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無色の輝石使い  作者: 神代シン
第一章無色の落第生

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18/40

18 色を測る秤


 その夜、真とガルドは町の安宿に泊まった。

 部屋は狭く、壁には古い染みが残っている。窓は小さく、寝台は一つしかなかった。

「……寝台、一つですね」

「そうだな」

「俺は床でいいです」

「そうしろ」

「即答ですか!?」

「冗談だよ。床に毛布を敷いてやる」

 ガルドは荷物を下ろし、宿の主人から借りた毛布を真に投げ渡した。

「それより、今日はどうだった?」

「仕事のことですか?」

「それもあるが、町を見てどう思った?」

 真は、少し考えた。

「……色があると、できることが増えるんですね」

「そうだな」

「でも、色があるからって、何でもできるわけじゃない。色がなくても、できることはある」

「うん」

「それなのに、色がないだけで、最初からできないって決められるのは……」

 真は、言葉を止めた。

 うまく言えなかった。

 腹が立つ。

 悔しい。

 けれど、それだけではない。

 色がある人々を、羨ましく思う気持ちもあった。

 自分も、あのように輝石の力を使えたら。

 そう考えてしまう自分がいる。

 ガルドは、真の顔を見ていた。

「羨ましいか?」

 真は、目を伏せた。

「……はい」

「なら、羨ましいって思っていい」

 ガルドは、あっさり言った。

「無理に立派なことを考える必要はない。自分にはできないことを見て、羨ましいと思うのは普通だ」

「でも、俺は……」

「ただ、羨ましいからって、自分にできることまで見失うなよ」

 ガルドは、椅子に腰を下ろした。

「色は便利だ。強い力を持つ奴は、戦いでも仕事でも有利になる。だから、色によって待遇が変わる。そういう現実はある」

 彼女は、指先に小さな炎を灯した。

 赤い光が、部屋の壁を照らす。

「だが、色は人間そのものじゃない。赤だから勇敢とは限らないし、青だから優しいとも限らない。白だから正しいわけでも、黒だから悪いわけでもない」

 炎が消える。

「色は、そいつが何をできるかを示すことはある。でも、そいつが何を選ぶかまでは決めてくれない」

 真は、静かに聞いていた。

「お前が無色なのは、変えようのない事実かもしれない。だが、無色だから何を選べない、なんてことはないはずだ」

 ガルドは、少しだけ笑った。

「少なくとも、私はそう思ってる」

 真は、胸元の輝石に触れた。

 無色。

 何も持たない。

 落第。

 これまで、その言葉は、自分を縛る鎖のようだった。

 しかし、今日の出来事を通じて、少しだけ違う見方ができるようになった。

 色がないことは、確かに不便だ。

 できないことも多い。

 その事実を、無理に否定する必要はない。

 けれど、それが自分のすべてではない。

 自分が何を考え、何を選び、何をするか。

 それまで色に決められる必要はない。

「……俺、もっと知りたいです」

 真は言った。

「色のことも、自分の輝石のことも。それから、教団が何を隠しているのかも」

「欲張りだな」

「そうでしょうか」

「いいんじゃねえの。旅人は、欲張りなくらいでちょうどいい」

 ガルドは立ち上がった。

「ただし、知ったことが全部、自分の望む答えだとは限らないぞ」

「……はい」

「それでも知りたいか?」

 真は、迷わず頷いた。

「知りたいです」

 ガルドは、満足そうに笑った。

「なら、明日は町の外へ出る前に、少し寄り道をする」

「どこへ?」

「古い鉱石の測定所だ。この町には、昔、色輝石の研究をしていた施設があったらしい」

 真の目が輝いた。

「本当ですか?」

「今は廃墟だけどな。教団が管理するようになってから、ほとんど使われなくなったらしい」

「そこに、無色の輝石についての記録が残っているかもしれない……?」

「可能性はある」

 ガルドは窓の外を見た。

「ただし、教団もその場所を気にしている。見つからないように行くぞ」

 真は頷いた。

 ようやく、自分の力を知るための手がかりが見つかるかもしれない。

 そう思うと、眠気が遠のいていく。

 しかし、ガルドは真の期待に水を差すように言った。

「ひとつだけ、覚えておけ」

「はい?」

「力の正体がわかったとしても、それでお前が何者なのか、全部わかるわけじゃない」

 真は、彼女を見た。

「……どういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ」

 ガルドは毛布を真へ放り投げた。

「お前の輝石がどんな力を持っていようと、お前がその力をどう使うかは、お前が決める。力に名前をつけたって、それで答えが終わるわけじゃない」

 真は、毛布を受け取った。

 ガルドは灯りを消した。

 部屋が暗くなる。

「寝ろ。明日は早いぞ」

「……おやすみなさい」

「おう。おやすみ」

 真は毛布にくるまり、目を閉じた。

 すぐには眠れなかった。

 頭の中には、今日見た景色が浮かんでいた。

 色によって値段を決められた鉱石。

 仕事を断られた自分。

 それでも、自分の手で稼いだ銅貨。

 そして、ガルドの言葉。

 色は、人間そのものじゃない。

 自分が何を選ぶかまでは、決めてくれない。

 真は胸元に手を置いた。

 輝石は、静かだった。

 何も光らない。

 何も語らない。

 けれど、真はもう、その沈黙を以前ほど空虚には感じなかった。

 まだわからないことがある。

 まだできないことがある。

 だからこそ、明日も歩く意味がある。

 真は、ゆっくりと眠りに落ちていった。

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