第8話 沈む海
悪魔の島の朝。
プテラノドンは1日だけ16名もの生存者の
腹を満たした。
焼けるような空腹
現在の生存者16名。
誰もが無言だった。
「もう……限界だ」
直人が低く言う。
唾を飲み込む音が、やけに大きい。
慎吾が海を見る。
「……やるしかない」
彩花が頷く。
「リスクは承知。でも、動かない方が死ぬ」
マルコが腕を組む。
「…Sí. Comer o morir.」(食うか死ぬかだ)
誰にも通じない。
だが、意味だけは伝わる。
海岸へ潮風の匂い
波は穏やかだった。
まるで何もないように。
それが逆に、不気味だった。
「浅瀬だけだ」
慎吾が言う。
「絶対に深いとこ行くな」
ハンナが頷く。
「Stay close!」
数人が海に入る。
冷たい水。
希望。
「魚いる……!」
エリーナが声を上げる。
小さな影が泳ぐ。
その瞬間――
カサッ
違う。
これは、海の音じゃない。
「……?」
水面の下“何か”が、いる。
次の瞬間。
――ドンッ!!
「うわっ!?」
水が爆ぜる。
黒い影。
巨大な顎。
「サメ……!?」
違う。
でかすぎる。
速すぎる。
バシャァァァァァッ!!!
ナディアの足元が消えた。
「え?」
引きずられる。
一瞬で。
「助け――」
水中へ。
バキッ
骨の折れる音。
水面が、赤く染まる。
「逃げろおおおお!!」
直人が叫ぶ。
全員、岸へ。
だが。
終わらない。
ドンッ!!
今度は横。
ダニエル。
「Wait—」
ガブッ!!
腰から下が消える。
引き込まれる。
泡。
血。
「NOOOOO!!」
マルコが叫ぶ。
「¡Atrás! ¡ATRÁS!」(下がれ!)
意味は通じない。
だが恐怖は伝わる。
全員が岸へ、転がる。
「はぁっ……はぁっ……」
呼吸。
震え。
終わったか?
――違う。
海が、静かすぎる。
リディアが呟く。
「……まだいる……」
その時。
波が、不自然に引いた。
「……なんだ……?」
慎吾が呟く。
次の瞬間。
――ドォンッ!!!
海が“爆発”した。
巨大な黒い影が、
空を割るように飛び出した。
「なっ……!?」
それは――
シャチ。
だが。
異常な大きさ。
目が、赤い。
狂っている。
「……嘘だろ……」
ハンナが息を呑む。
「No way…」
だが、それは現実。
そして――
止まらない。
一直線に、陸へ。
「逃げろ!!」
誰かが叫ぶ。
間に合わない。
ズドォォォン!!!
大地が揺れる。
砂が吹き飛ぶ。
魔シャチが
浜辺に乗り上げた。
オルカアタックだ。
「うわあああああ!!」
その口が開く。
巨大な牙。
真っ黒な喉。
目の前にいたエリーナ。
「What!」
ガバァッ!!
丸ごと、消えた。
「……NO……」
噛み砕く音。
骨。
血。
叫びは、途中で途切れた。
「後ろだ!!まだ来る!!」
二体目。
三体目。
海から、次々と。
「嘘だろおおおお!!」
完全なパニック。
走る。
転ぶ。
叫ぶ。
誰も指示を聞かない。
魔シャチが、体をくねらせる。
ズズズッ……
自らの巨体を引きずり、
び海へ戻ろうとする。
その口にはまだ動く“それ”。
「やめろおおおお!!」
マルコが叫ぶ。
「¡Malditos monstruos!)」(化け物どもが!)
届かない。
海へ。
引きずられる。
赤い跡だけが残る。
波に、消える。
「……無理だ……」
慎吾が膝をつく。
「海も……ダメだ……」
彩花の声が震える。
「逃げ場……ない……」
直人が歯を食いしばる。
「ふざけんなよ……!!」
空。
森。
海。
全部が敵。
リディアが言う。
「この島は……閉じてる」
「外に出る道を……全部潰してる」
美和が、海を見る。
「……聞こえる……」
「え?」
「……帰るなって……言ってる……」
波が揺れる。
まるで。
島そのものが、笑っているように。
海は、命を繋ぐ場所ではない。
命を奪う“罠”だった。
ナディア・カーン 死亡
ダニエル・オーウェン 死亡
エリーナ・チェン 死亡
残り生存者 13名
この島に、“外”は存在しない。




