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無色の輝石使い  作者: 神代シン
第一章無色の落第生

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13/40

13 力の代償


 三人は、森の奥にある小さな洞窟へ移動した。

 洞窟は浅く、入口から少し進むと、外の光が差し込む広い空間に出る。かつて旅人が雨宿りに使っていた場所らしく、隅には古い焚き火の跡があった。

 ガルドは若者を壁際に座らせると、彼の胸元を確かめた。

「青の輝石か。ずいぶん無茶なことをされたな」

「……教団の検査を受けていたんです」

 若者は、途切れ途切れに話し始めた。

「最初は、輝石の状態を調べるだけだと言われました。でも、途中から……力を限界まで引き出す訓練だと」

「それで?」

「身体が動かなくなっても、止めてもらえなかった。何度も、もっと力を出せと言われて……」

 若者は、震える手を見つめた。

「最後には、自分の輝石が、自分のものじゃないような気がして」

 ガルドの表情が変わった。

 ほんの一瞬だけ。

 怒りが、瞳の奥をよぎった。

「……そうか」

 それ以上は聞かなかった。

 彼女は若者に水を渡し、身体を休めるよう告げた。

 やがて若者の呼吸が落ち着くと、ガルドは洞窟の入口へ向かった。

 真も、その後を追った。

 外では、森の葉が風に揺れていた。

「……あの人、大丈夫なんですか?」

「しばらく休めばな。今すぐ命に関わる状態じゃない」

 ガルドは木の幹にもたれた。

「それより、お前だ」

「俺?」

「そう。お前」

 彼女は真の胸元を指さした。

「無色の輝石で鉱喰いを倒したってのは、本当か?」

 真は頷いた。

「でも、どうやったのか、自分でもよくわかっていません。音が聞こえて……その音に、何かを重ねたら」

「音?」

「はい。鉱喰いの身体から、一定の振動が聞こえたんです。それに自分の振動を合わせて、少しだけずらしたら、殻が割れて……」

 ガルドは黙って聞いていた。

「それで、倒せたのか」

「……はい」

「ふうん」

 彼女は顎に手を当てた。

「面白い力だな」

「面白い、ですか?」

「そうだろ。普通の色使いは、自分の色の力を使う。赤なら燃やす。青なら水や生命に干渉する。白なら隔てる。大体は、自分の色が何をできるか、最初から決まってる」

 ガルドは、自分の胸元に触れた。

「でも、お前は違うらしい」

「……俺は、何も持っていないだけです」

「それ、誰に言われた?」

 真は、口を閉じた。

「村の連中か? 学校の教師か? それとも、お前自身か?」

「……みんなです」

「そうか」

 ガルドは、少しだけ空を見上げた。

「じゃあ、そいつら全員が間違ってる可能性もあるな」

 真は、思わず顔を上げた。

「そんなこと……」

「あるだろ。世の中、わかったつもりになってる奴ほど、よく間違える」

 ガルドは笑った。

「私だって、自分の力を全部わかってるわけじゃない」

 彼女は手袋を外した。

 その下の手は、赤く焼けたような痕で覆われていた。

 指の付け根から手首にかけて、細いひび割れのような傷が走っている。古い傷もあれば、まだ赤みの残る新しい傷もあった。

 真は、息を呑んだ。

「それ……」

「見てのとおり、火傷だよ」

 ガルドは、何でもないことのように言った。

「自分の炎で、自分を焼いてる」

「どうして?」

「力を使いすぎるからだ」

 彼女は手袋をはめ直した。

「赤の輝石は、身体を燃料にして力を引き出せる。熱、血、筋肉……場合によっちゃ、寿命までな」

 真は、目を見開いた。

「寿命……?」

「そう。強くなりたいと思えば、いくらでも強くなれる。もちろん、その分だけ代償は大きくなるけどな」

 ガルドは自分の胸元を軽く叩いた。

「力は、ただ使えばいいってもんじゃない。何を燃やして、何を残すのか。それを間違えたら、勝ったところで自分が空っぽになる」

 真は、鉱喰いとの戦いを思い出した。

 胸の輝石が震え、身体の奥が引き裂かれるように痛んだ。

 あのとき、自分は何かを失いかけていたのかもしれない。

「……怖くないんですか?」

 真が尋ねると、ガルドは少しだけ目を細めた。

「怖いさ」

 答えは、意外なほどあっさりしていた。

「痛いしな。身体が焼ける感覚なんて、何度味わっても慣れねえよ」

「それでも、使うんですか?」

「必要ならな」

 ガルドは、森の奥へ目を向けた。

「守りたいものがあるから、って言えば格好いいんだろうけどさ。私の場合は、もっと単純だ」

「単純?」

「目の前で誰かが踏みつけられてるのを見ると、腹が立つ。それだけだ」

 彼女は、鼻を鳴らした。

「だから殴る。必要なら燃やす。あとで自分が痛い目を見ることになっても、その場で見て見ぬふりをするよりはマシだと思ってる」

 真は、言葉を失った。

 その考え方は、危うい。

 無茶で、乱暴で、長く続ければ自分自身を壊してしまうかもしれない。

 けれど、彼女の言葉には、真がどうしても否定できないものがあった。

 鉱喰いに襲われた少年を見たとき。

 自分も、同じことを考えたのだ。

 怖かった。

 死ぬかもしれないと思った。

 それでも、見て見ぬふりはしたくなかった。

「……俺も、あのときは怖かったです」

 真は呟いた。

「自分が何をしてるのかも、わからなかった。でも、あの子が死ぬのは嫌だった」

「だったら、それでいいじゃねえか」

 ガルドは言った。

「お前が何色なのかなんて、今すぐわからなくてもいい。自分が何をしたいのか、そっちを先に考えろ」

 真は、その言葉を胸の中で繰り返した。

 自分が何色なのか。

 それは、ずっと答えを求めてきた問いだった。

 けれど、もしかすると。

 その問いよりも先に、考えるべきことがあるのかもしれない。

 自分は、何をしたいのか。

 何を守りたいのか。

 何を、残したいのか。

 まだ、答えは出なかった。

 それでも、初めて、その問いを自分のものとして考えられた気がした。

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