第4話 直人脱出編、通電実験
悪魔の島の朝。
空は薄く曇っている。
風は弱い。
海は静かすぎる。
浜辺。
直人はすでに動いていた。
銅線を引く。
発電所から持ち出した配線。
切断し、延長し、繋ぐ。
帆船の側面へ。
そして。
先端を、海へ垂らす。
チャプン……
水に触れる。
直人は振り返る。
背後。
簡易的な電源装置。
発電所から持ち出した部品を組んだもの。
完全ではない。
だが
「流れる」
確信している。
「……やるか」
スイッチ代わりの接続部。
金属同士を接触させる。
カチッ。
――ジジジジ……
微かな音。
水面が揺れる。
電流が流れている。
見えない。
だが確かに、そこにある。
直人はじっと海を見る。
呼吸は一定。
感情はない。
ただ観察。
数秒。
何も起きない。
その時。
水面の下。
黒い影。
スッ……
一匹。
現れる。
魔サメ。
巨大。
明らかに異常なサイズ。
ゆっくりと。
こちらへ近づく。
直人は動かない。
ただ、見る。
魔サメが。
電流の範囲に入る。
その瞬間。
ビクンッ!!
体が跳ねる。
急停止。
方向転換。
逃げる。
「……」
直人の目が細くなる。
さらに。
もう一匹。
別方向から接近。
同じ結果。
接触。
ビクンッ!!
逃げる。
直人が小さく呟く。
「……効いてる」
ロレンチーニ器官。
電気感知。
本能的回避。
理論通り。
一歩、前へ出る。
「これで――」
言いかけた、その時。
海が、止まる。
ピタリ、と。
波が消える。
風もない。
音もない。
「……?」
違和感。
直人の眉がわずかに動く。
その瞬間。
――ズンッ……
海の奥。
何かが動く。
“影”じゃない。
“塊”水面が、盛り上がる。
ボコ……
ボコ……
空気が押し出される。
直人の目が、初めて揺れる。
「……なんだ……?」
次の瞬間。
――ドォンッ!!!
海が爆発する。
巨大な黒い塊が、浮上する。
魔サメ。
だが。
さっきの個体とは、違う。
桁が違う。
大きすぎる。
帆船が、小さく見える。
その目は赤い。
完全に“こちらを見ている”。
そして。
動かない。
電流の中にいるのに。
逃げない。
「……効いてない?」
否定。
即座に思考。
「違う」
見ている。
感じている。
その上で“無視している”
次の瞬間。
口が開く。
巨大な顎。
歯。
並ぶ刃。
――バチィィィィ!!!
電流が走る。
水面が弾ける。
だが止まらない。
ズンッ……
一歩。
近づく。
直人が下がる。
初めて。
“危険”を認識する。
「……個体差か」
冷静に分析する。
だが。
その結論は、遅い。
魔サメが、さらに前進。
電流を突っ切る。
バチバチバチッ!!!
火花。
水が沸く。
だが。
止まらない。
そして止まる。
直人の前。
数メートル。
見ている。
完全に沈黙。
数秒。
そして、ゆっくりと。
方向を変える。
去っていく。
ザバァ……
深く潜る。
消える。
静寂。
何もなかったかのように。
直人は立ったまま。
動かない。
数秒後。
小さく呟く。
「……効く個体と」
「効かない個体がいる」
顔を上げる。
塔を見る。
光。
変わらない。
だが。
また。
ドクン……
脈打つ。
直人の目が鋭くなる。
「……選んでるのか?」
仮説が変わる。
・魔シャチ・魔サメは敵
・電気で防げる
ではない。
「……テストされてる」
海を見る。
さっきの場所。
何もいない。
だが。
確実に“何かが違う”
直人は言い切る。
「……まだ足りない」
電圧。
範囲。
持続。
すべて強化が必要。
「もっと出力を上げる」
即断。
だがその時。
塔の光が一瞬だけ、強くなる。
まるで
“次の段階へ来い”と誘うように。




