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無色の輝石使い  作者: 神代シン
第一章無色の落第生

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17/40

17 無色の値札


 宿を探す前に、ガルドは真を町の市場へ連れていった。

「まずは金を稼ぐ」

「えっ、いきなりですか?」

「旅は金がかかるんだよ。食べ物も、寝床も、装備もな。私が全部払うと思ってたのか?」

「……少しだけ」

「正直でよろしい。だが駄目だ」

 ガルドは真の背中を押し、荷運びの仕事を斡旋する店へ向かった。

 店先には、求人札が何枚も貼られている。

 荷物の運搬。

 倉庫の清掃。

 鉱石の仕分け。

 街道の補修。

 真は、その中から荷運びの札を指さした。

「これなら、村でもやっていました」

「よし。話してこい」

 真は店主へ事情を説明した。

 灰鐘村から来たこと。

 旅の途中で、仕事を探していること。

 重い荷物を運ぶことには慣れていること。

 店主は、真の顔を見て、それから胸元へ視線を落とした。

「輝石は?」

「……無色です」

 店主の表情が変わった。

「無色か」

 彼は真の身体を一度見回し、すぐに首を振った。

「悪いな。荷運びは力仕事だ。色の力を使える奴を優先してる」

「でも、俺は村でずっと鉱石を運んでいました。力仕事なら、できます」

「そう言われてもな。緑の使い手なら荷物を持ち上げられる。赤なら身体を強化できる。青なら水場での作業も任せられる。お前を雇う理由がない」

 真は唇を噛んだ。

「……賃金が安くても構いません」

「そういう問題じゃないんだよ」

 店主は、手を振った。

「次の奴を呼んでくれ」

 真は、店を出た。

 外では、ガルドが壁にもたれて待っていた。

「どうだった?」

「……駄目でした」

「だろうな」

「わかってたんですか?」

「色で仕事を決める町だ。無色の見習いを雇うより、色の力を使える奴を雇ったほうが効率がいい。そう考える商人は多い」

 真は、拳を握った。

「俺、仕事はできます。鉱石の重さも、種類も、見分けられます。色の力がなくても、できることはあるのに」

「そのとおりだ」

 ガルドは言った。

「だが、お前ができることを、相手が知ってるとは限らない」

「じゃあ、どうすれば……」

「証明すればいい」

 ガルドは、通りの先を指さした。

 そこには、荷車の車輪が外れ、道の真ん中で立ち往生している商人がいた。

 荷車には鉱石の箱が積まれ、車輪の軸が地面に引っかかっている。商人は何人かに助けを求めていたが、誰も足を止めようとしなかった。

「ほら、仕事だ」

「え?」

「手伝ってこい。金になるかは知らないが、少なくとも経験にはなる」

 真は、荷車へ走った。

「手伝います!」

 商人は、困り果てた顔で真を見た。

「本当か? 車輪が外れちまってな。積み荷も重いし、動かせないんだ」

「見せてください」

 真は、車輪と軸の状態を確かめた。

 軸が歪んでいるわけではない。

 ただ、車輪を固定する金具が緩み、片側が石畳の隙間へ落ちている。

「まず、荷物を少し下ろしましょう。それから、車体を持ち上げて、車輪を戻します」

「持ち上げるって、どうやって?」

「てこの原理を使います。あそこにある木材を借りられれば……」

 真は近くの木材を二本持ってきて、車体の下へ差し込んだ。

 村で鉱石を運んでいたとき、荷物が崩れないように支柱を組んだ経験が役に立った。

 商人にも手伝ってもらい、少しずつ荷重を移していく。

 やがて、車体が持ち上がった。

「今です!」

 真が声を上げる。

 商人が車輪を戻し、金具を締め直した。

 荷車は、再び四つの車輪で地面に立った。

「おお……!」

 商人は、何度も車輪を確かめた。

「助かった! ありがとう、坊主!」

「いえ、これくらいなら」

「いやいや、礼をさせてくれ。ほら」

 商人は、銅貨を数枚、真の手に乗せた。

 真は驚いた。

「こんなに、いいんですか?」

「当たり前だ。仕事をしてもらったんだからな」

 商人は笑った。

「力があるかどうかだけじゃ、仕事は決まらねえ。頭を使える奴も、手先が器用な奴も必要だ。お前みたいな奴がいなきゃ、俺は今日一日、ここで荷車を眺めてたところだ」

 真は、手の中の銅貨を見つめた。

 小さな金属片だった。

 しかし、真にとっては、初めて自分の力で得た旅の報酬だった。

 色の力を使ったわけではない。

 輝石が光ったわけでもない。

 ただ、これまで身につけてきた知識と経験を使っただけだ。

 それでも、誰かの役に立てた。

「……ありがとうございます」

 真は、深く頭を下げた。

 商人は荷車を動かしながら、手を振った。

 真は、ガルドのもとへ戻った。

「どうだ?」

「……少しだけ、稼げました」

「よかったじゃねえか」

 ガルドは、真の手にある銅貨を見て笑った。

「その金は、お前が自分で稼いだ金だ。大事にしろよ」

 真は頷いた。

 ほんの少しだけ、胸を張れた気がした。

 自分には、できることがある。

 色がなくても。

 力の正体がわからなくても。

 今まで積み重ねてきたものまで、なくなったわけではない。

 真は銅貨を袋へしまった。

 そして、もう一度、通りを見渡した。

 さっきまでは、色の力を使う人々ばかりが目に入っていた。

 今は違う。

 荷物を整理する商人。

 壊れた籠を直す職人。

 道に落ちた野菜を拾い集める子供。

 それぞれが、自分のできることを使って暮らしている。

 色は、その一つにすぎない。

 真は、そのことを少しだけ理解した気がした。

 しかし、町のすべてがそう考えているわけではなかった。

 市場の端。

 白冠教団の紋章を掲げた建物の前で、一人の男が、真を見つめていた。

 白い外套。

 胸元の銀の徽章。

 ヴァイスの部下だった。

 男は、真が銅貨をしまうのを見届けると、懐から小さな紙片を取り出した。

 そこには、真の顔と名前が記されていた。

 男は紙片を折りたたみ、建物の中へ消えていった。

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