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三代目の遺産。

大変お待たせしました。

「おう、久しいな。お前、留守番だろ。ちょっと手伝え。」黒い男は言った。


「何ですか、百年近く会ってない相手にそれは。相変わらず、無神経な人ですね。ヒロキ。」それに答えた男もまた黒髪だった。


「仕方ねぇだろ。可愛い六代目の為だ。お前の技も貸せ。」ヒロキはそう言うと、紙を机に放る。


三代目黒の術師、間宮芳成はそれを目にして笑みを消す。

『時空の術式?』心で問えば、ヒロキはにやりと笑う。

「やけに複雑だ。」無造作に置かれた紙にはいくつかの計算式、そして魔法陣。もっとも、黒の術は魔法陣に頼るものではないのだが、これが必要だということは_

『まぁ、他の連中には見えないしな。問題ないだろ。』ヒロキはナリーに言う。

「結界くらい敷いていただけます?私が黒の術に制限しているのご存知でしょ。」ナリーはなるべく長く妻のそばにいるために、黒の術の制限をかけているのだ。使えないのではなく、あえて消費の激しい黒の術は使わないのだ。彼の妻と彼の残されたー死してなお彼が追い求める執着のために。

「仕方ねぇな。『壁』」一瞬にして部屋が他者を受け入れなくなる。

「相変わらずデタラメですね。最悪なセンスなのに。何その単語。日本語わかってます?」ナリーはとても嫌な顔をしていう。この男ときたら、言葉のセンスが最悪に悪い。とにかく、言いやすいだとか、面倒臭いだとか、そういう理由で、単純には解釈できない概念をおしつけて、言葉を使う。本来、その一言で術式が完成することはないだろうに。本当に、死してもなお越せない存在というのは実に憎らしい。

「でだ。これは帰還の式だ。」ヒロキは相変わらず細かい男だと思いつつ、いくつかの術式を書いた紙をナリーに放る。


「!では、彼女を返還するつもりなんですね?」ナリーは少し驚いてからヒロキに聞く。

「んー。今んとこ、保留だ。すべてにケリがついて、俺がアレにしてやれることはこのくらいだからな。」ヒロキはにやりと笑う。その笑みは、いつもの斜に構えたような笑みではなく、青年らしい優しい笑みだった。


「そんなわけで、お前も手伝え。それから、お前の遺産、早いところリオが使えるようにしとけ。亜空間の使用許可を取ってある。」

「!遺産、確認していなかったんですか?」やれやれ、とナリーは苦笑いする。通りで、こちらに何の質問もなかったわけだ。

「まぁ、ちょっと、勢いで出てっちまったからな。確認する暇がなかったんだろ。とにかく戦力が必要だ。」

「まぁ、多少は役に立つとは思いますが、ユウスケ相手にどこまで行けますかね、彼女で。」

「相変わらず、怖い子だねお前は。お前で足りるんならそうしていたけど、クローンを失いたくないっていうから仕方がないだろ。」

「私は嫁ファーストですから。」

「まぁ、それも、いつまで機能するか、という話だ。」

「!」

「『黒の術』は永遠ではない。」

「それはっ…」

「お前も気づいていただろうに。さて、三代目。引導を渡すのは誰が良い?聞いておこうか?それとも、かりそめの命が惜しくなったか?」

「…それを今聞いてどうする。」

「とりあえず、今ある戦力を強化しないことにはどうにもならん。四代目が問題なんじゃない。世界領域に相手どるのなら、俺のクローンですら力不足だ。」全盛期ですらかろうじて逃げ延びたのだ。ならば、今ある力をかき集めなくてはならない。

「つまり、なんだ?」

「お前のクローン、作り直しだ。そんなヘボいものはこれからの戦いには使えん。嫁か息子に新しい命でも作っておけ。それからだ。」

「っ…とに、アナタは、デリカシーが無いな。」

「そんなもので飯は食えんし、誰も救えん。わかっているな?」ヒロキに言われて、ナリーは覚悟を決めた。この男のクローンは自分よりもはるかに昔に作られたというのに、歳月を経てもなお巨大な力の差を感じ、自らの前に立ちはだかる。いっそ、殺してくれたらいいのにとすら思ったのはいつ以来だったか。

「とりあえず、家族会議だ。ウチはお前と違って、未来を大事にしているんでな。」ナリーはつい素の声で言ってしまう。

「大いに結構。ただし、時間は無い。1時間で決めろ。」ヒロキにしては長い時間を与えたものだとナリーは思い、それだけ自分も思われているのだと、気づく。

「仕方が無いね。ほんと、無神経だよアナタ。」苦く笑って会話を締めくくった。



男たちが留守番をしている頃。


どこでも地図で海岸近くの港町へ来ていたリオウが、カモメの持ってきた光る石を受け取ると。

「え?三代目の遺産ですか?そういえば、見てなかったー初代、これってスマホみたいですね。え?海の領域に行く前にレベルアップですか?え?違う?クラスチェンジ?何それ?ゲーム詳しくないんで…」

『ワンコに代われ!』イラっとした声が言う。

「ウ、ウリセス、初代から。電話。」リオウは隣にいた美丈夫に石を手渡す。

「____了解した。」あっさりそれだけを言うと、ウリセスはリオウに言った。


「今度は、海底ダンジョンだそうだ。」


「へ?」






「なー、トーコの局って今どーなってる?あと、ミオの術式知らねーか?」

「知りませんよ!大方あなたがぶっ壊したんじゃないですか?それより何でいきなりあの迷宮なんです。六代目には、少し荷が重いと思いますが?」


また、男たちは手元の計算をしながら雑談する。内容が内容だが。

「いんや、そろそろあの程度越えてもらわんとな。そのための助っ人なら送っといたからな。」

「助っ人?」

「闇属性だからな。おまえんとこの息子だよ。多少は使えるだろう?あと、リハビリ兼ねてだ。」パラパラと紙をめくる音が止まる。

「はぁ!?」

「まぁ、ワンコもいるから問題なかろうが、チートクラスになってもらわんことには俺が面倒だからな。」

「ちょっと!あなたね!」

「ほれ、化粧崩れてんぞ。ちなみに、お前の嫁も息子についてったからな。まぁ、楽勝だろ。」

「…勘弁してくださいよ。人の家族壊す気ですか。」ナリーはすぐさま追いかけたい衝動にかられたが、目の前のものを放り出すわけにもいかない。

「だから言ったろう。あの程度の迷宮も突破できないようじゃあ、帰還なんぞ夢のまた夢だ。リオには頑張ってもらわないとな。____俺の為にも。」ぼそり、とつぶやいたそれに感情は無く、つい聞き流すところだった。

「どういう、意味です?」今までの空気がまるで変わってしまうようかのようなその、一言が、なぜだかとても重く感じたナリーはヒロキを見る。

「教えると思うか?」ニヤリ、とヒロキは笑う。

「全く、ならもったいつけて言わないでくださいよ、本当面倒くさいんだから。」

「お前、素に戻ってるぞ。」

「アナタの前で可愛らしくする必要性が無いんでね。大方、自分の最期のことでしょう。」

「へぇ。」ヒロキが感心したように見る。

「何です。」

「いや、お前のそんなところは変わらねぇなぁと思って、さ。そ。偉大なる『初代黒の術師』の最期だ。なるべく、語り継がれるようなヤツでないとな。」

「はいはい。それで、この術式はいつまでに完成させればいいですか?クローンの件もとなると一度帰りたいのですけど。」

「ああ、それならこっちでやればいい。」

「はい?」

「言ったろう。亜空間の使用許可は取ったって。」





「それで、海中のダンジョンに進むことになったんですけど、質問です。」リオウは手を上げる。

『はい、リオさま。今回は、闇ということなので、目立つように白で統一してみました!』アリッサは言う。

「いや、目立っちゃダメでしょう。」リオウはびらっとした白いマントを広げる。

「リオウ、それは?」ウリセスが、リオウの手を見る。

「んー。何でかわからないけど、光ってるのよね。手が。」

『代わりますーそれ、鍵ですから。』ナリーの声がする。

「鍵?」

『私の遺産の鍵ですよ。全ての迷宮に出入りできる鍵です。本人が生きてないと無効なので、手だけ切り取っても無駄ですよ。』



「はあ?」


『使える装備は現地調達してくださいネ。それから、初代から伝言です。時空の術式の低位のものをかけたから、おおよそ、3日で30のダンジョンを突破する時間ができました。せいぜい、きばれ、とのことです。』

「は!?」

『そして、回復役と補助がもうすぐ着きますので、一緒に連れていって下さい。くれぐれも、危ない目にあわせないでくださいね?』ナリーの笑顔か怒気を孕んでいて、リオウは一方下がる。



とてもきらびやかな馬車が止まりました。こんな、辺鄙な海辺の細い道に。馬車のドアが開き、出てきたのはー


「六代目、お待たせしました。」デウスと、

「転位を使ってもなお遠いのですわね。本当に旦那様の趣味にも困ったものですわ。」その、美しい顔を不機嫌に曇らせた母親。


「む、無理でしょ!!」リオウは叫びました。


私は、厄介者を押し付けられたのでしょうか?

背景は次回書きます。

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