テロに蝕まれていく日常
翌日になった。アリスのことが気になり、充分な睡眠が取れなかった。おかげでコレクションしている古い映画を数本ほど見ているうちに朝になった。
不思議と睡魔がこない。『ブレイバー』になってから常に頭に中の回転が早かったせいか、目が冴えている。カフェインを摂取していないのに、この冴え具合は異常だ。
『充分な睡眠を取れてないわ。今日は日中に仮眠をすることをお勧めするわ』
「そうね。気になることがあると、眠れなくなるのは勘弁して欲しいわ」
顔を洗うため、ベッドから起きる。リビングに行くと、彩葉は起きていない。それにまだ時刻は6時だ。普段は彩葉が朝食を作るので、たまには私が作ってもいいだろう。
顔を洗い終えると、キッチンに行き朝食の準備をする。オーソドックスな物にしよう。熱したフライパンに油を引き、ハムと卵を乗せる。トースターに食パンをいれ、タイマーをセットする。サラダも作り、コーヒーを淹れる。ここ最近は香里奈の家で紅茶を嗜むことが多いが、コーヒーも悪くない。朝食を作っていると、彩葉が起きてきた。
「おはよう、お姉ちゃん。珍しく早起きだね」
「おはよう彩葉。なんか寝付けなくてね」
「どうしたの?」
「いや、目が冴えて寝れなかったっというかなんていうか」
「いつもならゆっくり寝てるのに。そういう時もあるよね」
彩葉は私が淹れたコーヒーを飲む。フライパンからハムエッグを皿に移す。トースターからトーストを取ると、それも皿に移しバターとジャムをテーブルに置く。
朝食を取りながら、タブレットでニュースをみる。ニュースの一面は、今朝カンナギ市の住居に変死した男性2名の遺体がそれぞれの住居で発見されたそうだ。
トーストを食べながらそのニュースを眺めていると、あることが浮かんできた。だが、今は彩葉がいるので、考えるのはやめておこう。朝食を終えると、彩葉が食器を洗う。そして、彩葉は着替えて出かける。
その間に私は香里奈からのチャットをみる。今日は少し迎えが遅れるそうだ。
「ごめんお姉ちゃん。今日は泊まって行くよ」
「どうして?」
「今日はね、友達とみっちり勉強するの。早く終わったら帰るけど、念のために」
「いいわよ、たまには。私は1人でも大丈夫よ」
彩葉は安心したかのように家を出る。私は彩葉を見送ると、コーヒーを淹れ直す。そして、タブレットを開き、例のニュースをみる。
「ブリュンヒルデ、これもやはり?」
『『悪性アバター』絡みと見ていいわね。恐らくはハッカーが何かしらの準備をした結果、ナノマシンによって死んだと見ていいわね』
「何をしたかったのやら。『商人X』か絡んでる可能性は?」
『無きにしも非ずね。『悪性アバター』をダークウェブで購入したか。あるいはヤクザに借金の肩に埋め込まれたか。死んでしまった以上、わからないわね』
ブリュンヒルデにニュースの状況を解析させる。私が寝ていた間にハッカー絡みの事件が起きていたようだ。それよりも気になるのは『商人X』だ。やつの目的は一体なんなのか、今だにつかめていない。それなのにここ最近はサイバーテロが、この街を中心に頻発して発生している。一刻も早く止めないと、自体はどんどん悪くなる。
それとは別に、アリスの様子も気になる。彼女のあの浮かない顔を一体なんなのか、本人に直接聞くしかなさそうだ。
こうして時間を過ごしていると、迎えのリムジンが来た。鞄を持って家を出るとリムジンのドアが開き、リムジンに乗る。中に入ると美生とアリスがすでに乗っていた。
「おはよう。珍しく眠そうだね」
「おはよう。なんか寝付けなくてね」
3人で他愛もない会話をする。しばらくは話しながらカンナギ市の風景を車窓から眺める。ふとアリスの顔を見ると、やはり昨日と同じ浮かない顔をしていた。
しばらくリムジンで過ごしていると、瀬戸内グループ本社に到着する。リムジンから降りると、珍しく翼が迎えてくれていた。
「お待ちしておりました。さぁ、香里奈様がお待ちです」
「珍しいわね。あなたが出迎えてくれるなんて」
翼は私たちを香里奈の住んでいるスペースに案内する。エレベーターを降りると、香里奈がタブレットを片手に車椅子で出迎えた。
「遅れてごめんなさい。株主達と話し合いをしていてね」
「問題ないよ。そっちが大変そうだし仕方ないよ」
私たちはそれぞれ卓に着く。座っていると、翼がアフタヌーンティーを用意し、それぞれに紅茶を淹れる。
「単刀直入にいうけど、『暗黒階層』に行こうと思うわ」
「何をいきなり?」
「ここ最近のテロ行為の頻発さに、株主のジジイどもが頭を悩ましているのよ。それに、そろそろ奴の足を掴まないと厄介だし」
「『商人X』ね。これだけのことを起こしてるかもしれないのに、まだ足すら掴めてなかったわね。いい加減次のステップにいかないとやばいわ」
紅茶を嗜みながら、『商人X』について話し合う。すると、香里奈は薬をテーブルに置く。
「奴の足を掴む為に、『電脳世界』に入るわ。この薬には服用すると12時間寝ることができる。翼には起きてナビしてもらって、私達はここでギアをつけて寝る。その間に『暗黒階層』に入って奴の足を掴む為のデータを取りにいく。4人で行くから、問題はないだろうけど、身の危険を感じたら即『表面階層』に帰還するわ」
「お薬で12時間は寝ているから起きられないからね。3時間おきに帰還して翼や美生ちゃんに解析させて、あたりかどうか調べてもらうしかないね」
「あの時の私はどちらかていうと戦闘向きだけど、翼にだけ負担をかけるわけにはいかないしね。容量の大きいものは私がするよ」
3人が淡々と作戦を話し合う。まるで私が蚊帳の外にいるみたいだ。
「なら、案内してくれる? その『暗黒階層』とやらに」
3人は振り向き頷く。そして、紅茶を飲み終えると寝室に向かう。
私達は『商人X』の動向を掴むため、『暗黒階層』に向かうのだった。




