21 白冠の名の下に
町の地下水路では、ヴァイスが崩れた白壁を見つめていた。
騎士たちは、周囲を調べている。
「ヴァイス様。対象は逃走しました」
「見ればわかる」
ヴァイスの声は静かだった。
怒鳴りもしなければ、苛立ちを露わにもしない。
ただ、崩れた壁の断面を、じっと見つめていた。
「……この破損は、外側からの攻撃ではありません」
騎士の一人が報告した。
「白壁を構成する波長が、内部からずらされています。術者の制御を失ったというより、壁の構造そのものが崩されたようです」
ヴァイスは、ゆっくりと頷いた。
「やはり、そうか」
「やはり、とは……?」
「無色の輝石は、色の力を持たないのではない」
ヴァイスは、胸元の白い輝石に触れた。
「色が定まっていない。だからこそ、他の色に干渉できる可能性がある」
騎士たちは、沈黙した。
「しかし、それは……」
「理論上は、危険な性質だ」
ヴァイスは、淡々と続けた。
「他の色を拒絶する白。燃焼する赤。流動する青。成長する緑。もし無色の輝石が、それぞれの性質へ干渉できるのなら……」
彼は、言葉を切った。
その先を、口にする必要はなかった。
色の力を制御する者は、色の力を壊すこともできるかもしれない。
それは、教団にとって見過ごせない可能性だった。
「対象の確保を優先する。ただし、無理に追い詰めるな」
「理由をお聞きしても?」
ヴァイスは、崩れた壁から目を離した。
「彼の力は、まだ不安定だ。こちらが強く出れば、何が起きるかわからない」
彼は、部下たちを見渡した。
「それに、彼自身が何をできるのか、まだ理解していない」
「では、どう対応を?」
「観察を続けろ。彼がどこへ向かい、誰と接触し、何を学ぶのかを記録する」
ヴァイスは歩き出した。
「無色の輝石が再び現れたことには、必ず意味がある」
その声は、地下水路の壁に静かに反響した。
「彼を、世界の外へ放置するわけにはいかない」
騎士たちは、一斉に頭を下げた。
「白冠の名の下に」
その言葉が、地下の暗闇へ消えていく。
ヴァイスは振り返らなかった。
彼の中では、すでに一つの結論が形を取り始めていた。
無色の輝石は、ただ珍しいだけの存在ではない。
世界の色を保つ秩序に、干渉しうる存在だ。
それが救いになるのか。
災いになるのか。
まだ、誰にもわからない。
だからこそ、教団は手に入れなければならない。
理解するために。
管理するために。
そして、必要ならば――その力が何を意味するのか、世界が知る前に決着をつけるために。




