50 重なる夜
R15注意
魔法使いシリウスが暴れていた屋外から建物内部に連れ込まれたハロルドは、フランツの肩に担がれた状態で一階の救護室入り、急病人が休むための白色で統一された寝台の上に乱雑に放り投げられた。
「ハロルドォォォォォッ!」
怨嗟の滲んだ怒鳴り声と、すべてを破壊しそうな怒りに満ちた目で睨み付けられたハロルドは、怒髪天を衝くとはまさに今のフランツのためにあるような言葉だと思った。
「ご、ごめんなさい!」
ハロルドはハロルドなりの考えで、信念を持ってゼウスを助けるために動いたが、かなり無茶をした自覚もあり、フランツが怒るのも無理はないと思って咄嗟に謝った。
「黙れっ! 毎回毎回! 『ごめん』って言えば済むとでも思ってんのか? てめぇは俺をナメてんのか? 二度も自分から進んで死にかけやがって!
お前は俺を愛してるって言うけど、本当に愛しているのか? なんで俺よりも他の奴を優先して死にかけてんだ!
お前は俺を殺したいのか? お前が死んだら俺も死ぬって言ってんだろ! わかんねえのかよ!」
怒って泣きながら力任せにハロルドの服をビリビリにしていくフランツを前に、ハロルドは彼を傷付けてしまったことを酷く後悔した。
「支隊長……」
ハロルドは自分の服を破るフランツの手をそっと掴んで、その動きを止めさせた。
人間では稀人の腕力には敵わない。動きを封じられてこちらをきつく睨むフランツを前に、ハロルドは覚悟を決めた。
「自分で脱ぎます」
「……ハロルド?」
「告白の返事を先延ばしにしたり、時々冷たくしてしまって本当にすみませんでした」
フランツの手を下ろしたハロルドは、自らの破れた隊服に触れて脱ぎ始めた。
「俺も支隊長を愛しています。俺からも、お付き合いをよろしくお願いしたいです」
「……俺と恋人になって、くれるのか?」
「はい」
ハロルドは宣誓するように迷いなく答えた。
先ほどまで外に響いていた、シリウスの雷魔法の轟音は止んでいる。
支隊に現れた実は魔法使いだった友人ノエルが、彼の兄でもあるシリウスを止めてくれたのだろうと踏んだハロルドは、ゼウスのことはノエルや他の銃騎士隊員たちに任せることにした。
そして、エリックのことも――――
実はエリックは行方不明後、誘拐を指示した親玉に新薬開発の技術提供をしたことで無罪放免になり、以降、ハロルドの前には宣言通り姿こそ見せなかったものの、ずっとハロルドに対してストーカー行為を続けていたそうだ。
なので今も、首都から南西列島に移ったハロルドを追いかけて来て、この島に住んでいるらしい。
まさか、会おうとすればすぐ会える場所にいたとは、青天の霹靂である。
エリックについては、ゼウスのことが一段落したら直接会って話をしてみるべきだろうかと悩んでもいた。
だが、絆されやすくて情に流されやすい自分が彼に会ったら、碌なことにはならない気がして、フランツをもう泣かせないためにも、エリックとは二度と会わずに完全に決別しようと思った。
ハロルドは、今目の前にいる、時々情緒不安定で少々暴走気味にもなる最愛の人を、一番に考えていくべきなのだと思った。
ハロルドは上の服の残骸を取り去って、フランツが見るとおかしくなる自分の✕✕も全部出した。
ハロルドはフランツのすべてを受け止めるつもりで、彼に向かって両手を差し出した。
「あなたを愛しています。 ――――抱いてください」
二人が始めているのは救護室ではなくて、フランツの寮の部屋だった。
ハロルドは告白了承の流れのままに初めてをすることも覚悟していたが、年の功なのか気遣いを見せてきたフランツが、「このまましても大丈夫か?」と聞いてきたので、「できればお風呂に入りたい……」と告げたハロルドの意向を汲んでくれて、二人は寮まで戻って来た。
ハロルドの隊服は着れる状態ではなかったので、フランツは救護室の白シーツでハロルドを包み、お姫様抱っこで腕に抱えて運んでくれた。
自分たちは男同士だから結婚はできないけど、なんだか純白の結婚衣装を身にまとっているように思えて、ハロルドは嬉しくなった。
お互いに入浴を済ませて、それからハロルドはフランツの待つ隣の部屋へ向かった。
風呂上がりで腰にタオルだけを巻いたまま、上半身の美しい裸身を晒していたフランツは、滅茶苦茶に格好良かった。
そしてハロルドはそのまま、フランツに無茶苦茶に蕩けさせられることになった。
「ハロルドはすごい✕✕だな、何回目だ?」
ハロルドは頭の片隅で、『稀人だから獣人みたいに✕✕なのかな?』とぼんやり考えていた。
フランツに翻弄されながら、ハロルドの頭の中も、白く染まっていく。
「ハロルド……」
ハロルドはフランツにぎゅうっと抱き付いた。
「ハルって、呼んで……」
ハロルドの親しい人たちは皆自分をそう呼ぶから、最愛のフランツにこそ、愛称で呼んで欲しいと思った。
「わかった。俺のことはフランで頼む」
「仕事中も?」
「ああ、構わない。お前は俺の特別だからな」
ハロルドはフランツを信じてすべてを明け渡そうとしたが――――
フランツが安心させるようにハロルドの手に手を重ねて握り込んでくれた。
「ハル……」
「フラン……」
見つめ合う自分たちの思いは、今一つになっていると感じた。
「「愛してる」」
その夜、二人のすべては重なった。




