第6話 直人・慎吾編、 対立(思想の分岐点)
悪魔の島の森の奥。
倒木の陰に、四人は身を潜めていた。
息が荒い。
まだ、あの“恐竜の足音”が耳に残っている。
ズン……ズン……
慎吾が顔を上げる。
「……もう追ってこない」
直人は周囲を確認する。
「だが安全じゃない」
短く、鋭い声。
空気が張り詰める。
沈黙を破ったのは美和だった。
「……塔に行こう」
全員が彼女を見る。
その目。
もう迷いがない。
「行かなきゃ……終わる」
直人が即座に否定する。
「ダメだ」
「逆だ」
一歩前に出る。
「脱出だ」
「ここから離れる方法を探す」
慎吾が口を開く。
「でも――」
直人が遮る。
「ここは“場所”だ」
「場所から離れれば、生き残れる」
彩花が小さく呟く。
「……それ、本当に?」
直人が睨む。
「何が言いたい」
彩花は地面を見る。
震える指。
だが、言う。
「……この島、普通じゃない」
「地形も、生物も、時間も……全部ズレてる」
顔を上げる。
「“外に出れば解決”っていう前提が……成立してない」
沈黙。
直人の目が細くなる。
「じゃあ、何だ」
彩花が答える。
「……中心を潰すしかない」
その言葉“塔”。
慎吾が頷く。
「俺もそう思う」
直人が睨む。
「お前までか」
慎吾は一歩踏み出す。
「逃げても終わらない」
「この島そのものが問題なら――」
「原因を叩くしかない」
直人が吐き捨てる。
「理想論だ」
「そんな保証はどこにもない」
慎吾が言い返す。
「脱出だって保証ないだろ!」
空気が、ぶつかる。
完全な対立。
美和が、静かに言う。
「……塔が、呼んでる」
三人が振り向く。
美和の瞳。
どこか遠くを見ている。
「……近づいてる」
「時間がない」
慎吾が息を呑む。
「……何が起きる」
美和は首を振る。
「わからない……でも」
強く言う。
「終わる」
その一言。
空気が凍る。
直人が怒鳴る。
「そんな曖昧なもので動けるか!!」
拳を握る。
「俺たちは生き残るんだ!!」
「確率が高い方を選ぶ!!あの塔にも化け物がいるかもしれない。」
慎吾も叫ぶ。
「それで何人死んだ!!」
直人が止まる。
一瞬。
「……必要な犠牲だ」
冷たい答え。
慎吾の表情が変わる。
「……違う」
「それは“切り捨て”だ」
直人の目が鋭くなる。
「同じだ」
「生き残るためには、切る」
沈黙。
価値観が、完全に分かれる。
その時。
彩花が口を開く。
「……私、塔に行く」
直人が驚く。
「お前……」
彩花は震えている。
だが、言う。
「理屈じゃ説明できない」
「でも……」
一度、目を閉じる。
「今まで“説明できること”だけ信じてきた」
開く。
強い目。
「それで……何も守れなかった」
静寂。
直人が、ゆっくりと笑う。
冷たい笑み。
「……馬鹿だな」
「全員まとめて死ぬぞ」
慎吾が言う。
「それでも行く」
美和が頷く。
「……うん」
彩花も。
「……行く」
三人は一つの方向。
直人だけが違う。
沈黙。
風が吹く。
森がざわめく。
遠くに塔。
黒い影。
直人が言う。
「……俺は行かない」
慎吾が見る。
「直人……」
直人は背を向ける。
「生き残る道を選ぶ」
「それだけだ」
一歩、離れる。
完全に分かれる。
美和が小さく言う。
「……これが、分岐点」
慎吾は頷く。
「……ああ」
直人は振り返らない。
歩き出す。
一人で。
残された三人。
塔を見上げる。
それは希望か、絶望か。
合理か、直感か。
生存か、意味か。
この瞬間、彼らは“同じ仲間”ではなくなった。
直人・慎吾編 完
つづく




