暗黒階層へ
着てきた私服を脱ぎ、翼が用意した寝間着に着替える。私服は翼が保管するため、荷物も含めて翼に渡す。
ギアを頭につけ、ギアのコードをUSBに接続する。接続すると、私のバイタル等がディスプレイに表示された。それと同じく、右腕にバンドが巻かれる。これは睡眠薬の効力が切れた際に、電気で意識を回復させるための装置のようだ。
「これで準備ができたわね。さぁ、早くこれを飲んで、急いで『暗黒階層』に行くわよ」
3人がそれぞれ睡眠薬を服薬し、しばらくして眠りにつく。私も彼女達を見て薬を飲む。寝不足だったのか、眠りに着くには時間がかからなかった。
眠ってから少しして、私は意識がはっきりすると電子の海にいた。どうやら意識が『電脳世界』に向かっているみたいだ。そして、私はブリュンヒルデと『リンク』をした状態で、『電脳世界』に入ったのだった。
「また来たみたいね」
『電脳世界』に入ると、周囲に『アバター』の人混みができていた。私はその中で仲間達を探す。そして、美生達が私のことを待っていたかのように待機していた。
「遅いわよ。もう、飲むに躊躇するんだから」
「得体の知れない薬を飲むには躊躇がいるわよ。それで? 『暗黒階層』へはどう行けばいいの?」
3人と合流する。彼女達は私よりも『電脳世界』へ行っているので、わかりやすいところで待機していたようだ。
「ここから飛び降りて『深層階層』へと向かう。そしてさらに奥まで進んで『暗黒階層』に進んでいくわ。そこで本題の『商人X』のネット上の痕跡を掴むわ」
美生がウィンドウを展開しながら、作戦を説明する。『電脳世界』を氷山に例えて表示し、黒く表示されているのが件の『暗黒階層』のようだ。
そこで『商人X』の履歴等のネット上の情報を掴むというのが今回の作戦だ。リミットは12時間。時間としては充分あるが、『暗黒階層』では何が起きるかはわからない。極めて危険な領域に足を踏み入れるので、相応な準備は必要だ。
「準備はいい?」
「あぁ、こっちはいつでもOKだ」
美生が先頭にたち、『ウィングユニット』を展開させて『電脳世界』の上空を飛ぶ。それに続くように、私たちも『ウィングユニット』を展開させ空を飛ぶ。急降下で奈落に落ちる。雲のような靄が晴れると、そこは深海のような光景だった。まるで日中でも光が通らない深淵の世界だ。
そこでは不思議と『アバター』達が娯楽を楽しんだり、仕事をしていたりと多種多様だ。
「まるで裏世界ね。上とは全然違うわ」
「ここは『深層階層』。会員制のコンテンツやパスワードが必要なサイトなどがここに属するわ。金さえ払えばこういったコンテンツも楽しめて、パスワードを設定していると、情報が漏れたりしないわ。まぁその中でもやばい代物もあるけどね」
「うちのサーバーもここにあるんだぜ? まぁ、どういうものは開示しないがな」
「こういう光景は『ブレイバー』だけの特権みたいなものだからね。普通の人間は、まずこういった領域には足を踏み入れられないよ」
美生に案内されるように、『深層階層』の中を進んでいく。地上に降りると、多種多様な『アバター』が周囲を徘徊している。美生は間髪入れずに再び飛び出す。
「『暗黒階層』はまだ下よ。ここからまだ降りるわ」
美生に案内されるように、青白い靄の中に入る。そして、徐々に靄が黒くなり、『暗黒階層』へと近づいて行くことを直感で感じる。
『深層階層』の中でも重大な機密が眠っている区域のようだ。
「ここが『深層階層』の中でもかなりな情報が詰まっている区間よ。漏洩したら一発で企業が終わるほどの情報が眠っているの。ここから情報を抜き取ろうとするのよほどのバカね。それだけにセキュリティも厳重よ」
美生が説明しながらまだ深くへと降りている。すると、ウィンドウから警告を示すアラートが表示される。
「そろそろ近づいてきたわね。いよいよ『暗黒階層』へ入るわ」
美生が着陸がすると、禍々しいオーラを放つ門の前に立つ。そして、全員に玉ねぎのようなバリアを展開する。
「これは?」
「『onion』よ。これで匿名性が高くなって、逆探知されにくくなるわ」
「こうもしておかないと何があった時にはもう手遅れになっているかもしれないしね。さて、そろそろいい?」
アリスの言葉に私と香里奈は振り向く。
「あぁ、いつでも行けるぜ」
「『暗黒階層』……。おぞましさはあると思っていたけど、まさかここまでとはね」
私達は大門を眺める。ここに入ると、何が起きるかはまるで把握できない不毛地帯だ。
そう思っていると、美生が『暗黒階層』へのアクセスを完了させる。
「さぁ、アクセスが終わったわ。ここから先は文字どおり不毛地帯。PCでさえ危険極まりない場所だから、ここではそれよりも危険よ」
「こっちはいつでも行けるわ。さぁ行きましょう」
アクセスが完了し、私達はついに『暗黒階層』へと足を踏み入れる。しばらく何もない空間を歩いているうちに、周囲が赤黒くなって行く。
そして、視界が晴れると、そこは赤黒く禍々しい空間だった。
「ここが『暗黒階層』……。ゲームでいうところの魔界そのものね」
「あぁ、それだけじゃない。ここに住むウィルスどもは『現実世界』よりも凶暴だ。油断していると死ぬぞ?」
「私も初めてきたけど、直感でここは危険だと言っているね」
私達はそれぞれ危険を直感で感じる。これまで感じた事のない重圧を背中で感じる。
そして、私達は不毛地帯へと足を踏み入れるのだった。




