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無色の輝石使い  作者: 神代シン
第一章無色の落第生

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6 誰にも見えない力

 翌朝、真は診療所を出た。

 医者には、もう一日くらい休んだほうがいいと言われた。

 しかし、身体の痛みはだいぶ引いていたし、じっと寝ていることにも耐えられなくなっていた。

 何より、自分の力を確かめたかった。

 鉱喰いを倒したとき、何が起きたのか。

 あの感覚は、本当に自分の力だったのか。

 それとも、偶然だったのか。

 真は、村外れの空き地へ向かった。

 そこには、昔使われていた採掘用の石材が積まれていた。

 人の出入りも少なく、多少変なことをしても、誰かに見られる心配はない。

 真は、手のひらほどの小石を拾った。

 表面は滑らかで、片側に細い亀裂が入っている。

 真は石を地面に置き、指先で軽く叩いた。

 コン。

 乾いた音がした。

 石は、わずかに震えた。

 真は目を閉じた。

 音が広がる。

 空気を震わせ、地面へ伝わる。

 その震えが、少しずつ弱まっていく。

 やがて、消えた。

「……普通だな」

 真は呟いた。

 もう一度、石を叩く。

 コン。

 今度は、指先を石に触れたまま、意識を集中させた。

 鉱喰いと戦ったときの感覚を思い出す。

 音の形。

 振動の間隔。

 響きの強さ。

 自分の中にある、何か。

 真は、それを探した。

 しばらくして。

 指先に、微かな震えが戻ってきた。

 真は目を開いた。

 石が、ほんの少しだけ震えている。

 叩いたときの揺れは、すでに消えているはずだった。

 それなのに、石の内部で、かすかな振動が続いている。

 真は息を止めた。

「……できた?」

 興奮を抑えきれず、もう一度、石を叩いた。

 コン。

 今度は、何も起きなかった。

 真は眉をひそめた。

 再び意識を集中させる。

 石に触れる。

 振動を探る。

 だが、先ほどの感覚は戻ってこなかった。

「何でだよ……」

 真は石を見つめた。

 できたと思った。

 確かに、何かが起きたはずだった。

 それなのに、再現できない。

 真は、苛立ちを覚えた。

 今まで、何度も同じことを経験してきた。

 色輝石を持つ子供たちは、最初は小さな力しか使えない。

 しかし、訓練を重ねれば、少しずつ力を伸ばしていく。

 自分には、その最初の一歩すらなかった。

 ようやく何かを見つけたと思ったのに。

 また、手の届かない場所へ逃げてしまった。

 真は、石を地面へ置いた。

「……落ち着け」

 焦っても、何も変わらない。

 鉱喰いと戦ったときだって、最初からうまくいったわけではない。

 何度も失敗した。

 何度も痛い思いをした。

 それでも、最後には外殻を砕くことができた。

 ならば、今度も。

 真は、ゆっくりと息を吸った。

 そして、石に触れた。

 まず、音を聞く。

 風が吹く。

 草が揺れる。

 遠くで、村人が薪を割っている。

 それぞれの音が、別々の振動として感じられた。

 真は、その中から余計な音を切り離していった。

 風の音。

 草の音。

 遠くの音。

 残ったのは、自分の指先と石が触れ合う、微かな感覚だけだった。

 真は、指先を軽く動かした。

 石が震える。

 その震えを追いかける。

 強くしようとしない。

 大きくしようともしない。

 ただ、震えがどこへ伝わっていくのかを感じ取る。

 しばらくすると、石の内部に、ごく小さな響きがあることに気づいた。

 それは、外から与えた振動とは少し違っていた。

 真は、その響きに、自分の意識を重ねた。

 ――トン。

 指先が、微かに動く。

 石が震えた。

 真は、目を見開いた。

 今度は、確かに自分の意思で起こした。

 ほんのわずかな振動だった。

 石を割ることも、浮かせることもできない。

 それでも、何も起きないよりは、ずっと大きな一歩だった。

 真は、思わず笑った。

「……やった」

 声が震えていた。

 誰かに見せたいと思った。

 誰かに、できたと伝えたかった。

 しかし、次の瞬間、真は口を閉じた。

 もし、また失敗したら。

 もし、これは偶然だと言われたら。

 もし、誰かに危険な力だと判断されたら。

 胸の奥に、冷たいものが広がった。

 真は、小石を拾い上げた。

 手のひらに収まる、小さな石。

 何の色もない、ただの石。

 真は、それをポケットへ入れた。

「……もう少し、練習しよう」

 誰にも見せる必要はない。

 今は、まだ。

 自分でもよくわかっていない力なのだから。

 真は、空き地を後にした。

 その背中を、遠くの丘から見つめている人影があったことには、気づかなかった。

 白い外套をまとった人物だった。

 その人物は、真が去った後の空き地へ歩いてきた。

 地面に残った小さな石を拾い上げる。

 表面には、細かな亀裂が走っていた。

 それは、普通に叩いただけでは生じない、奇妙な亀裂だった。

 白い外套の人物は、石を裏返した。

 そして、静かに呟いた。

「……間違いない」

 その人物の胸元で、白い輝石が淡く光った。

「無色の共鳴だ」

 風が吹いた。

 草が揺れ、木々がざわめく。

 白い外套の人物は石を懐へしまい、村のほうへ歩き出した。

 真は、まだ知らない。

 自分が初めて力を使ったその瞬間から、すでに誰かに観察されていたことを。

 そして、白冠教団が、無色の輝石を持つ人間を、長い間探し続けていたことを。

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