4 疑似親子の素性 1
病院に担ぎ込まれたスノウは出血が酷かったが命に別状はなく、入院し治療を受けることになった。
リックは未成年者略取誘拐罪で逮捕されて警務隊の取り調べを受けているらしい。スノウの身体にある無数の虐待の痕もリックの仕業ではないかと疑われたそうだが、ハロルドの誘拐は認めてもスノウの虐待については否認しているらしい。
ヒルダは元々明るくて快活な少女だったが、事件以降落ち込みが酷く塞ぎ込んでいるという。ヒルダは未成年だったこともあり逮捕されることはなかったが、補導されて数日を警務隊の施設で過ごさねばならず、まだ自宅には戻っていない。
ハロルドに怪我はなかったのだが、リックと共に素っ裸の状態で発見されたため、念の為にとスノウとは別の病院に入院することになってしまった。
ハロルドは事件後の詳細を病室に見舞いにやってきたケントから聞いた。
この件については、父は怒り狂い母は嘆き悲しみ、他の姉たちも病院に駆けつけてハロルドに再会するなり、程度の差こそあれ怒ったり泣いたりしていた。
あの日ケントと共に現場に来ていたエマについては、裸のハロルドと人を斬ってしまったヒルダを見るなり崩折れていて、かなり衝撃を受けているようだった。
家族はこの件に関して多かれ少なかれ感情的になっていた。ハロルドを気遣いながらも努めて冷静に対応してくれるケントの存在はありがたかった。
ただ、数日ぶりに目の前に現れたケントは少し顔色が悪く、どこか身体の具合でも悪いのだろうかと思った。心配になったので体調を尋ねてみたが、大丈夫だとしか返ってこない。雰囲気もどこか暗く思い詰めた様子だったので気になった。
公爵令息であるケントは、本当は駄目らしいのだが、公爵家の力を使って警務隊の取り調べ状況を聞き出していた。
ハロルドはこんなことになってしまったのは自分のせいだと落ち込んでいた。ヒルダや大怪我をしたスノウを気にかけながらも、それと同じくらいリックはどうなったのかとしきりに気にしていた。
他言無用と念を押しながらも、ケントはハロルドに知り得る範囲のことを教えてくれた。
「彼の本名はエリック・ホワイト。出身はこの国ではないが、自分の国でも騒動を起こしていて国外追放処分になっている。国に戻れば即死罪だそうだ」
ケントは他の者たちを部屋から出して完全に人払いをしてから話し出した。
「何をやったんですか……?」
「君と同じで誘拐だよ。少女を数日間監禁していたそうだ。監禁していただけで暴力や暴行を加えるようなことは一切なかったらしい。
被害者の少女は無傷で発見されたそうなのだが、相手が王侯貴族の娘だったことが大問題になってね、通常ならば王の命令で裁判を経ることもなく即刻処刑される所だったものを、彼の能力を惜しむ声が各所から上がって、仕方なく王は自国に戻れば処刑するという条件を付けて、ホワイト博士を友好国である他の国に監視付きで出したそうだ。
博士はその後友好国の監視からも逃げ出していて、君の誘拐事件を起こすまでは行方不明になっていたんだ」
「……ホワイト博士?」
「ああ、彼はその世界では高名な科学者なんだ。いくつか世界的に重大な発見をしている。例えば今では血液を調べれば親子関係がわかるような技術が進んでいるが、その根幹となる原理を発見したのは彼だ。他にも生物学や医療の発展に貢献するような偉業を残していて、特許もかなり持っている」
そういえば、リックは自分のことを生物学者だと言っていた。
「だが彼は自国では犯罪者扱いで、博士の特許の権利や個人資産などは差し押さえられていたのだが、どうやら隠し口座を持っていたらしくて、そこから逃亡資金を捻出していたらしい。
ハルが見つかったあの家は、博士が酒場で家を売ろうとしている者がいるという話を聞き付けて、不動産屋を通さずに購入したそうだ。
彼の元々の資産は小さな国の国家予算に匹敵するくらいはあるはずだから、あのくらいの規模の家ならすぐに買えたのだろう。自国でかなりの額を取られても、男一人と女の子が生活するのには困らなかったんだろうね。
博士は自国で誘拐事件を起こした直後に離婚しているが、彼の元妻が、博士の子供たちには国が差し押さえた資産を受け取る権利があると主張して、今は解決しているようだが、一時期はかなり揉めたらしいよ」
(リックが結婚していた! 子供までいた!)
離婚したとのことだが、彼が他の人に愛を誓って家庭を築いて子供までいたのかと、ハロルドは衝撃を受けた。
けれどリックは大人でハロルドよりも年上だし、むしろ結婚歴がないほうがおかしいのかもしれない……
「あの、リックの子供って何歳なんですか? その…… そもそもあの人っていくつなんですか?」
「博士は三十四歳だ。子供は二人いて、十歳と七歳だと聞いている」
(僕とあまり変わらない年齢の子供がいるのか…………)