31.目覚めた場所
「――真!」
頬を叩かれ、真は目を覚ました。
目の前にあったのは、白い空ではなかった。
湿った土。
折れた枝。
そして、今にも泣きそうな顔をしたガルドだった。
「……ガルド?」
「この馬鹿野郎!」
彼女は真の胸倉をつかんだ。
「何度呼んでも返事しねえし、身体は冷たくなっていくし……! お前、死んだかと思っただろうが!」
「ご、ごめん……」
「謝るな! いや、謝れ! どっちでもいいから、とにかく勝手に死ぬな!」
真は、ぼんやりと周囲を見回した。
森は静かだった。
白い光は消えている。
教団の兵士たちの姿もない。
ただ、地面には黒い筋のような痕跡が残っていた。
木々の根元にまで広がったその痕跡は、まるで何かが地面を這い回った跡のようだった。
「……あれは?」
「わからねえ。白い装置が壊れたあと、光の中から黒い腕が出てきた。それから、お前が倒れた」
ガルドは、真の肩を強くつかんだ。
「お前が倒れたあと、周囲の白い障壁が全部消えた。兵士たちも、何が起きたかわからなくなったらしくてな。混乱している間に逃げてきた」
「僕、どのくらい倒れてたの?」
「わからねえ。体感では、数分だ」
真は自分の胸元に手を当てた。
無色の輝石は、いつも通りそこにある。
けれど、どこか違っていた。
以前よりも深い場所で、何かが静かに脈打っている。
真は、夢の中で聞いた言葉を思い出した。
――色を失った者が、色を持つ者と同じ場所に立てるとは限らない。
――その手で、何を残すのですか。
あれは、本当に夢だったのだろうか。
真は手のひらを開いた。
そこには、小さな透明な石が握られていた。
石渡りで拾った、あの灰色がかった石。
だが、その内部に浮かんでいた色は、先ほどよりも鮮明になっていた。
赤い光が一瞬だけ走る。
次に、青。
そして、緑。
それらは互いを打ち消すことなく、石の内部で静かに揺れていた。
「……ガルド」
「何だ」
「この石、預かっていてくれない?」
「自分で持ってりゃいいだろ」
「もし僕がまた倒れたら、落としちゃうかもしれないから」
ガルドは少し考え、石を受け取った。
「わかった。だが、次に倒れたら、今度は容赦なく叩き起こすからな」
「それはちょっと怖いな……」
「怖がるくらいでちょうどいい」
彼女は石を布に包み、懐へしまった。
それから、森の奥へ目を向ける。
「……あの声。お前には何か聞こえたのか?」
真は迷った。
夢の中で見た人影。
無色の原石。
そして、未来の自分に向けられた問い。
すべてを話していいのか、まだわからなかった。
だから、真は正直に答えた。
「聞こえた。でも、何だったのかはわからない」
「そうか」
ガルドは、それ以上尋ねなかった。
彼女はただ、真が自分の足で立てることを確かめてから、森の出口へ歩き始めた。
「行くぞ。ここにいたら、また教団に見つかる」
「うん」
真も立ち上がる。
足元はまだふらついていた。
それでも、歩けた。
森を抜ける直前、真は一度だけ振り返った。
黒い痕跡の向こうに、白い光はもうなかった。
ただ、木々の隙間から差し込む朝の光が、濡れた葉を照らしていた。
世界は何も変わっていないように見える。
けれど真の中では、何かが確かに変わり始めていた。
自分は、特別な使命を背負って生まれたのではない。
誰かに選ばれたから、何かを成し遂げなければならないわけでもない。
自分が何者になるかは、これから自分で決めていく。
そのために、まずは知らなければならない。
色を。
輝石を。
そして、色を持つ人々が、その色とともに生きているということを。
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