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変態おじさんと不良銃騎士と白い少年  作者: 鈴田在可
第一章 変態おじさんと白い少年
9/52

8 彼の計画 2

 エリックの隣にはゴーグルのようなもので目を完全に隠したスノウの姿がある。


 そういえば近々スノウが退院するらしいという話は聞いていた。しかしなぜ警務隊に捕まっているはずのエリックまでいるんだ? 幻覚か?


 彼は優雅に微笑み、一歩一歩こちらに近付いてくる。


「な、何しに来たの?」


「君を迎えに来たんだ。僕たちと一緒に行こう」


 声をかけてみると確かに返事が返ってきた。やっぱり幻覚じゃない。これはまずい。


 公園には他にも何人か人がいるけれど、おそらく一見上品で物腰の柔らかそうなこの男が犯罪者だと気付いているのはハロルドだけだ。


 エリックが微笑んだままハロルドを立たせようと手を差し出してくるが、ハロルドはそれをパシリと弾いた。エリックが意外そうな顔をする。


「どうしたんだい? 僕の可愛いハロルドは迎えが遅かったことに拗ねているのかな?」


「そういうのやめてください。あなたの迎えなんて待っていません。あなたには会いたくありませんでした。二度と僕の前に現れないでください。あなたのことは忘れますから、あなたも僕のことなんて忘れてください」


「ハロルド、どうして泣くんだ」


 拒絶の言葉を吐き出しながらも、なぜだか涙が出てきて胸が痛かった。


 この人は自分を利用しようとした。だからどうしても許せなかった。この人と一緒に行くつもりはない。


「僕の精子を使ってスノウに子供を作らせるつもりだったんですよね?」


 あの論文にはっきりそう書いてあった。


 あの日、エリックとは行為を通して気持ちが通じ合った気がしていた。けれど彼は事あるごとに始終ガラス管を取り出していて、ハロルドの子種を採取しようとしていた。ハロルドはあの行為でエリックに恋をしてしまったけれど、彼にとってはそうではない。あくまでも組み込まれた実験を成立させるために必要な行動の一つにすぎない。


「そうだよ。駄目だった?」


 隠すつもりもなかったのか、あまりにもさらっと言われてしまい、ハロルドは返す言葉を見失う。


「稀人同士が子を成し、その結果を見届けることはこの世界に絶対に必要なことなんだ。


 稀人は珍しい。ハロルドはやっと見つけた僕の宝物なんだ。スノウはまだ若すぎるけれど、身体が育つまで種を冷凍保存すれば問題はない。出産に関してはスノウからの承諾は得ている。体外受精をすれば――――エッチしなくても子供が授かれる魔法みたいな方法なんだけどね――――男側にはそれほど問題も起こらないと思っていた。ハロルドが苦しんで女を抱く必要もないし、元々君自身に辛い思いをさせるつもりはなかったんだ。本当にごめん。


 ……でもそうだよね、勝手に自分の子供を作られたら怖いし、嫌だよね…… ごめんね……


 だけど、稀人同士の子供ができたらどうなるのかを見届けるのは僕の夢なんだ。僕はこの証明に命をかけている。

 

 協力してもらえるなら何でもするよ。精子を渡す代わりに死ねと言うなら死んでみせるよ。ただし結果を見届けた後になるけどね。

 出来た子はどんな子であっても僕が全力で育てて可愛がるし、あとは例えば一生女を抱かずにハロルドだけを愛し続けろと言うならそうするよ。ハロルドの協力が不可欠なんだ。どうか力を貸してもらえないだろうか?」


 エリックが頭を下げた。静かに、しかしどこか熱が入ったような様子で語っていたエリックに、ハロルドがぽつりと告げる。


「……リックは、僕がスノウと子供を作っても平気なの?」


 子を成すのは愛の行為だ。それを他の人としてしまってもいいのか?


「子供を作るのは愛している人同士がすることでしょう? リックは僕がスノウと子供を作ってしまっても何とも思わないの? それでいいの?」


「もちろん僕は研究のことを抜きにしても君のことをとても愛しているよ。そしてスノウのことだって愛している。僕は愛している二人が子を成してくれるなら、とても幸せだ。僕たちはもう家族なんだ」


 違う、聞きたいのはそういうことじゃない。


 やっぱりエリックが言う「愛してる」と自分が言う「愛してる」は違う種類のもののようだ。


「君の気持ちを蔑ろにしてしまう部分はあるかもしれないけれど、それは尊い犠牲だと思っている」


 たぶんこの人の価値観と、自分の価値観は合わない。


「ごめんなさい。僕は実験材料にされるのは御免です」


「どうしても嫌なの? 僕と一緒に来てくれないの?」


 ハロルドが迫るエリックと距離を取ろうとした時だった。


「ハル!」


 遠くからケントが名を呼んでいる声がした。ハロルドがそちらを振り向いたのとエリックが強い力で手首を掴んだのが同時だった。


「信じてもらえないかもしれないけど信じてほしい。僕は本当に、君のことを好きになってしまったんだよ。僕のものにしたい」


 エリックは脱獄したばかりで初回のように意識を失うような薬は持っていないのだろう。ハロルドの腕を力任せに引っ張って連れて行こうとする。


 断ったはずなのに、強く求めるようなことを言われると胸がドキドキしてしまう。このまま攫われて流されてしまってもいいかも…… と一瞬思ってしまったハロルドだったが――――


「ハル!」


 今度はヒルダが呼んでいる声が聞こえた。ハロルドは――――エリックの腕に思いっきり噛み付いてから突き飛ばした。


 尻餅を付いたエリックは本当に驚いたような顔をしていた。腕をさすりながら、ハロルド、どうして…… と呟いている。


「行かないよ。さよならリック」


 呆然と座り込むエリックと見下ろすハロルドの元にケントやヒルダや護衛たちが近付いてくる。


 エリックは魂が抜けたようになってしまっていたが、近くにいたスノウが彼の腕を掴んで立たせる。スノウは無言のままエリックを連れて逃げて行った。


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《転章直前と転章以降の時間軸の、本作品以外のシリーズ別作品に書いたハロルド周辺の話のまとめ》
※【 】の中はその時のフランツの状態やフランツとの関係性など

・シリーズにハロルド初登場とハロルド家族(父、四姉、五姉、六姉)が出てくる話【フランツと出会う前】
「その結婚…」の恋の危機編の「遠距離 2」から「同期と上官 3」あたりまでの約6話

・ハロルドたちが南西列島へ出立する直前の話【フランツと出会う前】
「その結婚…」の恋の危機編の「ハロルドの秘密」と次話「「彼女」との別れ」の2話

・南西列島に着いて以降、ハロルドが戦闘能力高めと仲間にバレていた話【フランツとは単に上司と部下】
「その結婚…」の恋の危機編の「友の実力」と次話「届かない便り」の2話

・南西列島が獣人に襲われたらしいと首都に伝わってる話【フランツにとってこの時にハロルドが特別な存在になる】
「その結婚…」の首都からの撤退前編の「アンバー兄妹 2」の後半部と、次話「銃騎士隊の魔王」の後半部の2話

・ハロルドとフランツの微ラブラブ話【フランツのハロルドへの思いは友情以上恋愛未満】
「その結婚…」の悲恋編の「慣れない距離感」

「その結婚…」の悲恋編の「告白」と、
次々話「ヒーロー(仮)は遅れてやって来る」にもハロルド視点の話あり

・【フランツ、ハロルドの服を乱す→胸を見る→殴られて恋と気付く】
「その結婚…」の悲恋編の「三角関係?」
と、
「その結婚…」の悲恋編の「疑問解消せず」の中頃 に脱がされシュチエーションになるまでの経緯等の説明あり

・フランツ、夜な夜なハロルドの寝袋に侵入する(セクハラ止まり)【フランツ、アタック中】
「その結婚…」の悲恋編の「疑問解消せず」の前半部

・ハロルドがゼウスを守ろうとして危機が去った後に、(以降は本編持ち越し)フランツたぶん襲いながら告白する予定【フランツぶち切れ】
「その結婚…」の悲恋編の「襲来」 と、次話「命を張らせないでよ」の2話


※※※


今作品はシリーズ別作品

完結済「獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~」

の幕間として書いていた話を独立させたものです


ハロルドの思い人であるゼウスの恋模様がわかる別作品

完結済「その結婚お断り ~モテなかったはずなのにイケメンと三角関係になり結婚をお断りしたらやばいヤンデレ爆誕して死にかけた結果幸せになりました~」(注:異性恋愛もの)

こちらもよろしくお願いします
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