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『黒歴史ノートが異世界で最強の魔導書になっていました』  作者: 伊佐波瑞樹


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第67話 合同演習の班分けで、いつもの五人が別々になりました


 黒い魔力の観測予定が決まった翌朝、王立魔法学院の第一男子寮三百十七号室では、いつもより少し早くエリオットが目を覚ましていた。


 窓の外は薄曇りで、昨夜のうちに降ったらしい雨が中庭の石畳を濡らしている。雨そのものはすでに止んでいたが、植え込みの葉先には水滴が残り、朝の風が吹くたびに小さな雫が地面へ落ちていた。


 シュウ・アルヴェインが寝台から身体を起こすと、エリオットは机に向かって教科書を開いていた。


「おはよう、エリオット。ずいぶん早いな」


「おはよう。昨日の土属性の練習で気になったところがあったから、忘れないうちに書いておこうと思って」


 エリオットは振り返り、机の上に広げたノートを軽く持ち上げた。そこには昨日の実技で行った水属性から風属性、そして土属性への切り替えについて、本人なりの感覚が細かく書き込まれている。


「昨日、シュウに言われた通り、最初から大きな形を作ろうとしなかったら安定しただろ? でも、どうして安定したのか、自分でもちゃんと説明できるようにしておきたくて」


「それはいいと思う。俺も先生に言われて気づいたけど、他人の魔力の感覚って、見てるだけじゃ全部は分からないからな」


 シュウが答えると、エリオットは少し嬉しそうに笑った。


「うん。だから次は、シュウに教えてもらう前に自分で気づけるようになりたいんだ」


 その言葉には、昨日までとは少し違う前向きさがあった。


 エリオットはもともと努力を嫌う性格ではない。けれど、得意な水や風と比べて土属性が上手く扱えないことについては、以前からどこか苦手意識を抱いていた。


 昨日の小さな成功は、その気持ちを少し変えたらしい。


(こういうの、いいな)


 シュウは制服へ着替えながら、友人の横顔を見た。


 誰かが自分の力で少しずつ上達していく姿を見るのは、思っていた以上に嬉しい。


 自分の魔力量や適性がどうであれ、エリオットにはエリオットの成長がある。


 そして、その成長を隣で見られることが、シュウにはありがたかった。


「そういえば、今日は合同演習の班分けが発表されるかもしれないね」


 エリオットがノートを閉じながら言った。


「昨日は後日発表って言ってたけど、もう決まったのかな」


「どうだろう。でも、演習は来週だし、そろそろ準備する時間が必要だよな」


「同じ班になれるといいね」


 エリオットは何気ない調子で言った。


 シュウも頷いたものの、昨日リディアが説明していた内容を思い出す。


 今回はクラスをまたいだ班編成もある。


 普段一緒に過ごしている五人が、そのまま同じ班になるとは限らない。


「もし別々になっても、終わったあとに感想を聞かせてくれよ」


「もちろん。シュウもね」


 二人はそう約束して、朝食へ向かった。


     ◇


 午前の授業では、魔力を使った簡易的な位置確認と、周囲の状況を記録する方法について学んだ。


 担当したのはガルド・ベイルで、普段よりも大きな地形図を黒板の横へ掲げていた。


「来週の合同演習では、指定された確認地点を順番に回ることになる。だが、目印があるからといって、周囲を見ずに進めばいいというものではない」


 ガルドは地形図の一部を指し、そこに描かれた細い道を示した。


「例えば、この地点へ向かう場合、最短距離を進めば早く到着できる。しかし途中に足場の悪い場所があれば、班員全員が安全に通れるとは限らない。そういうとき、何を優先する?」


 何人かの学生が手を挙げた。


 シュウも考えたが、最初に指名されたのは別の学生だった。


「安全な経路を選びます」


「その通りだ。ただし、安全な経路が一つしかないとは限らん。状況を確認し、班の能力に合わせて判断することが重要になる」


 ガルドは地形図へ別の線を引き、少し遠回りになる道を示した。


「魔法を使えば通れる場所でも、必ず使うべきとは限らない。魔力を消耗してまで近道をする意味があるかどうか、考える必要がある」


 シュウはその説明を聞きながら、北の森での出来事を思い返していた。


 あのときも、魔法で何とかできることと、無理に手を出すべきではないことがあった。


 黒い土や根に対して普通の光魔法を使っても、完全に浄化できるわけではなかった。


 力があるからといって、何でも解決できるわけではない。


(合同演習でも、そこは大事になりそうだな)


 シュウは講義ノートへ注意点を書き込んだ。


 最短距離が最善とは限らない。


 魔法の使用は目的ではなく手段。


 班員全員の状態を確認する。


 自分だけが進めても意味はない。


 最後の一行を書いたところで、隣のエリオットが小さく頷いた。


「これ、結構難しそうだね」


「うん。でも面白そうだ」


「シュウは魔法で道を作れそうだけど、今回はそういうのも控えた方がいいかもしれないね」


「そうだな。俺が全部やったら、班で協力する演習にならないし」


 エリオットは少し笑った。


「それ、ちゃんと覚えておいてね」


「信用ないなあ」


「信用はしてるよ。ただ、シュウはできることが多いから、つい自分でやろうとしそうなんだ」


 その言葉に、シュウはすぐには反論できなかった。


 確かに、何か問題が起きたとき、自分が魔法で対処できるなら先に動こうとしてしまうかもしれない。


 けれど、合同演習で求められているのは、一人で何でも解決することではない。


「分かった。今回はちゃんと周りを見る」


「うん。それなら大丈夫」


 エリオットは満足そうに頷き、再び黒板へ視線を戻した。


     ◇


 昼休み、五人が食堂へ集まると、ダンは朝から合同演習の話で盛り上がっていた。


「俺、絶対に先頭を歩く役がいい!」


 席へ着くなりそう宣言したダンに、セシリアが少し困ったように笑った。


「まだ班分けも決まっていませんよ。それに、先頭を歩く人がずっと同じとは限りません」


「そうなのか?」


「地形や課題によって、得意な人が前へ出た方がいい場合もあると思います」


 セシリアは水差しから杯へ水を注ぎながら続けた。


「例えば、魔力反応を調べる場所なら観察が得意な人が先に確認した方がいいでしょうし、足場が悪い場所なら安全を確かめられる人が必要になるかもしれません」


「なるほどな。じゃあ俺は、危ない場所で前に出る役だな」


「危ない場所へ真っ先に突っ込む役じゃないからな」


 シュウが言うと、ダンは不満そうに眉を寄せた。


「分かってるって! ちゃんと安全確認するよ」


「それならいいけど」


 ユリウスは食事を進めながら、静かに口を開いた。


「今回の演習、観察記録も評価されるらしいよ」


「記録?」


 ダンが露骨に嫌そうな顔をした。


「魔法使うだけじゃないのか?」


「昨日の説明で言ってた。確認地点ごとに、見つけたものと判断した理由を記録するって」


 シュウは頷いた。


「確かに、調査と安全確保の演習だからな。何を見て、どう判断したかが大事なんだろ」


「じゃあユリウス向きじゃん」


「記録だけならね。でも、実際に動くときは別の人の判断も必要になる」


 ユリウスは落ち着いた声で答えた。


 ダンは少し考え、それから笑った。


「じゃあ、俺が前を見て、ユリウスが記録して、シュウが魔法使えば完璧だな!」


「エリオットとセシリアは?」


 シュウが尋ねると、ダンは一瞬固まった。


「……補助?」


「雑すぎるだろ!」


 エリオットが笑い、セシリアも肩を揺らした。


「そもそも同じ班になるとは限らないんですから、今から役割を決めても仕方ありませんよ」


「それもそうか」


 ダンはあっさり頷き、目の前の料理へ手を伸ばした。


 シュウはその様子を見ながら、ふと考えた。


 五人で一緒にいる時間は長い。


 けれど、いつも同じ組み合わせで行動することが、必ずしも成長につながるとは限らない。


 別の学生と協力すれば、自分たちが気づかなかった得意分野や考え方を知ることができるかもしれない。


(それも学院で学ぶ意味の一つなんだろうな)


 シュウはそう思いながら、昼食を続けた。


     ◇


 午後の授業が終わると、リディアが教室へ入ってきた。


 手には昨日よりも厚い書類の束を持っている。


「皆さん、合同演習の班編成が決まりましたので発表します」


 教室の空気が一気にざわめいた。


 学生たちは互いに顔を見合わせ、誰と同じ班になるのかを気にしている。


 シュウも自然とエリオットへ視線を向けた。


 エリオットは少し期待したように笑っている。


「今回の班は、異なるクラスの学生を組み合わせています。普段の友人関係や成績だけで決めたものではありません」


 リディアはそう説明してから、黒板へ班番号と学生名を書き始めた。


 第一班。


 第二班。


 第三班。


 名前が増えるたび、教室のあちこちから小さな声が上がる。


 シュウは自分の名前を探しながら、黒板を見つめていた。


 そして、第四班のところで目を止めた。


『第四班

シュウ・アルヴェイン

セシリア・ノール

フィン・ラデル

ミリア・ハーゼン』


「……あれ?」


 シュウは思わず小さく声を漏らした。


 エリオットが隣から覗き込む。


「シュウ、第四班だね」


「うん。セシリアと一緒だ」


「僕は……あ、第二班だ」


 エリオットは黒板の別の場所を指した。


 第二班には、エリオットのほかにユリウスの名前もあった。


 残る二人は別クラスの学生で、シュウにはまだほとんど話したことのない相手だった。


「エリオットとユリウスが一緒か」


「そうみたい」


 さらに黒板を確認すると、ダンは第六班に入っていた。


 いつもの五人は、三つの班へ分かれることになったらしい。


 シュウは少し意外に思ったものの、すぐに納得した。


 クラスをまたいだ編成なのだから、こうなる可能性は十分にあった。


「シュウ、ミリアさんと同じ班だね」


 エリオットが小声で言った。


「そうだな」


 ミリア・ハーゼン。


 その名前を見た瞬間、シュウの頭には北方調査で出てきたハーゼン家の記録が浮かんだ。


 ただし、ミリア本人がどこまで家の古い事情を知っているのかは分からない。


 今回の合同演習は授業であり、北方調査とは関係がない。


(変に結びつけるのはやめよう)


 シュウはそう考え、黒板へ視線を戻した。


 ミリアと同じ班になったからといって、家の秘密を聞き出す機会だと思うべきではない。


 まずは同じ班の学生として、きちんと協力することが大切だ。


     ◇


 班編成の発表が終わると、リディアは各班へ簡単な説明書を配った。


「来週の演習までに、班員同士で一度話し合いをしてください。役割を固定する必要はありませんが、それぞれの得意分野と苦手分野を把握しておくことを勧めます」


 シュウは配られた紙を受け取り、内容を確認した。


 演習の目的。


 安全規則。


 確認地点で行う基本的な作業。


 そして、班員同士の連絡方法。


 どれも昨日の説明を補足する内容だった。


「それから、今回の演習では、班長を一人決めてもらいます。ただし、班長がすべてを決定するわけではありません。必要なときに意見をまとめ、教員へ報告する役割です」


 その説明を聞いた瞬間、教室のあちこちで学生たちが顔を見合わせた。


 班長。


 誰がやるのか。


 シュウは少し考えた。


 自分がやってもいい。


 しかし、他の班員が希望するかもしれない。


 そもそも、まだ全員と話していない。


 今ここで決める必要はなかった。


 リディアは最後に、班ごとの顔合わせは放課後に行っても構わないと伝えた。


 シュウは説明書を鞄へ収め、第四班の学生たちを探すことにした。


     ◇


 教室を出ると、廊下の端でセシリアが待っていた。


「シュウさん、同じ班ですね」


「うん。よろしく、セシリア」


「こちらこそ。フィンさんとミリアさんにも声をかけて、少しだけ話しておきませんか?」


「そうだな。班長も決めないといけないし」


 シュウが頷くと、セシリアは安心したように微笑んだ。


 ほどなくして、フィン・ラデルが近づいてきた。


 フィンは同じ三組の学生で、火と土の魔法を得意としている。


「アルヴェイン、ノールさん。第四班だったよな」


「うん。よろしく、フィン」


「こちらこそ。正直、アルヴェインが同じ班でちょっと安心した」


 フィンはそう言ってから、少し照れくさそうに笑った。


「魔法の制御、かなり上手いだろ。俺、火属性は得意だけど、細かい調整はまだ苦手なんだ」


「俺も全部できるわけじゃないよ。今回の演習は班で協力するのが目的だし」


「そう言ってもらえると助かる」


 三人が話していると、少し離れたところから声がした。


「第四班の方々ですか?」


 振り返ると、ミリア・ハーゼンが立っていた。


 落ち着いた雰囲気の少女で、制服の着こなしも整っている。


 シュウは以前から彼女の名前を知っていたが、長く話したことは多くない。


「うん。俺がシュウ・アルヴェイン。よろしく」


「ミリア・ハーゼンです。こちらこそ、よろしくお願いします」


 ミリアは丁寧に頭を下げた。


 セシリアとフィンも挨拶を交わす。


 四人は廊下の端にある小さな談話スペースへ移動し、空いていた卓を囲んだ。


 窓の外では、雲の切れ間から午後の光が差し込んでいる。


 ほかの班もあちこちで顔合わせをしているらしく、廊下には普段より多くの学生が集まっていた。


「まず、得意なことを確認しておきましょうか」


 セシリアが提案した。


「そうだな。じゃあ俺から」


 シュウは少し考え、自分の得意分野を説明した。


「基本属性は一通り扱える。魔力量には余裕がある方だと思うけど、今回の演習では必要以上に魔法を使わないようにしたい」


 フィンが少し驚いた顔をする。


「一通りって、五属性全部か?」


「うん。ただ、得意不得意が全くないってわけじゃないし、何でも俺がやるつもりはないよ」


 シュウが答えると、フィンは感心したように頷いた。


「やっぱりすごいな。でも、それなら状況に合わせて動けそうだ」


 続いてセシリアが口を開いた。


「私は水と光の制御が比較的得意です。補助術式にも興味がありますが、実際に人の動きへ合わせる練習はまだ十分ではありません」


「それなら今回、いい練習になりそうだね」


 シュウが言うと、セシリアは嬉しそうに頷いた。


 フィンは火と土の魔法が得意で、特に土属性を使った足場の確認や簡単な地形補助に興味があるという。


 ただし、火属性の出力を細かく抑えることにはまだ課題があるらしい。


 最後にミリアが話し始めた。


「私は、魔力反応の変化を観察することが比較的得意です。大きな魔法を使うより、周囲の状態を確認し、記録する方が向いていると思います」


 シュウは少し興味を引かれた。


「観察が得意なんだ?」


「はい。家でも古い記録を読む機会がありましたので、細かな違いを確認することには慣れています」


 その言葉に、シュウの意識がわずかに動いた。


 ハーゼン家。


 古い記録。


 北方調査で見つかった名前と、どうしても重なる。


 だが、ミリアが言っているのは一般的な記録の話かもしれない。


 ここで北方の古い役務へ話を広げる理由はない。


「それなら、確認地点の記録をお願いする場面があるかもしれないね」


 シュウが答えると、ミリアは穏やかに微笑んだ。


「はい。必要ならお手伝いします」


 四人はそのあと、班長を誰にするか話し合った。


 フィンは自分よりもシュウの方が向いていると言い、セシリアもシュウなら全体を見ながら判断できそうだと考えているようだった。


 しかし、シュウはすぐに引き受けるのではなく、ミリアの意見も聞いた。


「ミリアはどう思う?」


「私は、アルヴェインさんが適任だと思います。ただし、班長が一人ですべてを抱える必要はありません」


 ミリアは少し考えてから続けた。


「今回の演習では、誰かが判断を間違えそうになったとき、ほかの人が意見を言えることも大切だと思います」


 シュウはその言葉に頷いた。


「うん。それなら俺が班長をやるよ。でも、みんな遠慮なく意見を言ってほしい」


「もちろんです」


 セシリアが笑う。


 フィンも力強く頷いた。


「任せろ。危ないと思ったらちゃんと言う」


 ミリアも静かに頭を下げた。


「よろしくお願いします」


 こうして第四班の班長はシュウに決まった。


     ◇


 顔合わせが終わったあと、シュウはセシリアと一緒に中庭へ出た。


 フィンは別の授業の課題を確認するため教室へ戻り、ミリアも用事があると言って先に別れた。


 夕方の風は少し冷たくなっていたが、雨上がりの空気には草木の匂いが残っている。


「班長、引き受けてくれてありがとうございます」


 セシリアが言った。


「いや、みんながいいって言ってくれたから。俺もやってみようと思って」


「シュウさんなら、きっと大丈夫だと思います」


「そうかな」


「はい。でも、全部一人でやろうとしないでくださいね」


 その言葉に、シュウは思わず笑った。


「エリオットにも似たようなこと言われた」


「そうなんですか?」


「うん。俺ができることが多いからって、つい自分でやろうとするかもしれないって」


 セシリアは少し考え、それから穏やかに頷いた。


「エリオットさんの言うこと、分かる気がします」


「やっぱり?」


「シュウさんは困っている人を見ると、すぐに助けようとしますから。それは素敵なことですけど、相手が自分でできることまで全部代わってしまうと、少し違うのかもしれません」


 シュウはその言葉を聞きながら、昨日のエリオットの土属性練習を思い出した。


 自分が代わりに土を動かすことは簡単だった。


 けれど、それではエリオットの練習にならない。


 今回の合同演習も同じなのだろう。


「そうだな。今回は、みんなが自分の得意なことを使えるようにしたい」


 シュウが答えると、セシリアは嬉しそうに微笑んだ。


「私も、できることを頑張ります」


 二人はそこで別れ、それぞれの寮へ向かった。


     ◇


 夕食時、五人が集まると、話題は当然のように班分けになった。


「俺、第六班だった!」


 ダンが勢いよく言った。


「知ってるよ。黒板に書いてあっただろ」


 シュウが答えると、ダンは笑った。


「まあな。でも、同じ班のやつらと話してきたんだよ。結構面白そうな連中だった」


「よかったじゃないか」


「うん。俺、班長じゃないけど、前衛の役をやることになりそうだ」


 ダンは楽しそうに話し始めた。


 彼の班には、魔力反応の観察が得意な学生と、補助魔法を得意とする学生がいるらしい。


 そのため、ダンは周囲の安全確認や移動時の先導を担当する可能性が高いという。


「ただ、勝手に先へ行くなって釘刺された」


「当然だろ」


 シュウが言うと、ダンは少し不満そうに頬を膨らませた。


「分かってるって。今回はちゃんと班で動くよ」


 エリオットは第二班について話した。


 ユリウスと同じ班になったものの、残る二人とはほとんど話したことがなかったらしい。


「でも、話してみたら結構いい人たちだったよ。僕は水と風を使った補助を担当することになりそう」


「僕は記録と経路確認かな」


 ユリウスが続けた。


「ただ、役割は固定しないつもり。状況によって変えた方がいいだろうし」


 シュウは頷いた。


 それぞれの班が、少しずつ準備を始めている。


 五人が別々になったことで、普段とは違う経験ができそうだった。


「シュウの班はどうなんだ?」


 ダンが尋ねる。


「俺が班長になった。セシリアとフィン、それからミリア・ハーゼンが一緒」


「おお、班長か!」


 ダンは目を輝かせた。


「じゃあ、シュウが全部指示するんだな!」


「違う違う。意見をまとめる役だよ。みんなで判断する」


「なるほどな」


 セシリアが微笑んだ。


「シュウさん、ちゃんと皆さんの得意分野を確認してくれましたよ」


「へえ。さすがだな」


 エリオットは少し楽しそうに笑った。


「でも、全部自分でやらないようにね」


「今日それ何回言われるんだよ!」


 五人の間に笑いが広がった。


     ◇


 夜、三百十七号室へ戻ったシュウは、合同演習の説明書を机へ広げた。


 第四班の構成。


 班長は自分。


 セシリアは水と光の制御、補助術式。


 フィンは火と土、特に地形に関する補助へ関心がある。


 ミリアは魔力反応の観察と記録が得意。


 そして、自分は複数属性を扱えるが、だからといってすべてを引き受けるべきではない。


 シュウはそれぞれの特徴を整理しながら、演習当日のことを考えた。


(まずはみんなが何をできるか、ちゃんと見ないとな)


 班長として必要なのは、強い魔法を使うことだけではない。


 周囲の状況を確認し、誰が何をするべきかを考える。


 そして、自分の判断が間違っているかもしれないときには、ほかの班員の意見を聞く。


 それが今回の演習で学ぶべきことなのだろう。


 シュウは説明書を閉じ、明日の授業の準備を始めた。


 黒い魔力の観測までは、あと二日。


 合同演習は来週。


 予定が少しずつ増えてきたが、どちらも急いで結果を出す必要はない。


 まずは目の前の授業を大切にする。


 そのうえで、準備できることを一つずつ進めればいい。


《マスター》


 アルカディアの声が響いた。


(何だよ)


《合同演習の班長に就任されたそうですね》


(そうだけど)


《おめでとうございます。ついにマスターが部隊を率いる日が来ました》


(ただの授業だからな)


《かつてのマスターは、暗黒帝国の十三軍団を統率する最高司令官という設定でした》


(また十三かよ!)


《はい。なお、十三軍団のうち、正式に名称が設定されているのは第一軍団のみです》


(残り十二軍団は!?)


《未設定です》


(予想通りすぎる!)


 シュウは思わず額を押さえた。


《さらに、第一軍団の構成人数は百万人と記載されています》


(多すぎるだろ!)


《しかし、所属人物として名前が記されているのはマスター一名のみです》


(俺一人で百万人分!?)


《設定資料には「全員が俺の命令を絶対に聞く」とあります》


(そりゃ俺しかいないならそうなるだろ!)


 シュウは深いため息をついた。


 エリオットが顔を上げる。


「今度は何?」


「昔の俺が、百万人の軍団を率いる最高司令官だったらしい」


「すごいね」


「でも名前があるのは俺だけ」


「じゃあ一人?」


「そう」


 エリオットは少し考え、それから笑った。


「今回の第四班は四人いるから、昔よりずっといいね」


「比較対象がおかしいんだよ!」


 シュウが抗議すると、エリオットは楽しそうに笑い続けた。


 アルカディアも淡々と続ける。


《なお、軍団長の心得として「すべての部下を信じ、すべての部下を守り、すべての部下より強くあれ」と記載されています》


 シュウは少しだけ動きを止めた。


 中学生のころの自分が考えた、恥ずかしい設定。


 その中にも、今の自分が大切にしたいと思える言葉が混じっている。


 もちろん、百万人の軍団を率いるつもりはない。


 誰よりも強くなって、すべてを一人で解決したいわけでもない。


 けれど、仲間を信じることと、仲間を守ろうとすること。


 その二つは、今の自分にも必要なものだと思えた。


(……まあ、全部が全部、恥ずかしいだけじゃないのかもな)


 シュウはそう考え、少し笑った。


 第四班の班長として迎える合同演習。


 いつもの五人とは違う組み合わせで、どんな経験ができるのか。


 まだ分からないことは多い。


 それでも、少し楽しみだった。


 シュウは机の上の説明書を丁寧に畳み、鞄へ収めた。


 明日も授業がある。


 黒い魔力の観測も近づいている。


 そして来週には、初めての合同演習が待っている。


 北の森の謎を追う時間とは別に、学院での生活も確かに前へ進んでいた。


 シュウはそのことを嬉しく思いながら、部屋の灯りを落とした。

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