第1話 直人脱出編、塔の光
悪魔の島の夜。
森は、静かすぎた。
まるで世界が“止まっている”。
直人は、一人で立っていた。
血の匂い。
叫び。
死。
すべては、過去の情報。
「……一人か」
感情は、出てこない。
必要なのは――判断。
直人は顔を上げる。
森の向こう。
黒い空を貫くように立つ、一本の影。
巨大な塔。
そして光。
暗闇の中で、異様に光っている。
揺れない。
弱まらない。
一定。
直人の目が細くなる。
「……電気だ」
即断。
火じゃない。
反射でもない。
電気で発光している。
自然ではない。
思考が、加速する。
塔 → 光 → 電力。
「この島に……発電施設がある」
その瞬間。
海の記憶が蘇る。
水面。
黒い影。
そして一瞬で消えた人間。
直人の視線が鋭くなる。
「……シャチやサメは電気を感知する」
ロレンチーニ器官。
微弱な電流すら拾う感覚器。
「小電流で……回避行動を取る」
漁業対策。
サメ除け装置。
「電気の刺激を与えれば、やつらは近づかない」
さらに。
「乾電池でも逃げる例がある」
水中に流れる電流。
それだけで“本能的に避ける”
直人の脳内で、線が繋がる。
・電源 → 塔
・媒体 → 海水
・対象 → 魔サメ・魔シャチ
「……できる」
一歩、前に出る。
「電気で“海を制御できる”」
戦う必要はない。
倒す必要もない。
近づけなければいい。
口元が、わずかに歪む。
「これは……できる」
・電圧
・範囲
・持続時間
すべて、組める。
「この島は閉じてる」
空も死。
森も死。
海も死。
「なら――」
塔を見る。
光は、変わらない。
ずっとそこにある。
「そのルールを使えばいい」
直人は断言する。
「攻略できる」
初めて。
はっきりとした“勝ち筋”が見えた。
「この島は……攻略できる」
恐怖はない。
あるのは確信。
「発電機を手に入れる」
「海を封じる」
「脱出する」
すべてが繋がった。
「生き残ることだけ考えろ」
低く呟く。
そして歩き出す。
塔へ。
だが、途中で足が止まる。
「……違う」
視線が、地面へ落ちる。
「電源があるなら……必ず“通ってる”」
送電。
供給。
電気は、流れている。
つまり
「ケーブルがあるはずだ」
直人はしゃがみ込む。
土に触れる。
指でなぞる。
湿った地面。
踏み荒らされた痕。
そして
「……あった」
細い溝。
不自然に一直線。
人工的なライン。
草が、そこだけわずかに枯れている。
「埋設か」
土の下に通されたケーブル。
間違いない。
「これを辿ればいい」
発電所へ。
その時。
塔の光がわずかに、脈打った。
ドクン。
心臓のように。
直人は顔を上げる。
「……監視してるのか?」
答えはない。
だが。
関係ない。
「関係ない」
低く吐き捨てる。
「使うだけだ」
直人は立ち上がる。
そして。
その“線”に沿って森へ入る。
闇の中へ。
一歩。
また一歩。
静かな森。だがその奥で。
“何か”が、確かに動いていた。
それでも直人は止まらない。
もう迷いはない。
悪魔の島の攻略は始まった。




