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翌日、一行は領都を後にした。
馬車を乗り継ぎ、数日かけてシュトラール領内を南西へ進む。道中は実り豊かな畑と、荷を積んだ商隊が往来し、領内の安定を物語っていた。
港町に着く頃には、太陽は水平線に沈みかけ、赤い光が波間を染めていた。
「クラウディア様、ひとつ許可をいただけますか」
馬車を降りるやいなや、マイルズが切り出す。
「なにかしら」
「船上では得られる栄養が限られます。食が偏れば病を呼ぶこともあります。市場で保存の効く食材を調達してきたいのです」
「さすがシュトラール学院医学部首席卒業!」タリヤが横から茶々を入れる。
「……全員の好みも踏まえて買おうと思ったが、お前の分はなしだ」
「じゃあ私も行きます! クラウディア様、許可を!」
「ええ。いってらっしゃい」
タリヤは笑顔で手を挙げ、マイルズの後を追った。
しばらくして二人が市場から戻ってきた。
クラウディアは上級宿の静かなサロンで紅茶を傍らに書簡へ目を通していたが、扉の開く音に顔を上げた。
「ただいま戻りました」
マイルズは両腕いっぱいに木箱や包みを抱え、干し肉や乾燥果物、瓶詰めの豆や魚のオイル漬けをきちんと並べていく。
その一方で、タリヤの両手にあるのは――チョコレートの包みと、長いサラミ一本。
「……随分と偏った買い物ね」クラウディアが眉を上げる。
「お菓子は心の栄養っす!」タリヤは胸を張った。
「嗜好品は否定しませんが、優先度を考えろ」マイルズは深いため息をつく。
だがクラウディアは小さく笑い、
「まあいいわ。船旅は長いもの。少しは楽しみも必要でしょう」
と軽く受け流した。
翌朝一番、一行はティルフォード港国へ向かう大型船に乗り込んだ。商人や旅人、巡礼者まで、実に多彩な人々で甲板は賑わっている。
「……うっ」
マイルズは早々に顔色を失い、手すりに縋っている。
「鍛錬が足りんのだ」キミトフが呟く。
「見てください! 街がもう、あんなに小さく見えるっす!」タリヤは身を乗り出してはしゃいだ。
クラウディアは街で買った新しい帽子を被り、遠ざかる港を静かに見つめていた。
長い航海ののち、ようやく水平線の彼方にティルフォード港国の姿が見えはじめた。
「陸だーっ! 見えてきたっす!」
マストの上からタリヤが叫ぶ。
「嬢ちゃん、そろそろ降りてきな」船員が声をかける。
いつの間にそんなに打ち解けたのか――。
クラウディアは風に揺れる帽子を押さえながら、思わず小さく笑みをこぼした
遠く、水平線の彼方に霞むように小さく見えるのは、ティルフォード港国。
ティルフォード港国――王国の南方、青い海に突き出した群島の上に築かれ、海に抱かれる青の国。
陸に根を張るよりも、海へ身を委ねて栄えてきた。
水平線を埋め尽くす帆船の群れは、この地がいかに富と人を集める場所であるかを雄弁に物語っていた。
白壁の城塞を背に、赤瓦の街並みが段丘状に広がり、眼下には幾重にも重なる桟橋と倉庫。
潮風に混じって魚の匂いと香辛料の香りが入り交じり、異国の商人たちの声が飛び交う。
王国本土の厳格さとは対照的に、ここは活気と混沌が渦巻く南の玄関口だった。
クラウディアは遠目に輝く帆を見つめながら、ここが次なる交渉の舞台であることを改めて胸に刻んだ。
前回が少し長かったので、今回は短めに。
船旅の様子ももっと描けたのですが、またの機会に。
タリヤは書いてると自然に動きとセリフが出てくるので、本当に助かってます。




