいように調整されてるのかな」


「どうだろう。見た感じは普通の水だけど……少なくとも、球体みたいな魔力反応はないね」


 俺は容器へ手をかざし、魔力の流れを確かめた。


 水そのものに特別な加工は感じられない。


 しかし、容器の底には細い溝があり、そこへ金属棒を固定できるようになっていた。


「エリオット、ここ見て。金属棒を差し込めるみたいだよ」


「本当だ。じゃあ、水と金属棒を組み合わせるのかな」


 エリオットは金属棒を持ち上げ、容器の底にある溝へ慎重に差し込んだ。


 棒の先端は水の中へ入り、反対側は容器の外へ伸びる。


 その先に魔力応答球を置けば、金属棒を通して魔力を届けられそうだった。


「まずは弱い水属性魔法で試してみようか」


 エリオットは俺へ確認し、俺が頷くと、容器の水へ手をかざした。


 彼の指先から淡い青色の魔力が流れ、水面に小さな波紋が広がる。


 水の中へ流れ込んだ魔力は、金属棒を伝ってゆっくりと球体へ向かった。


 しかし、球体は光らなかった。


 エリオットは魔力を止め、少し考えるように首を傾げた。


「うーん。届いていないのかな」


「いや、少しだけ反応はあったと思う。球体の内側に魔力が集まった感じがしたから」


 俺は球体を覗き込んだ。


 確かに、ほんの一瞬だけ内部の魔力が動いたように感じた。


 けれど、発光するほどではない。


「水を通すと、魔力が途中で広がっちゃうのかもしれないね」


 エリオットは水面へ目を向けた。


「なるほど。じゃあ、水の流れを細くまとめてみようか」


 彼は再び手をかざし、今度は水の中に細い渦を作った。


 魔力を含んだ水が金属棒の周囲へ集まり、ゆっくりと回転する。


 その状態で魔力を流すと、先ほどよりもはっきりした反応が球体へ届いた。


 白い表面に、淡い青色の光が浮かぶ。


「おっ、光った!」


 俺が思わず声を上げると、エリオットも嬉しそうに笑った。


「うん。でも、まだ少し弱いね」


 球体は光っているものの、明るさが安定していない。


 水の渦が少し乱れるたびに、光も弱くなってしまう。


 俺は台の上に置かれた石へ目を向けた。


「……これ、石を使えば水の動きを安定させられないかな」


 エリオットは少し考えた。


「石で? どうやって?」


「容器の中に小さな仕切りを作るんだよ。水が広がらないようにすれば、金属棒の周りへ魔力を集めやすくなると思う」


 俺は石を手に取り、形を確かめた。


 表面は少し粗く、土属性魔法で加工するにはちょうどよさそうだ。


 ただし、ここで大きな力を使う必要はない。


 俺は指先へごく少量の土属性魔力を集めた。


「じゃあ、ちょっとだけ形を変えてみるね」


 エリオットが頷いたのを確認し、俺は石の表面へ魔力を流した。


 石がゆっくりと形を変え、薄い弧を描く小さな板になる。


 それを容器の中へ置き、水の流れが金属棒の周囲へ集まるように調整した。


 エリオットは興味深そうにその様子を見ていた。


「すごいね、シュウ。土属性でもそんなに細かく加工できるんだ」


「いや、まだ練習中だよ。フィンの方がこういうのは得意だと思う」


 俺はそう答えながら、石の仕切りが容器の底へしっかり収まっていることを確認した。


 エリオットは再び水属性の魔力を流し始めた。


 今度は水の流れが広がらず、金属棒の周囲を安定して回転する。


 魔力応答球の内部へ青い光が集まり、先ほどよりも明るく輝いた。


「……できた!」


 エリオットが嬉しそうに声を上げた。


 俺も思わず笑った。


 球体は一定の明るさを保ち、柔らかな光を放っている。


 派手な魔法ではない。


 けれど、自分たちで考えた方法が上手くいったことが、思っていた以上に嬉しかった。


《マスター。たいへん見事な魔力制御でございます》


(ありがとう。今回は普通に褒めてくれるんだな)


《しかし、マスターの本来の能力を用いれば、球体を光らせるどころか、学院全体を発光させることも可能でしょう》


(そんなことしたら大事件だろ!)


《なお、旧設定には『暗黒皇帝が覚醒すると夜空に黒き太陽が昇る』という記述がございます》


(黒い太陽って、それもう光ってないだろ!)


 俺は内心で突っ込みながら、必死に表情を保った。


 隣ではエリオットが球体の光を見つめ、満足そうに微笑んでいる。


 その姿を見て、俺は少しだけ気持ちを落ち着けた。


 今は、目の前の課題に集中しよう。


 黒い太陽なんて、絶対に必要ない。


     ◇


 実技場の反対側では、フィンとユリウスが別の方法を試していた。


 フィンは石を土属性魔法で加工し、小さな筒状の部品を作っている。


 その横でユリウスは金属棒を持ち上げ、角度を確認していた。


「フィン、そこをもう少し細くできるか?」


「できるけど、細くしすぎると割れやすくなるぞ。これくらいじゃ駄目か?」


 フィンは加工した石をユリウスへ見せた。


 ユリウスはしばらく観察し、首を横へ振った。


「いや、その太さでいい。むしろ、内側の形を少し変えた方がよさそうだ」


「内側? どういうことだ?」


「魔力を通す方向を一定にしたい。外側の形より、内部の通り道を整えた方が効果があると思う」


 フィンは少し考えたあと、納得したように頷いた。


「なるほどな。じゃあ、俺が石を加工するから、ユリウスは魔力の流れを見てくれよ」


 ユリウスは頷き、金属棒を石の中へ差し込んだ。


 二人は互いの得意な属性を使いながら、少しずつ形を調整していく。


 その様子を見ていたセレナ先生は、静かに頷いた。


 フィンは以前なら、自分の得意な土属性魔法で一気に形を作ろうとしていたかもしれない。


 しかし、今はユリウスの意見を聞き、何度も確認しながら加工している。


 その変化は、先生にも伝わっていたようだった。


 一方、セシリアとミリアの組では、少し違う問題が起きていた。


 セシリアは水属性魔法で魔力を流していたが、球体がほとんど反応しなかったのだ。


 ミリアは道具の配置を見つめ、しばらく考えてから口を開いた。


「セシリアさん、少しだけ試してみたいことがあります」


「何でしょう?」


「水を使うこと自体は間違っていないと思うんです。でも、球体へ届く前に魔力が弱くなっているなら、途中で別の属性を重ねると変化するかもしれません」


 セシリアは興味深そうに頷いた。


「なるほど。どの属性を使ってみましょうか」


 ミリアは少し迷ったあと、球体へ目を向けた。


「光属性なら、魔力の反応を確認しやすいかもしれません。ただ、強く流すと球体が不安定になるので、ほんの少しだけで」


 セシリアは微笑んだ。


「分かりました。では、私が水属性を維持しながら、光属性を少しだけ加えてみますね。ミリアさんは球体の変化を見ていてください」


 ミリアは頷き、球体の前へ少し身を寄せた。


 セシリアの指先から淡い青色の魔力が流れ、水面に静かな波紋が広がる。


 そこへ柔らかな光属性の魔力が重なると、水の中に細かな輝きが生まれた。


 魔力は金属棒を伝って球体へ届き、白い表面がゆっくりと光り始める。


「……光りました!」


 ミリアが思わず声を上げた。


 セシリアも嬉しそうに笑った。


 しかし、球体の光はまだ少し不安定だった。


 ミリアはすぐにその変化へ気づき、セシリアへ伝えた。


「セシリアさん、少しだけ光が強くなったあと、弱くなっています。光属性の量を減らした方がいいかもしれません」


「分かりました。少しずつ調整してみますね」


 セシリアは魔力を弱め、球体の様子を確認した。


 すると、光の揺れが徐々に収まり、安定した明るさへ変わっていった。


 ミリアはほっとしたように息を吐き、セシリアへ微笑んだ。


「できましたね」


「はい。ミリアさんが変化に気づいてくださったおかげです」


 セシリアはそう言って、嬉しそうに笑った。


 ミリアも少し照れくさそうに微笑み返した。


 昨日の演習で培った信頼が、今日の魔法実技にも自然につながっている。


 その光景を少し離れた場所から見ていた俺は、なんとなく嬉しくなった。


     ◇


 実技授業が終盤に差しかかったころ、セレナ先生は各組の成果を確認して回っていた。


 魔力応答球を安定して光らせられた組もあれば、途中で魔力が強くなりすぎて球体の反応を失った組もある。


 先生は成功した組だけを褒めるのではなく、どのような方法を試したのか、何を考えて調整したのかを丁寧に聞いていた。


 俺たちのところへ来ると、先生は台の上に置かれた石の仕切りを見つめた。


「なるほど。水属性の魔力を金属棒へ集めるために、土属性で流路を作ったのですね」


「はい。最初は水だけで試したんですけど、魔力が広がってしまったので」


 エリオットが説明すると、先生は頷いた。


「よい工夫です。水属性の制御だけで解決しようとせず、別の属性を補助に使った点も評価できます」


 俺は少し安心した。


 先生は石の仕切りを持ち上げ、内側の形を確かめた。


「ただし、ここはもう少し滑らかに加工できるとよいですね。水の流れにわずかな乱れが生じています」


 俺はその部分を覗き込んだ。


 確かに、石の内側に小さな段差が残っている。


 魔力応答球を光らせることはできたが、まだ改善できる部分があるらしい。


「分かりました。次に作るときは気をつけます」


 俺が答えると、先生は穏やかに微笑んだ。


「アルヴェイン君は多くの属性を扱えますが、それぞれを丁寧に使うことも忘れないでください。強い魔力があるからこそ、細かな制御が重要になります」


「はい」


 俺は素直に頷いた。


 その言葉は、思っていた以上に胸へ残った。


 確かに、俺はアルカディアの力を使えば、多くのことを簡単に解決できる。


 けれど、それに頼らず普通の魔法を使うと、まだ知らないことや練習が必要なことがたくさんある。


 それは、少し悔しくもあり、同時に面白くもあった。


(……やっぱり、魔法って奥が深いな)


《そのとおりです、マスター。魔法の本質を理解することは、いかなる力を持つ者にとっても重要でございます》


(珍しく真面目なこと言うな)


《なお、旧設定におけるマスターは『魔法の理を超越した存在』と記されております》


(せっかくいい話だったのに!)


 俺は内心で突っ込みながら、先生の説明へ意識を戻した。


 セレナ先生は他の組の成果も確認したあと、学生たちを集めた。


「今日の課題では、同じ道具を使っていても、組によって異なる方法が生まれました。これは、とてもよいことです」


 先生は実技場の中央へ立ち、学生たちを見回した。


「魔法には、必ずしも一つの正解しか存在しないわけではありません。必要な効果を得るために、どの属性を使い、どのように組み合わせるか。その選択が、魔法を扱う者の技術になります」


 俺はその言葉を聞き、少し考えた。


 同じ球体を光らせるだけでも、俺たちとフィンたち、セシリアたちでは方法が違っていた。


 それぞれの得意な属性や考え方が、結果に表れている。


 もし、俺が一人で六属性を使っていたら、もっと簡単に光らせることができたかもしれない。


 しかし、エリオットと相談しながら方法を考えたことで、自分一人では気づかなかったこともあった。


 その経験は、昨日の合同演習で感じたことにも少し似ていた。


 ただし、今回は危険な森の中ではなく、魔法を使う楽しさの中でそれを実感できた。


 俺は小さく笑った。


 やっぱり、こういう授業は好きだ。


     ◇


 授業が終わり、学生たちが実技場を出始めたころ、フィンが俺たちのところへ駆け寄ってきた。


「シュウ! 見たか? 俺たちの球体、最後は結構明るく光ったんだぞ!」


 フィンは嬉しそうに笑っている。


 隣にはユリウスが歩いていたが、こちらはいつも通り落ち着いた表情だった。


「見たよ。石の形、かなり細かく作ってたよね」


 俺が答えると、フィンは得意げに胸を張った。


「そうなんだよ! 最初は外側ばっかり気にしてたんだけど、ユリウスが内側の通り道を整えた方がいいって教えてくれてさ」


 ユリウスは少しだけ眉を上げた。


「教えたというより、提案しただけだ。実際に加工したのはフィンだからな」


「いやいや、あの提案がなかったら思いつかなかったって!」


 二人のやり取りを見て、俺は思わず笑った。


 フィンとユリウスは、性格だけを見ればあまり似ていない。


 フィンは思ったことをすぐに口へ出し、行動も早い。


 一方、ユリウスは慎重に考え、必要なことを簡潔に伝えるタイプだ。


 けれど、今日の実技では、その違いが上手くかみ合っていたようだった。


 エリオットも穏やかに笑った。


「二人とも、いい組み合わせだったんだね」


「そうだろ? また組んでもいいくらいだ!」


 フィンが笑うと、ユリウスは少し考えたあと、小さく頷いた。


「次に組むなら、最初から加工する前に設計を決めておきたいな」


「お、おう。そこは頑張る!」


 俺たちは声を上げて笑った。


 そのとき、少し離れた場所からセシリアとミリアが歩いてきた。


 二人も課題を終えたようで、穏やかな表情をしている。


「皆さん、お疲れさまでした」


 セシリアが声をかけると、フィンがすぐに振り返った。


「お疲れ! そっちはどうだった?」


「最後は安定して光らせることができました。ミリアさんが細かな変化を見てくださったので、調整しやすかったです」


 ミリアは少し照れくさそうに微笑んだ。


「私は、セシリアさんが丁寧に魔力を調整してくださったおかげだと思います」


 俺は二人の様子を見て、自然と笑顔になった。


 昨日の合同演習で同じ班だった四人が、今日は別々の組で魔法を使っている。


 それでも、互いの成果を聞き、喜び合える関係になっている。


 そのことが、少し嬉しかった。


 フィンは満足そうに腕を組んだ。


「やっぱり、魔法を使う授業は楽しいな! 昨日の演習も大事だったけど、俺はこっちの方が好きかもしれない」


 俺は思わず頷いた。


「正直、俺もそうかも」


 セシリアは小さく笑った。


「ふふ。でも、昨日の経験があったからこそ、今日の共同課題でも相談しやすかったのかもしれませんね」


 ミリアも頷いた。


「はい。私も、以前より自分の考えを伝えやすくなった気がします」


 俺は三人の顔を見回した。


 昨日の演習で得たものが、今日の授業にもつながっている。


 それは、きっと悪いことではない。


 ただ、同じことを何度も確認するだけではなく、こうして新しい経験へ進んでいけることが、今は何より嬉しかった。


     ◇


 夕方、授業を終えて寮へ戻る途中、俺は学院の図書館の前で足を止めた。


 大きな石造りの建物は、夕日を受けて柔らかな金色に染まっている。高い窓の向こうには本棚の影が見え、出入り口からは数人の学生が本を抱えて出てきていた。


 俺は少し考えた。


 昨日の合同演習が終わり、今日から通常の授業へ戻った。


 これまで調べていた北方の古い記録についても、そろそろ続きを確認したい。


 特に、『北部保持材研究録』は第六章まで読んだところで止まっている。


 第七章には、まだ確認していない内容が残っていたはずだ。


(……今日は少しだけ寄ってみようかな)


 そう考えたところで、隣を歩いていたエリオットが俺の視線に気づいた。


「シュウ、図書館に寄る?」


「うん。ちょっと気になってる本があってさ。時間があれば、続きを確認しておきたいなって」


 エリオットは少し考えたあと、頷いた。


「いいね。僕も少し調べたいことがあるし、一緒に行こうか」


「ありがとう。じゃあ、少しだけ寄っていこう」


 俺たちは図書館へ向かって歩き始めた。


 扉を開けると、紙と古い木材の匂いが漂ってくる。


 高い天井まで続く本棚の間には静かな空気が流れ、奥の閲覧席では何人かの学生が本を読んでいた。


 受付には、司書のマティアス・レンが座っている。


 彼は俺たちの姿を見ると、穏やかに顔を上げた。


「こんにちは。今日は何かお探しですか?」


「こんにちは。以前読んでいた『北部保持材研究録』の続きを確認したくて」


 俺が答えると、マティアスは少し考えるように目を細めた。


「ああ、あの研究録ですね。閲覧室の資料棚にありますよ。以前と同じ場所です」


「ありがとうございます」


 俺たちは礼を言い、閲覧室へ向かった。


 棚には古い研究資料が整然と並べられている。


 俺は目的の本を見つけ、慎重に取り出した。


 表紙には長い年月を感じさせる擦れがあり、頁の端は少し黄ばんでいる。


 エリオットは隣の席へ腰を下ろし、別の資料を開いた。


 俺も椅子へ座り、『北部保持材研究録』を机の上へ置いた。


 以前読んだ部分を軽く確認し、第七章の始まりを探す。


 頁をめくる音が、静かな閲覧室に小さく響いた。


(……さて、何が書いてあるんだろう)


 俺は少しだけ期待しながら、章の見出しへ目を向けた。


 そこには、古い書体で次のように記されていた。


『第七章 保持材の交換記録と、再使用に関する注意』


 俺は思わず姿勢を正した。


 保持材の交換記録。


 再使用に関する注意。


 これまで調べてきた白材や導材、古い物資記録と、何か比較できる部分があるかもしれない。


 もちろん、この研究録に書かれていることが、そのまま北方の森の謎へつながるとは限らない。


 資料の年代も用途も、まだ慎重に確認する必要がある。


 それでも、今まで読んでいなかった部分に、確かめる価値のある情報が残っていることは確かだった。


 俺は頁の端を押さえ、ゆっくりと本文を読み始めた。


《マスター。新たな調査の開始でございますね》


(うん。今日は少しだけ読むつもりだけど)


《承知しました。なお、旧設定における禁書の第七章には、『世界の終焉を告げる真名』が記されております》


(……今読んでるのは普通の研究録だからな?)


《もちろん理解しております。ただ、第七章という響きに、少々懐かしさを覚えまして》


(そんなところで懐かしがるなよ)


 俺は小さく息を吐き、笑いそうになるのを堪えた。


 アルカディアは今日も相変わらずだった。


 けれど、その声を聞きながら古い本を開いていると、不思議と落ち着く。


 魔法学院での生活は、前世の俺が想像していたような派手な事件ばかりではない。


 友人と笑い、授業で失敗し、少しずつ魔法を覚え、気になることを調べていく。


 その一つ一つが、今の俺にとって大切な時間になっていた。


 俺は改めて頁へ目を落とし、古い研究者が残した文章を追い始めた。


 窓の外では、夕日がゆっくりと傾いている。


 静かな図書館の中で、俺たちの調査もまた、少しずつ次の段階へ進もうとしていた。

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