51 いつか
R15注意
フランツと結ばれた後、ハロルドは三つ目の願いを叶えるために、アーク二番隊長に連絡を取り付けた。
最後の願いは、エリックのストーカー行為を止めさせることだ。
ハロルドはエリックと会うつもりはなかったので、問題の解決に魔法使いの力を借りようと思った。
色恋の、しかも男同士のことでアークが動いてくれるだろうかという心配はあったが、二番隊という諜報活動も行う部隊の長であるアークは、その願いを了承してくれた。
ハロルドは願いのことを話した後に、エリックと最後に話した時に返し忘れた手枷も、ついでに返却してもらえないかと頼んだ。
「それは四つ目の願いということか?」
「うっ……」
まさかそれも願いの一つとして数えられるとは思わなくて、またこの鬼畜隊長アークに何か見返りを言われるのだろうかと思い、ハロルドは呻いて返答に窮した。
「まあいいだろう。そのくらいはサービスしてやる」
直後にそう言われて手枷を受け取ってくれたので、ハロルドはかなりホッとした。
それからしばらくして、エリックが母島から出たという話をアークから聞いた。アークはエリックと直接話をして、手枷を返却し、ハロルドへのストーカー行為を金輪際止めることと、ハロルドには二度と接近しないことを約束させたそうだ。
「ありがとうございます……」
感謝を口にしながらも、これでエリックとは本当に終わってしまったのだと思えば、一抹の寂しさはあった。
エリックをどのように説得したのかを聞いた所、アーク曰く、ストーカー行為を止めなければエリックの別れた妻子に危害が及ぶだろう、と脅したそうだ。
平和的解決手法が取られなかったことを聞いたハロルドは唖然としてしまった。
ただ、エリックもすぐには了承しなかったので、アークは仕方なく、二度目の訪問の前に魔法で元奥さんの所へ行って、髪を一房もらってきたそうだが、エリックは髪質からそれが本物だとわかったらしく、顔を真っ青にしていたそうだ。
(エグいよこの人……)
ハロルドはアークの思考回路が、極めた道の人のようだとも思った。
やっぱり鬼畜だ怖いと思いつつも、出会いから約七年間も、ハロルドのことが頭にあったのだろうエリックを諦めさせてくれたアークには、感謝しなければと思った。
一時は死亡説もあったエリックが、生きていたと知ることができただけで安心したし、彼には自分に拘らずに幸せになってほしいと思った。
ハロルドの意向で明かりを落とした部屋の中では、少年と、男の影が揺らめいていた。
今夜も今夜とて、ハロルドは寮のフランツの部屋で彼に抱かれた。
程良い疲れと共に浴槽に浸かり、ハロルドはフランツに抱きしめられながら幸せを感じていた。
フランツの裸身は国宝級に美しく、ずーっと眼福状態で見ていて飽きない。「大好き!」と言いながらフランツの胸板に頬を寄せてスリスリしていると、「支隊長! 支隊長!」と、乱雑に扉を叩く音と共に、浴室の先の私室の出入口の向こうからフランツを呼ぶ隊員の声が聞こえた。
「何だ?」
こんな夜中に何事だと訝しみつつ、フランツは風呂から上がると、腰にタオルを巻いただけというセクシー状態で部屋の入口へ向かってしまった。
ハロルドも浴室から出て身体を拭いた。濡れないようにお団子にしていた長い髪も解いて、少し付いていた水分も拭き取っていく。
「何ィ! 襲撃だと?」
部屋の向こうからフランツの驚いた声が聞こえてくる。ハロルドは身体にバスタオルを巻いた。
すぐにバタバタと足音がして、フランツが脱衣室に戻って来る。
「ハル!」
フランツが扉を開けると、お守りの組紐で髪を一つに結っていつもの戦闘態勢を整えようとするハロルドの姿があった。
「獣人が襲撃してきたそうだが、お前は身体が辛かったら休んでいてもいいんだぞ」
事後ではハロルドの身体に負担があると考えたのか、優しいフランツはそんな事を言ってくる。
「大丈夫だよ。俺、出られるから」
「だが――」
「稀人だから、身体は本当に大丈夫だよ。俺、みんなを守りたいんだ。フランのことも必ず守る。ずっとそばにいるって言ったでしょ?」
髪を結い終えたハロルドはフランツに向き直って笑いかけた。
獣人との戦いはこれからも続く。
いつか平和な世界になってほしいと願うけれど、現状はまだまだ理想には程遠い。
本当は稀人の秘密を広く世界に打ち明けて、人間と獣人に垣根はなかったのだと証明したいが、そこら辺はアーク隊長たちもタイミングを図っているのだろうと思っている。
「鍵」はエリックの研究であるし、いずれまた彼と再会せざるを得ない日も来るかもしれない。
ただ、ハロルドにはフランツだけだから、もう彼と会っても揺らぐことはないと思った。
しばらくは獣人たちの脅威を退けて、手の届く範囲だけになってしまうが、できる限りの人々を守る日々が続く。
少しずつ少しずつ、以前よりも精神的に強くなっていくハロルドを眺めて、フランツはハロルドへの愛情の込もる眼差しに、眩しいものを見るような色を乗せた。
「わかった。俺のそばにいろ。俺はハルを、ずっと、絶対に離さない」
「うん、俺もフランを離さない。愛してる」
自然と近づいた唇同士を合わせた二人は、チュッと軽くキスをした。
しかし、イチャイチャしている場合ではない。続きは獣人たちを退けてからである。
まずは隊服を着て身支度を整えようと、二人は同時に行動を開始した。
【終】
完結です。途中かなりの中断を挟んでしまいましたが、完結まで辿り着けて良かったです。活動報告にあとがきと補足を載せています。
お読みいただきありがとうございました。




