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短めです
クラウディアが去ってから、数か月後のグラーツェル領。
かつて賊の跳梁に怯えていた街道は、今や嘘のように静まっていた。
シュトラール軍が治安維持に協力して以来、隊列を組んだ兵士たちの巡回は規律正しく続けられ、野盗の影もぱたりと絶えたのだ。
滞っていた流通も、いまでは活気を取り戻している。
荷を降ろす商隊、街道を行き交う荷馬車、市場には再び人波が溢れ、商人たちの顔にはかつての陰りが消えていた。
――いや、むしろ以前よりも力強い笑みを浮かべているようにさえ見える。
しかし、その繁栄は領都から東へ、王都の方角へと続いてはいなかった。
グラーツェルと王都を結ぶ街道は、依然として荒れたまま。
そこで交易を続ける商人たちの表情には、まだ翳りが残る。
一部は既に方向転換し、王都を諦めてシュトラールとの交易に乗り換える者も現れ始めていた。
ギルド長は、賑わう市場を見渡しながら小さく呟く。
「……商人の安全を守るのも、ギルドの務めか」
ほどなくしてシュトラール家との間に、定期的な情報共有の契約が結ばれる。
――時は戻り。
会談を終え、シュトラール領へと帰還したクラウディア。
夕暮れに染まる屋敷の門前では、既にマイルズが控えていた。
姿を認めるや、彼は足を進め、一礼する。
「お帰りなさいませ、クラウディア様」
クラウディアは小さく頷き、外套を翻して馬車から降り立つ。
「留守を任せたわね。変わりはなかった?」
マイルズは一礼し、落ち着いた声で応じる。
「現状、大きな問題は起きておりません。ご指示どおり、交渉に長けた文官を選抜し、各領の商業ギルドへと派遣いたしました。一部は既に契約を取り交わし、残すはクラウディア様のご署名をいただくだけの状態です」
「それはいいニュースね」
マイルズは表情を変えず、続ける。
「それと、タリヤからの報告では――王都において兵士への給金遅配が一部で見受けられます。ただし、現時点では大きな影響は出ておりません。王室は変わらず豪奢な暮らしを続け、王子は新しい婚約者に浮かれて様々な金品を貢いでいる模様です」
クラウディアは眉をひそめ、吐き捨てるように言った。
「あの方々は、無能であることだけは決して裏切らないのね」
マイルズはわずかに間を置き、手にした書類の束をめくる。
「そして最後に――重要事項として、大きく記されている報告がございます」
クラウディアの表情が強張る。
「なにかあったの?」
思わず声に焦りが滲む。
マイルズは真顔のまま読み上げた。
「王都の食事が、近頃おいしくなくなってきて辛い、との報せが」
クラウディアは一瞬呆けたあと、深々とため息をついた。
「……チョコレートと最高級サラミを速達で送ってあげなさい。あの子の好物だもの」
「はっ」
返答しながらも、マイルズの口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。
高級サラミを値段を気にせず食べれるようになりたいです。
それとは別に、ブックマークしてくださった方々、リアクションを残してくださった方々――感謝の念とともに、悪は必ず滅ぼします。




