第3話 悪魔の島の夜 ―序列と疑念―
島の沈みかけた太陽。
赤い光が、全員の顔を不気味に照らす。
「……暗くなる前に動くぞ」
直人が言う。
「水と食料、最低限確保する」
「賛成」
彩花が頷く。
慎吾も周囲を見る。
「落ち着け、まだ大丈夫だ」
その時。
マルコが前に出る。
「¡Escuchen! ¡Necesitamos organizarnos ahora mismo!」
(聞け!今すぐ統率が必要だ!)
……沈黙。
「……え?」
拓海が固まる。
「なんて?」
マルコは苛立つ。
「¡Agua! ¡Refugio! ¡Disciplina!」
(水だ!避難所だ!規律だ!)
「……いや全然わかんねぇ」
ざわつく学生たち。
マルコは地面に棒で図を描く。
「Aquí. Fuego. Aquí, agua.」
(ここに火、ここに水)
必死に説明する。
だが。
「……えーと……火?」
拓海が首をかしげる。
「いや、なんか違うだろ」
直人が不機嫌に言う。
マルコが苛立ちを露わにする。
「¡¿Por qué no entienden?!」
(なぜ理解しない!?)
声が大きくなる。
「¡Si no cooperamos, vamos a morir!」
(協力しなければ全員死ぬぞ!)
だが。
誰も理解できない。
沈黙。
その沈黙が、マルコをさらに苛立たせる。
「……チッ」
直人が吐き捨てる。
「何言ってるか分かんねえ奴に従う気はねえ」
空気が凍る。
直人が一歩前へ。
「いいか、俺たちは俺たちで動く」
「生き残ることだけ考えろ」
学生たちが頷く。
一方。
マルコは怒りを抑えきれない。
「¡Idiotas…!」
(愚か者ども…!)
「¡Sin disciplina están muertos!」
(規律がなければ死ぬぞ!)
ハンナが肩をすくめる。
「They don’t understand you.」
マルコは拳を握る。
「……」
全員が同時に話し始める。
「とりあえず火だろ!」
「水探せって!」
「No, we need shelter!」
「¡Agua primero!」
「Non capisco!」
「Qu’est-ce qu’on fait!?」
多言語がぶつかる。
意味が通じない。
声だけが大きくなる。
誰も、他の国の言葉も理解できない。
リディアが呟く。
「…This is collapsing.」
(崩壊している)
ナディアが震える。
「No coordination…」
(統率が取れてない…)
島の夜
日が沈む。
闇。
焚き火の光だけが揺れる。
静かすぎる。
「……音がしない」
彩花が言う。
「普通じゃない」
慎吾が答える。
その時。
恵が震える。
「……ねえ……聞こえる……?」
「え?」
美和が顔を上げる。
森の奥。
塔が光る。
ドクン。
ドクン。
脈打つ。
生きているように。
「……なんだよ……あれ……」
誰も動けない。
その時
美和の耳に。
声
――おいで――
「……っ……」
「……美和?」
慎吾が気づく。
「今……聞こえた……」
――こちらへ――
「……呼んでる……」
「誰が?」
美和は、ゆっくりと塔を指差す。
「……あれが……」
背筋が凍る。
焚き火。
言葉の壁。
分裂した人間たち。
そして。
光る塔。
マルコは歯を食いしばる。
「……Esto va a ser un infierno.」
(……これは地獄になる)
慎吾は理解する。
この島では。
力でも、知識でもない。
“理解できる者”だけが生き残る。




