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無色の輝石使い  作者: 神代シン
第一章無色の落第生

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31/40

31.目覚めた場所


「――真!」

 頬を叩かれ、真は目を覚ました。

 目の前にあったのは、白い空ではなかった。

 湿った土。

 折れた枝。

 そして、今にも泣きそうな顔をしたガルドだった。

「……ガルド?」

「この馬鹿野郎!」

 彼女は真の胸倉をつかんだ。

「何度呼んでも返事しねえし、身体は冷たくなっていくし……! お前、死んだかと思っただろうが!」

「ご、ごめん……」

「謝るな! いや、謝れ! どっちでもいいから、とにかく勝手に死ぬな!」

 真は、ぼんやりと周囲を見回した。

 森は静かだった。

 白い光は消えている。

 教団の兵士たちの姿もない。

 ただ、地面には黒い筋のような痕跡が残っていた。

 木々の根元にまで広がったその痕跡は、まるで何かが地面を這い回った跡のようだった。

「……あれは?」

「わからねえ。白い装置が壊れたあと、光の中から黒い腕が出てきた。それから、お前が倒れた」

 ガルドは、真の肩を強くつかんだ。

「お前が倒れたあと、周囲の白い障壁が全部消えた。兵士たちも、何が起きたかわからなくなったらしくてな。混乱している間に逃げてきた」

「僕、どのくらい倒れてたの?」

「わからねえ。体感では、数分だ」

 真は自分の胸元に手を当てた。

 無色の輝石は、いつも通りそこにある。

 けれど、どこか違っていた。

 以前よりも深い場所で、何かが静かに脈打っている。

 真は、夢の中で聞いた言葉を思い出した。

 ――色を失った者が、色を持つ者と同じ場所に立てるとは限らない。

 ――その手で、何を残すのですか。

 あれは、本当に夢だったのだろうか。

 真は手のひらを開いた。

 そこには、小さな透明な石が握られていた。

 石渡りで拾った、あの灰色がかった石。

 だが、その内部に浮かんでいた色は、先ほどよりも鮮明になっていた。

 赤い光が一瞬だけ走る。

 次に、青。

 そして、緑。

 それらは互いを打ち消すことなく、石の内部で静かに揺れていた。

「……ガルド」

「何だ」

「この石、預かっていてくれない?」

「自分で持ってりゃいいだろ」

「もし僕がまた倒れたら、落としちゃうかもしれないから」

 ガルドは少し考え、石を受け取った。

「わかった。だが、次に倒れたら、今度は容赦なく叩き起こすからな」

「それはちょっと怖いな……」

「怖がるくらいでちょうどいい」

 彼女は石を布に包み、懐へしまった。

 それから、森の奥へ目を向ける。

「……あの声。お前には何か聞こえたのか?」

 真は迷った。

 夢の中で見た人影。

 無色の原石。

 そして、未来の自分に向けられた問い。

 すべてを話していいのか、まだわからなかった。

 だから、真は正直に答えた。

「聞こえた。でも、何だったのかはわからない」

「そうか」

 ガルドは、それ以上尋ねなかった。

 彼女はただ、真が自分の足で立てることを確かめてから、森の出口へ歩き始めた。

「行くぞ。ここにいたら、また教団に見つかる」

「うん」

 真も立ち上がる。

 足元はまだふらついていた。

 それでも、歩けた。

 森を抜ける直前、真は一度だけ振り返った。

 黒い痕跡の向こうに、白い光はもうなかった。

 ただ、木々の隙間から差し込む朝の光が、濡れた葉を照らしていた。

 世界は何も変わっていないように見える。

 けれど真の中では、何かが確かに変わり始めていた。

 自分は、特別な使命を背負って生まれたのではない。

 誰かに選ばれたから、何かを成し遂げなければならないわけでもない。

 自分が何者になるかは、これから自分で決めていく。

 そのために、まずは知らなければならない。

 色を。

 輝石を。

 そして、色を持つ人々が、その色とともに生きているということを。

     *

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