↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色の輝石使い  作者: 神代シン
第一章無色の落第生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/40

24.色を持つ者の値段


 宿場町の夜は、思っていたよりも騒がしかった。

 通りには旅人や商人が行き交い、酒場からは酔客の笑い声が漏れている。軒先に吊るされた灯りが、石畳の上に黄色い光を落としていた。

 真は、食堂の隅でスープをすすっていた。

「……うまい」

「三杯目だぞ」

 向かいに座るガルドが呆れたように言った。

「だって、村を出てからまともに食べてなかったし」

「だからって食いすぎだ。明日の分まで食う気か?」

「明日は明日で、なんとかするよ」

「その考え方でよく今まで生きてこられたな」

 そう言いながらも、ガルドは自分の皿に残っていた肉を真の方へ押しやった。

 真は気づかないふりをして、それも食べた。

 食堂の壁には、色ごとの輝石使いを描いた古い絵が飾られている。

 赤い炎をまとった戦士。

 青い水を操る航海士。

 緑の蔓を伸ばす狩人。

 白い光の壁を掲げる聖職者。

 それぞれの姿の下には、輝石使いの能力を説明する文字が添えられていた。

 真はその絵を見つめた。

「ねえ、ガルド」

「あ?」

「色って、どうやって決まるんだろう」

「生まれつきだろ」

「でも、輝石って身体に埋まってるんだよね。だったら、誰かが後から別の色を埋め込むこともできるのかな」

 ガルドの手が止まった。

 ほんの一瞬だった。

 だが、真は見逃さなかった。

「……できるの?」

「知らねえよ」

「今、何か知ってるみたいな顔した」

「どんな顔だよ」

「隠し事してる顔」

「お前は食い物のことだけ考えてろ」

 ガルドは乱暴にスープを飲み干した。

 真は、それ以上追及しなかった。

 ただ、彼女の肩に埋め込まれた赤い輝石が、灯りを受けて鈍く光るのを見ていた。

 赤い筋は、肩から首筋へと伸びている。

 あの力を使うたび、ガルドは身体を削っている。

 それを知っていながら、真はまだ彼女の過去を何も知らなかった。

 食事を終え、二人が宿の主人に部屋の鍵を受け取ろうとしたときだった。

 入り口の扉が開いた。

 冷たい夜風とともに、白い外套をまとった男が入ってくる。

 胸元には、白い石を象った教団の紋章。

 男の後ろには、武装した兵士が四人。

 食堂のざわめきが、少しずつ小さくなった。

「白冠教団の巡察官だ」

 誰かが囁いた。

「何の用だ……?」

 男は食堂を見渡し、穏やかな声で告げた。

「皆様、ご安心ください。危険な輝石の反応が、この町の近辺で確認されました。住民の安全を確保するため、輝石の検査を行います」

 言葉だけを聞けば、何もおかしくない。

 教団は、輝石の暴走から人々を守る組織として知られている。

 しかし、男が兵士に目配せすると、彼らは客の腕をつかみ、首筋を調べ、胸元に手を当て始めた。

 老人が抗議した。

「おい、いきなり何をする! わしらは何もしておらん!」

「危険の有無を確認するだけです」

「なら、そんな乱暴にする必要はないだろう!」

 兵士は答えず、老人を壁へ押しつけた。

 真の手が止まる。

 ガルドが、テーブルの下で真の足を軽く蹴った。

「見るな」

「でも……」

「今は見るだけにしろ」

 その声は、いつになく鋭かった。

 巡察官が、二人のテーブルへ近づいてくる。

「旅のお二人も、検査にご協力ください」

 真は顔を上げた。

「何を調べるんですか?」

「輝石の色と、蓄積地の反応です。すぐに終わりますよ」

 男は笑っていた。

 けれど、その目は笑っていなかった。

 真が答える前に、ガルドが立ち上がる。

「断る」

「……何と?」

「聞こえなかったか。断ると言った」

 食堂の空気が凍った。

 巡察官は、彼女の肩にある赤い輝石を見た。

「あなたは緋色の輝石使いですね。登録情報と照合させていただきたい」

「私の輝石は、私のもんだ」

「輝石の力は、社会全体の安全に関わります。教団の管理に従っていただく義務が――」

「管理?」

 ガルドが笑った。

 その笑い方を、真は初めて見た。

 楽しそうでも、怒っているだけでもない。

 何かを思い出し、それを憎むことに慣れきってしまった者の笑みだった。

「お前らの言う管理ってのは、逆らえないように縛ることだろ」

「不穏な発言ですね」

 巡察官の笑顔が消えた。

「では、検査に応じられない理由を、こちらで判断させていただきましょう」

 兵士たちが動いた。

 真は反射的に立ち上がった。

 だが、ガルドが片手で彼を制した。

「動くな、真」

「でも!」

「こいつらの狙いは、私じゃねえ」

 ガルドの視線が、巡察官の背後へ向く。

 そこにいた兵士のひとりが、小さな白い装置を取り出していた。

 真の胸元が、冷たくなった。

 無色の輝石が震えている。

 装置から、細い音が伸びてきた。

 真にしか聞こえない音だった。

 白い障壁を生み出したときと同じ、硬質で、均一な振動。

 ただし、今回は違う。

 その振動は、真の輝石を探っていた。

「……僕を、調べてる?」

 巡察官が静かに頷いた。

「新城真さん。あなたには、教団の管理施設まで同行していただきます」

 真の喉が鳴った。

 どうして自分の名前を知っている。

 どうして、ここにいることがわかった。

 そして、どうして――。

「君のような無色の輝石は、通常の検査では測定できません」

 巡察官は、まるで珍しい鉱石の説明でもするように言った。

「ですから、特別な検査が必要なのです」

 真は、その言葉に背筋が冷たくなった。

 彼らにとって、自分は人間ではない。

 少なくとも、ひとりの少年として見られてはいない。

 石渡りの地下施設で聞いた言葉が蘇る。

 ――白冠管理番号、零号。

「……嫌だ」

 真は呟いた。

「僕は、行かない」

 巡察官の眉が動いた。

「それは、教団への反逆と見なされます」

「僕は誰も傷つけてない!」

「危険な力は、使用される前に封じる必要があります」

「僕の力を、君たちが決めるな!」

 真の声が食堂に響いた。

 胸元で、無色の輝石が震える。

 初めてだった。

 自分の力を恐れながら、それでも自分のものだと叫んだのは。

 巡察官が手を上げる。

「拘束しなさい」

 兵士たちが一斉に襲いかかった。

 ガルドの口元が、わずかに吊り上がった。

「ようやく言えたじゃねえか」

 赤い光が爆ぜた。

「自分の意思ってやつをよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。