↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色の輝石使い  作者: 神代シン
第一章無色の落第生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/40

22 まだ名前のない力


 町から十分に離れた丘の上で、真はようやく立ち上がった。

 ガルドは周囲を確認し、街道の先を見た。

「しばらく、この道は使わないほうがいいな。教団が見張りを置いている可能性がある」

「……すみません」

「だから、謝るなって」

 ガルドは真の頭を軽く小突いた。

「お前が研究所を起動させたのは、わざとじゃないだろ」

「でも、俺のせいで……」

「お前のせいだけじゃない。教団は、最初からお前を探していた。今回のことがなくても、いずれ追ってきただろうさ」

 真は、黙って頷いた。

 自分が逃げたことで、周囲の人々を巻き込んでしまうかもしれない。

 その不安は、消えなかった。

 しかし、今は立ち止まるわけにはいかない。

「これから、どこへ行くんですか?」

 ガルドは、遠くにそびえる山脈を指さした。

「まずは南だ。街道を避けて、谷沿いに進む。その先に小さな集落がある。そこなら、教団の目も少しは届きにくい」

「わかりました」

「それから、ひとつ聞きたい」

 ガルドは真を見た。

「さっきの力。白壁に干渉したとき、何を感じた?」

 真は、自分の胸元に手を当てた。

「……音が聞こえました。壁が作られるときの振動です。でも、それだけじゃなくて……」

 言葉を探す。

「白い壁が、どうやって形を保っているのか。その仕組みが、少しだけわかった気がしました」

「仕組み?」

「はい。白い力が、周囲を拒絶して、外側と内側を隔てている。その力の流れが、音みたいに感じられたんです」

 真は、自分の指先を見つめた。

「それで、ほんの少しだけ、流れをずらしたら……穴が開きました」

 ガルドは、考え込むように黙った。

「……なるほどな」

「俺の力は、何なんでしょう」

「今のところ、名前をつける必要はないんじゃないか?」

「でも……」

「名前があれば理解しやすくなることもある。けど、名前をつけた瞬間に、わかったつもりになることもある」

 ガルドは歩き出した。

「お前の力は、まだ成長の途中なんだろ。今は、できることと、できないことを一つずつ確かめればいい」

 真は、その後を追った。

 名前のない力。

 色の定まらない輝石。

 それは、欠けているものなのか。

 それとも、まだ形が決まっていないだけなのか。

 真には、わからなかった。

 けれど、少なくとも今は、無理に答えを出さなくてもいいと思えた。

 自分の知らないことを、知らないまま認める。

 そして、少しずつ確かめていく。

 それもまた、前へ進むということなのだろう。

 丘を下りる途中、真はふと足を止めた。

 道端に、小さな石が落ちていた。

 透明に近い、灰色の石。

 表面には細かな傷があり、光を当てると、内側に淡い輝きが浮かぶ。

 真はそれを拾い上げた。

「どうした?」

 ガルドが尋ねる。

「……なんでもありません」

 真は石を握りしめた。

 なぜか、捨てていく気になれなかった。

 その石には、色がない。

 少なくとも、真にはそう見えた。

 しかし、光の角度を変えると、ほんの一瞬だけ、内側に淡い色が浮かんだ気がした。

 赤だったのか。

 青だったのか。

 それとも、ただの光の反射だったのか。

 わからない。

 真は、その石を袋へしまった。

 いつか、この石が何なのかわかる日が来るかもしれない。

 そう思った。

 ガルドが先へ進む。

 真は、その背中を追いかけた。

 旅は、まだ始まったばかりだ。

 少年の輝石には、色がない。

 その力には、名前がない。

 そして、彼自身も、まだ自分が何者なのかを知らない。

 それでも。

 彼はもう、色がないという理由だけで、自分の未来を諦めるつもりはなかった。

 遠くの空には、薄い雲が広がっていた。

 その向こうで、世界の色を管理する者たちが、静かに動き始めている。

 そして、まだ誰も知らない。

 この無色の少年が、いつか世界のすべての輝石を消し去ることになるなど。

 そのとき、色を失った世界に残るものが何なのか。

 その問いに答えられる者は、今はまだ、どこにもいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。