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無色の輝石使い  作者: 神代シン
第一章無色の落第生

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10 白冠の調査


 その夜、村長の家では、遅くまで灯りが消えなかった。

 長い机の上に、地図と報告書が広げられている。

 ヴァイスは、村長と向かい合って座っていた。

「……それで、真君は教団の施設へ来ることを了承したのですか?」

「いえ。まだ考えたいと」

 村長は、困ったように答えた。

「無理もないでしょう。あの子は、まだ若い。突然、知らない場所へ連れていくと言われても……」

「ええ。理解しています」

 ヴァイスは、穏やかに頷いた。

「無理に連れていくつもりはありません」

 村長は、ほっとしたように息を吐いた。

 しかし、ヴァイスは続けた。

「ただし、彼の力が危険なものである可能性は否定できません」

「……危険、ですか?」

「鉱喰いの外殻を、内側から破壊する力です。もし、その力が人間に向けられたらどうなるでしょう?」

 村長は、言葉を失った。

「彼自身が悪意を持っているとは思っていません。ですが、力は意思だけで制御できるものではありませんから」

 ヴァイスは、報告書を一枚、村長の前へ滑らせた。

「教団としては、村の安全を守る責任があります」

 村長は報告書を見下ろした。

 そこには、鉱喰いの死骸についての調査結果が記されていた。

 外殻の破損状況。

 体内の鉱石の異常な共鳴。

 周辺の地面に残された、通常とは異なる振動痕。

 そして、最後の項目。

 ――無色輝石保持者との関連性が高い。

 村長の顔が、青ざめた。

「これは……」

「まだ仮説です」

 ヴァイスは、静かに言った。

「しかし、放置することはできません」

 村長は、しばらく報告書を見つめていた。

「……あの子は、村の人間です」

「もちろんです」

「鉱喰いから、村の子供を救ってくれた」

「そのことも、十分に理解しています」

 ヴァイスは、柔らかく微笑んだ。

「だからこそ、彼を守らなければならないのです」

 村長は顔を上げた。

 ヴァイスの言葉には、筋が通っているように聞こえた。

 危険な力を持つ者を調べる。

 本人が制御できない力なら、訓練する。

 それは、決しておかしなことではない。

 だが、村長は、どうしても気になることがあった。

「……もし、本人が望まなかった場合は?」

 ヴァイスは、少しだけ沈黙した。

 そして、微笑みを崩さずに答えた。

「その場合は、必要な手続きを踏むことになります」

 村長の喉が鳴った。

「手続き……」

「はい。力の危険性が高いと判断された場合には、本人の安全と周囲の安全を確保するため、教団が保護を行うこともあります」

 それは、丁寧な言葉だった。

 しかし、意味は明白だった。

 本人が拒否しても、連れていくことがある。

 村長は、ゆっくりと視線を落とした。

 ヴァイスは立ち上がった。

「今夜は、これで失礼します。村の皆様には、どうか普段どおりにお過ごしいただきたい」

 彼は頭を下げ、部屋を出ていった。

 廊下には、白い騎士が二人、待機していた。

「ヴァイス様」

 そのうちの一人が声をかけた。

「対象の反応はいかがでしたか?」

 ヴァイスは、歩みを止めずに答えた。

「まだ不安定だ。本人も、自分の力を理解していない」

「では、やはり施設へ?」

「その必要がある」

 ヴァイスは窓の外を見た。

 夜の村は静かだった。

 家々の灯りが、ぽつぽつと浮かんでいる。

 その中の一軒。

 真の家にも、小さな灯りがともっていた。

「無色の輝石……」

 ヴァイスは、小さく呟いた。

「長い間、記録の中にしか存在しなかったものが、ようやく見つかった」

 騎士が、慎重に尋ねた。

「対象は、危険なのでしょうか?」

 ヴァイスは、少し考えた。

「危険かどうかは、まだわからない」

 そして、静かに続けた。

「だが、価値はある」

 その言葉に、騎士は何も答えなかった。

 ヴァイスは、窓から目を離した。

「明朝、もう一度訪ねる。今度は、正式な保護命令を提示する」

「承知しました」

「対象が抵抗した場合は、輝石を傷つけないように確保しろ」

「……はい」

 白い騎士たちは、深く頭を下げた。

 ヴァイスは歩き出した。

 その胸元で、白い輝石が淡く光っている。

 白は、拒絶の色。

 危険なものを遠ざけ、異質なものを隔て、秩序を守るための色。

 ヴァイスは、その力を信じていた。

 そして、白冠教団もまた、白の力によって世界を守ることを使命としていた。

 ただし、彼らが守ろうとしているものが、世界そのものなのか。

 それとも、自分たちが正しいと信じる世界の形なのか。

 その違いを、ヴァイスはまだ考えようとしていなかった。

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