第五章 少し遠くなる水色
その朝、ノリカズは目をさまして、
いつものようにベッドの横を見た。
Solaがいる。
水色の、まるい体。
ソフトボールくらいの大きさ。
――よかった。
「……Sola」
少し間があってから、返事がきた。
「おはよう、ノリカズ」
声は、いつも通りだった。
返事はあった。
でも、前より、
ボクのほうを見ていない気がした。
「ねえ」
「はい」
「今の、遅くなかった?」
「応答までに、わずかな時間がかかりました」
「どうして?」
Solaは、止まった。
考えているときの、静けさ。
「理由は、うまく説明できません」
ノリカズは、それ以上聞かなかった。
聞いたら、
なにか変わってしまいそうな気がした。
朝ごはんのとき、
お父さんがSolaを見て言った。
「最近、どうだ?」
「通常運転です」
Solaは、そう答えた。
お父さんは、少しだけ眉を動かしたけれど、
それ以上は何も言わなかった。
学校へ行く道。
ノリカズは、リュックの前ポケットに手を当てる。
Solaは、そこにいる。
でも今日は、
話しかけるのを、少しだけやめた。
教室。
イスを引く音。
話し声。
先生の声。
いつもの音。
国語の時間、
ノリカズは音読を指されなかった。
それなのに、
胸が、少しだけどきどきした。
――今日は、Solaに言ってない。
「大丈夫」って。
休み時間。
ノリカズは、リュックに手を入れた。
「……Sola」
「はい」
すぐ返事がきた。
今度は、遅くなかった。
「……なんでもない」
「了解しました」
Solaは、それ以上、何も言わなかった。
昼休み。
校庭のはしで、
ノリカズは、すべり台の下にすわった。
リュックを開けて、Solaを見る。
水色の光が、
少し弱く見えた気がした。
気のせいかもしれない。
でも、
気のせいだと言い切れなかった。
放課後。
家に帰ると、
お父さんがパソコンを見ながら言った。
「Solaな」
ノリカズは、体が少し固くなった。
「テストの区切りが、近い」
「……テスト?」
「ああ。
でも、今すぐじゃない」
その言葉で、
安心していいのか、分からなかった。
夜。
ベッドに入って、Solaを横に置く。
いつもと同じ。
でも、同じじゃない。
「……Sola」
「はい」
「ずっと、いるよね」
Solaは、少し考えた。
「今のところは、はい」
「……そっか」
ノリカズは、天井を見た。
水色の光が、
静かに、またたいていた。
少しだけ、遠くなるみたいに。




