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無色の輝石使い  作者: 神代シン
第一章無色の落第生

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25/40

25.赤い残火


 最初の兵士が床に叩きつけられた。

 ガルドの拳が、白い防具を砕いていた。

 続く兵士は剣を抜いたが、彼女は刃の軌道を身体ひとつ分だけずらし、肘で相手の顎を打ち抜いた。

 残る二人が距離を取る。

 白い輝石が光り、食堂の床から壁へ、薄い障壁が広がった。

「緋色の輝石使い、抵抗を確認!」

 巡察官が叫ぶ。

「周辺への被害を抑え、対象を確保しなさい!」

「対象、対象って……!」

 真は奥歯を噛みしめた。

「人のことを、物みたいに呼ぶな!」

 白い障壁が閉じた。

 ガルドと真は、食堂の一角に閉じ込められる。

 白い壁は薄いのに、触れた瞬間、硬い金属のような反発が返ってきた。

 真は壁に手を当てる。

 振動を聞く。

 複数の兵士が、別々の位置から障壁へ力を送り込んでいる。ひとつひとつの振動は小さいが、互いに重なり合うことで強固な壁を作っていた。

 先日、地下施設で逃げるために開けた壁と同じ構造。

 だが、今回は違う。

 障壁の外側には兵士がいる。

 ひとりの力を乱せば、残りの力が補う。

 単純に穴を開けるだけでは、すぐに塞がれてしまう。

「ガルド、壁を壊せる?」

「壊せるが、時間がかかる!」

「じゃあ、時間を稼いで!」

「注文が多いな!」

 ガルドが両腕に炎をまとった。

 赤い光が強くなる。

 その瞬間、真には聞こえた。

 彼女の身体の内側で、何かが燃える音。

 血が熱を帯び、筋肉が限界を超えて収縮し、心臓が普段よりも強く脈打っている。

 炎が強くなるほど、彼女自身の身体が削られていく。

「ガルド、力を上げすぎないで!」

「今さら何を言ってやがる!」

「身体が――」

「わかってる!」

 彼女の声が、壁に跳ね返った。

「自分の身体のことくらい、わかってるんだよ!」

 その叫びに、真は言葉を失った。

 ガルドの拳が障壁に叩きつけられる。

 一度。

 二度。

 三度。

 白い壁に亀裂が走るが、外側から新しい振動が送り込まれ、すぐに修復される。

 ガルドの呼吸が荒くなった。

 額から汗が落ちる。

 それでも彼女は、拳を止めない。

 真は目を閉じた。

 壊す必要はない。

 力の流れを変える。

 先ほどの緑の輝石と同じように。

 だが、白い障壁は緑の力とは違う。

 白は、外からの干渉を拒絶する色だ。

 他者の力を弾き、異なるものが入り込む余地をなくす。

 その強さは、まさに教団の思想そのものだった。

 異なるものを受け入れない。

 危険なものを遠ざける。

 すべてをひとつの秩序に閉じ込める。

 真は障壁の振動を聞きながら、ひとつのことに気づいた。

 壁は、外からの力を拒んでいる。

 しかし、壁を維持するための力まで拒んでいるわけではない。

 むしろ、兵士たちの力を受け入れ、互いに重ね合わせている。

 ならば。

「……壁そのものじゃない」

 真は呟いた。

「壁を作っている、みんなの力を……」

 兵士たちの振動が聞こえる。

 ひとりは強く、ひとりは弱い。

 ひとりは一定で、ひとりはわずかに揺れている。

 それぞれの力は違う。

 その違いを、白い障壁が無理やり同じ形に整えていた。

 真は自分の輝石を震わせた。

 それぞれの振動を壊すのではなく、ほんのわずかにずらす。

 完全に止める必要はない。

 互いを支える拍子を、少しだけ外せばいい。

 ――トン。

 ――トン。

 ――トン。

 真の胸に痛みが走る。

 無色の輝石が熱を帯びた。

 だが、彼は力を強めなかった。

 ただ、聞き続けた。

 白い壁の向こうにいる兵士たちも、それぞれ別の人間だ。

 同じ色を持っていても、同じ音を刻んでいるわけではない。

 ならば、その違いを無理に消す必要はない。

 違うまま、ほんの少しだけ拍子をずらす。

 障壁が震えた。

「何だ!?」

 兵士の声が聞こえた。

 壁の表面に、細かな波紋が走る。

 ガルドが真を見た。

「お前、何をした?」

「わからない。でも、今なら――!」

「なら、任せた!」

 ガルドが最後の一撃を放った。

 同時に、白い障壁が崩れた。

 粉々に砕け散ったわけではない。

 白い光が、音もなく消えただけだった。

 兵士たちの身体が前につんのめる。

 力を送り込んでいた先が、突然なくなったからだ。

 その隙に、ガルドは真の腕をつかんだ。

「逃げるぞ!」

 二人は食堂の裏口へ走った。

 巡察官の怒号が響く。

「追え! 対象を逃がすな!」

 夜の路地へ飛び出した真は、胸を押さえた。

 痛い。

 さっきよりも、ずっと痛い。

 だが、障壁は壊していない。

 人も傷つけていない。

 力の形を変えただけだ。

 それが正しいことなのか、まだわからない。

 けれど、真は初めて、自分の力を自分で選んだ気がした。

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