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束の間の休息は、夜明けとともに終わりを告げた。
翌朝――シュトラール邸の大会議室。
重厚な扉が開かれると、広間の長卓には領内の要人たちがすでに揃っていた。
学院長、医師長、会計官長、検査長、代官長、農務長、そして軍を率いる将――
ここに集うのは、シュトラール領の頭脳であり、心臓でもある者たちであった。
「学院長、学園の様子は?」
「生徒はよく学んでおります。ありがたいことに学問の進展が早く、教材が追いつかぬほどでございます」
「結構だ。蔵書を整理し、必要な文は写本させよ。教師にも執筆を促し、学びの芽を絶やすな」
「医師長、病の流行は?」
「大きな疫病はございません。ただ、季節の変わり目ゆえ子供の咳が目立ちます」
「分かった。薬草の備えを厚くし、各村への巡回を増やせ」
「会計官長、財の流れは?」
「収支はおおむね均衡していますが、予備費が薄く、不測の事態に備える余裕は乏しゅうございます」
「では不要な支出を削り、余剰を積み立てよ。数字は後ほど私の机に揃えること」
「検査長、不正や腐敗は?」
「領内は安定しています。ただ、王都から流れてきた商人の一部に、帳簿の誤魔化しや計量の不正の疑いがございます」
「商いは血流に等しい。取引の透明性を保ち、疑わしきは明らかにせよ」
「代官長、民の声は?」
「治安の改善に安堵する声が多い一方、物価の上昇を心配する声もございます」
「然るべき時に物資を放出し、過度な不安を鎮めよ。民心を軽んじるな」
「農務長、畑の様子は?」
「天候は安定し、収穫も順調ですが、一部の村で害虫の発生が報告されております」
「耕作地を巡視させ、必要な薬草や灰を手配せよ。被害を広げるな」
「将軍、兵の士気は?」
「高まっております。鍛錬は怠りなく、兵たちは誇りをもって務めを果たしております」
「よし。士気は一度崩れれば戻らぬ。今の高さを決して落とすな」
ここで一巡した報告は終わったが、その後も会議は続いた。
細かな数字の擦り合わせから、今後の施策に至るまで――議題は多岐にわたり、討議は長く続いた。
やがて時が流れ、ようやく会議は一区切りを迎える。
長卓を囲んでいた要人たちは次々と辞去し、広間は少しずつ静けさを取り戻していった。
残されたのはクラウディアと、マイルズ、キミトフ、タリヤの三人だけである。
クラウディアは椅子の背にもたれ、静かに息をついた。
「賊の討伐も終わり、領もある程度は安定してきたな」
短い沈黙ののち、クラウディアは低く続ける。
「しかし小さな綻びが積み重なれば、いずれ大きな禍となろう。――次に打つべきは外交だ」
キミトフが眉を寄せる。
「どことの外交をお考えで?」
「ティルフォード港国だ」
マイルズがわずかに首をかしげた。
「海を越えてまで、なぜティルフォード港国なのです」
クラウディアは机上の地図に指を置く。
「王都から西の諸国へ外交を行うには、我が領を通らざるを得ない。
仮に国交を結んでも、我が領では通行証を持たぬ商隊の往来は許可されていない。
これは王家が定め、我らに許された権限であり、王とて容易には覆せぬ。
もしそれでも強引に通せと命じれば、周囲の諸侯からの信頼は地に落ち、二度と戻らぬだろう。
――ゆえに王都は海路を選ぶしかない」
指先が地図を滑り、港の名を示す。
「となれば、王都が物資を得ようとすれば必然的にティルフォード港国と結ぶことになる。……だからこそ、先んじて押さえる」
マイルズが腕を組んで口を開く。
「港の一部の商人たちは、すでにティルフォードと交易していますが……あくまで民間の範囲にとどまっています」
タリヤが続けた。
「陸路で通じる諸外国の一部には諜報員を派遣していますが、ティルフォードにはいません。私が保持している情報も噂レベルで、確証はないですね」
クラウディアはタリヤに視線を向ける。
「……であれば、お前が最初になるな」
タリヤは目を見開いた。
「私も、ついていけるんですか?」
「ああ。本部長、聞いたな。――入ってこい」
わずかな間をおいて、重厚な扉が音を立てて開いた。
姿を現したのは壮年の男。タリヤが息をのむ。
「……お父さん」
クラウディアは口元にいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「極一部にしか知らされていないが、この会議室は諜報部と繋がっている。表立って会議に出すわけにはいかんからな」
だが次の瞬間、その眼差しは鋼のように鋭くなり、声には揺るぎない威圧が宿った。
「本部長、タリヤから引き継ぎを行い、王都の監視を続けよ。――マイルズ、キミトフ、今回はお前たちも同行だ。領は安定してきた。平時どおり執事に任せ、司令室は部隊長へ引き継げ」
「はっ!」
力強い声が一斉に響き渡り、大会議室の空気が一段と引き締まる。
クラウディアは静かに立ち上がり、全員を見渡した。
「三日後に出立する。各自、任を忘れず準備に当たれ」
ようやく新しい章に移行することができました。
ここまで続けられたのは、読んでくださり、感想やリアクション、そしてブクマで応援してくださった皆さまのおかげです。
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タリヤ帰宅後
タリヤ「お父さん、もしかして昔っから今までずっと聞いてた?」
父「......」
タリヤ「最悪!」




