第5話 直人、慎吾編、巨大な捕食生物
悪魔の島の森。
重い空気。
湿った熱。
そして“静かすぎる”。
彩花が足を止める。
「……おかしい」
慎吾が周囲を見る。
「生き物の音がない……」
鳥も。虫も。動物も。
何もいない。
美和が震える。
「……来る」
その瞬間。
ズン――
地面が揺れる。
一歩。
ズン……ッ
また一歩。
ズン――
直人の顔が変わる。
「……デカい」
ズンッ!!
衝撃。
空気が押し潰される。
そして森の奥。
木々が“横に倒れる”。
なぎ倒される。
見えない何かに。
「……嘘だろ」
慎吾が呟く。
現れた。
巨大な影。
それは“恐竜”。
いや巨大な捕食者。
体長10メートルを超える巨体。
筋肉の塊。
尾が揺れるだけで木が折れる。
頭部。
巨大な顎。
並ぶ牙。
一本一本がナイフのように鋭い。
巨大な目。
だが“狙っている”。
完全な捕食者。
恐竜の頂点。
ティラノサウルス。
「……ッ!!」
美和が息を呑む。
その瞬間。
視線が合う。
終わりだ。
ドォンッ!!!
走る。
爆発的な加速。
巨体が信じられない速度で迫る。
「走れ!!」
直人が叫ぶ。
全員が弾かれたように動く。
地面を蹴る。
枝を踏み砕く。
後ろ。
ズンッ!!ズンッ!!ズンッ!!
迫る。
速い。
速すぎる。
「右だ!!」
バラバラ。
それぞれが逃げる。
統率はない。
ただ本能。
その時。
「――っ!?」
巨体。
枝が、肩に当たって折れる。
幹が、こすれて軋む。
その存在自体が、森を“通れない”。
だから――
森の方が、壊れる。
頭部が現れる。
巨大な顎。
並ぶ牙。
一本一本が、腕ほどの長さ。
湿った息が漏れる。
「……ッ」
慎吾が息を呑む。
直人が低く言う。
「動くな」
だが。
その目。
暗闇の中で、光る。
“見ている”。
完全に。
捕食者の目。
逃げ場を、探している目ではない。
“決めている目”。
その時。
ギシ……
小さな音。
木の幹の中。
空洞。
そこに――
カタリナ。
息を殺している。
目を見開いたまま。
動かない。
動けない。
(大丈夫……見つからない……)
その瞬間。
ピタッ……
止まる。
ティラノサウルスの動きが。
完全に。
静止。
空気が凍る。
次の瞬間
ズンッ!!
頭が、木に叩きつけられる。
バキィッ!!!
幹が、割れる。
内部が露出する。
カタリナの目と“目”が合う。
時間が止まる。
「……ッ!!」
声にならない。
顎が、開く。
ギギギ……
音が鳴る。
ありえないほど、開く。
木ごと。
空洞ごと。
“まとめて”飲み込む。
バキンッ!!
木が折れる。
ティラノサウルスの顎が開く。
バキンッ!!
噛み砕く。
血が、弾ける。
地面に叩きつけられる。
咀嚼。
ぐしゃり、と音がする。
命の終わり。
一瞬だった。
慎吾が立ち止まりかける。
「……助け――」
その腕を、直人が掴む。
「助けるな!!走れ!!」
強く。
引きずるように。
慎吾が叫ぶ。
「でも!!」
直人の目。
冷たい。
「死ぬぞ」
その一言。
絶対の現実。
後ろでまた音。
ズンッ!!
捕食は終わった。
次を探している。
彩花が叫ぶ。
「来る!!」
再び地面が震える。
直人が判断する。
「散開!!」
全員が別方向へ。
慎吾は迷う。
美和を見る。
「こっち!!」
森の奥細い道。
慎吾が走る。
直人も。
彩花も。
枝が顔を打つ。
息が切れる。
それでも止まらない。
後ろ。
ズン……ズン……
だが。
距離が離れる。
やがて。
音が遠ざかる。
静寂。
止まる。
誰も喋らない。
呼吸だけが響く。
慎吾が膝をつく。
「……っ……」
吐きそうになる。
彩花が震える声で言う。
「……今の……」
「何……?」
直人が答える。
「捕食者だ」
それだけ。
美和が、小さく呟く。
「食べられた…………」
沈黙。
慎吾が顔を上げる。
「……カタリナ……」
直人は、振り向かない。
「死んだ」
即答。
感情がない。
慎吾が睨む。
「……お前」
直人が言う。
「助けてたら」
一瞬、間を置く。
「全員死んでた」
正論。
だが冷酷。
慎吾は何も言えない。
言えないが。
納得もできない。
彩花が、静かに言う。
「……これが現実」
「選ばないと、死ぬ」
美和だけが違う。
「……違うよ」
小さく。
だが、はっきり。
「こんなの……」
「違う……」
直人が言う。
「生き残ることだけ考えろ」
その言葉。
もう以前とは違う。
重い冷たい
決定的に。
この瞬間。
直人は完全に変わった。
“仲間”ではなく。
“生存率”で判断する存在へ。
そして4人は理解する。
この島では迷った者から死ぬ
塔は、まだ遠い。
だが確実に。
彼らは“人間”から離れていく。
■カタリナ 死亡
■生存者:5名
■行方不明:1名 ハンナ




