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無色の輝石使い  作者: 神代シン
第一章無色の落第生

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16/40

16 色で値段の決まる町


 夕暮れが近づく頃、真とガルドは街道沿いの宿場町へたどり着いた。

 町の名は、石渡り。

 灰鐘村から馬車で一日ほどの距離にある、小さな交易の町だった。鉱山から運ばれた原石が各地へ送られ、商人や旅人が行き交う。規模こそ大きくないが、周囲の村々にとっては重要な中継地点らしい。

 町を囲む石壁はところどころ崩れ、門の脇には荷車が列を作っていた。

 門番の胸には黄色い輝石が埋め込まれている。彼が手をかざすと、門の上に設置された金属板がかすかに震え、荷車の積み荷が一つずつ検査されていった。

「黄色の使い手は、金属や電気に干渉する者が多い。ああいう仕事には向いてるな」

 ガルドが説明した。

「じゃあ、門番は黄色の人が多いんですか?」

「多いだけだ。絶対じゃない。黄色でも別の力を持つ奴はいるし、同じ黄色でも得意なことは違う」

「同じ色でも?」

「輝石の色は、力の大まかな性質を示しているだけだ。どんな力になるかは、本人の身体や経験にも左右される」

 ガルドは門をくぐった。

「色だけ見て相手を理解したつもりになるなよ。そういう奴は、色のないお前より物が見えてない」

「……それ、俺を励ましてくれてるんですか?」

「さあな」

 ガルドは笑いながら歩いていった。

 真も、その後を追った。

 門を抜けると、町の賑わいが一気に押し寄せてきた。

 露店には色とりどりの鉱石が並び、商人たちが声を張り上げている。焼きたてのパンの匂い。香辛料の刺激的な香り。荷車の車輪が石畳を軋ませる音。

 真は、思わず足を止めた。

 灰鐘村にも市場はあった。

 しかし、ここは違う。

 見たことのない色の輝石を身につけた人々が、当たり前のように行き交っている。

 青い輝石を持つ女性が、水の入った樽を手も触れずに持ち上げていた。緑の輝石を持つ男は、荷車に積まれた木材を蔓で縛り上げている。黄色の輝石を持つ職人は、指先から生み出した微弱な電流で、壊れた計量器を修理していた。

 人々の暮らしの中に、色の力が溶け込んでいる。

 真は、それを眺めながら歩いた。

 自分にはできないことばかりだった。

 けれど、悔しさよりも先に、好奇心が湧いてきた。

 こんな力もあるのか。

 あんな使い方もできるのか。

 自分の知らない世界が、目の前に広がっている。

「おい、真。あんまりきょろきょろしてると、財布を抜かれるぞ」

「えっ?」

「冗談だよ。半分はな」

「半分って……!」

 真は慌てて懐を確認した。

 ガルドは、また笑った。

 だが、その笑い声は途中で止まった。

 通りの向こうで、男の怒鳴り声が響いたからだ。

「ふざけるな! 昨日は銀貨三枚だっただろう!」

「相場が変わったんだよ。文句があるなら、別の店へ行きな」

「お前、俺が無色だからって足元を見てるんだろ!」

 真の足が止まった。

 露店の前に、一人の老人が立っていた。

 老人は布袋から小さな鉱石を取り出し、店主へ突きつけている。

 店主は、鼻で笑った。

「無色の原石なんて、使い道がないだろ。銀貨一枚でも高いくらいだ」

「これは、母親の形見なんだ……。せめて、正当な値段で買い取ってくれ」

「知らねえよ。売りたきゃ売れ。嫌なら持って帰れ」

 老人の肩が震えた。

 真は、胸の奥がざわつくのを感じた。

 色がない。

 それだけで、値段まで決められてしまう。

 自分が村で受けてきた扱いと、よく似ていた。

「……ひどい」

 真が呟くと、ガルドは彼の腕をつかんだ。

「待て」

「でも……」

「よく見ろ」

 ガルドは、老人の持つ鉱石を見ていた。

「値段をつけてるのは、色だけじゃない」

 店主は老人から鉱石を取り上げ、手のひらで転がした。

「ほら、傷もある。加工にも向かない。売り物にならねえんだよ」

 老人は何も言えなかった。

 やがて、鉱石を取り戻し、肩を落として歩き去っていった。

 真は、その背中を見つめていた。

「……助けなくていいんですか?」

「助けるって、どうやって?」

 ガルドは尋ねた。

「店主を殴るか? 鉱石を取り返してやるか? それとも、老人に金を渡すか?」

 真は答えられなかった。

「怒るのは簡単だ。けど、怒っただけじゃ、何も変わらないこともある」

 ガルドは通りを歩き始めた。

「それに、あの老人が本当に求めてたものが何なのか、私たちにはわからない」

「……でも、あんな扱いを受けていいはずがありません」

「そうだな」

 ガルドは、今度はすぐに肯定した。

「だから、覚えておけ。理不尽を見たとき、腹を立てるのは悪いことじゃない。ただ、怒りに任せて動く前に、自分が何を変えたいのかを考えろ」

 真は、老人の消えた路地を振り返った。

 何を変えたいのか。

 その問いは、古い石碑に刻まれていた言葉と、どこか似ていた。

 ――その手で、何を残す。

 真は、まだ答えを持っていなかった。

 ただ、色がないという理由だけで、誰かの価値まで決められてしまう世界を、当たり前だとは思いたくなかった。

 それだけは、はっきりしていた。

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