48 三つの願い
『――――そうだな、一つとは言わず三つでどうだ? 俺の魔法を使ってお前の願いを叶えてやろう』
ハロルドは魔法による防音措置の施された支隊本部の一室にて、魔法使いであるアーク・ブラッドレイ二番隊長と一対一で話をしていた。
『ただし、ここからは銃騎士隊の任務の範囲外になる。見返りなしでは俺も魔法は使いたくない。条件がある。
―――――――――…………。だが、たいていの願いなら叶えることができる。
例えば――――――エリック・ホワイトの居場所を教えてやろうか?』
『生きて、いるんですか……?』
『その情報も含めてだ。知りたければ条件を呑め』
『……わかりました…………』
ハロルドは昨日アーク二番隊長と話をした場面を夢の中で見ていた。
その光景を頭の中に残したまま翌朝目覚めると、なぜかフランツの寝顔どアップが目の前にあった。
昨夜は、ショーンは個別でそれぞれと話をした後に、ゼウスの警護に戻って行った。部屋と続きの扉は両側から施錠されて、別々で寝るはずだったのに、朝起きたらハロルドはフランツに抱きしめられて寝ていた。
「支隊長…… なんで……」
思わず声をかけると、フランツが目を覚ました。
「あんな扉は俺たちの間には不要だ」
見れば、扉は開けっ放しになっていて、鍵の部分が取れて破壊されていた。
フランツは夜中のうちに鍵を壊して、ハロルドの部屋に侵入し、寝台に潜り込んでいたようだ。
「ハロルド、昨日は悪かった。愛してる。俺と付き合ってくれ」
おそらく、フランツも昨日ショーンと話をして、まずはきちんと恋人同士になろうと思ったらしく、目覚めて即、朝一で告白してきた。
「ハロルド?」
けれど、ハロルドが戸惑った顔のまま黙っているので、フランツは不安そうにこちらを見返してきた。
「俺も、支隊長が好きです。
でも、すみません…… 少しだけ時間をください」
「…………なぜだ?」
フランツは告白を保留にされて憮然としていた。
ハロルドは、昨日ショーンとジェフリーのことを話してから、いや、昨日アークと話をした時や、ゼウスと婚約者メリッサの事件が起こった時からずっと、心が晴れずに気持ちが沈んでいるのを感じていた。
けれど、ジェフリーへの推察も含めてフランツに自分の考えを伝えるのは憚られてしまい、「誰かとお付き合いをするのは初めてで、心の整理が……」と言って、誤魔化してしまった。
夜になるとフランツとの強制添い寝が待っているのはわかっていたので、ハロルドはショーンに話をして、ゼウスの警護要員の輪の中に入れてもらうことにした。
昨日は、ハロルドにとってもゼウスとメリッサの事件が衝撃的すぎたので、言われるがまま部屋で休んでいたが、ゼウスを狙う魔法使いシリウスの脅威は続いているので、フランツとのあれやこれやがなくても、稀人であるハロルドは自分の力を使ってゼウスを守ろうと思っていた。
ハロルドは昨日、アークと話をして、「三つの願い」の二つ目までは叶えてもらっている。
二つ目の願いで知り得たエリックの現状については、本当に驚きしかなかったが、とにかく、命の危機があるゼウスのことを何とかしなければならないし、エリックのことも、何とかして、ハロルドはそれから憂いなくフランツとお付き合いをしたいと思っている。
あの時、フランツに✕されそうになった時、ハロルドの心には、ゼウスでも、エリックでもなくて、フランツの存在しかなかった。
フランツにすべてを明け渡しても構わないと思ったその時に、ハロルドは自分がフランツを愛していることを知った。
ハロルドは既にフランツを選んでいた。
ゼウスたちは夜、支隊にある集会室という学校の体育館のような場所でまとまって寝ていた。
メンバーは支隊の猛者であるショーンと、別の島からちょうど応援に来ていた、支隊最強説もあった副支隊長のカイザーと、その専属副官のリオルだ。
本当は昨日フランツもこのメンバーに加わる予定だったらしいのだが、「アーク隊長もいるなら大丈夫」とかなんとか言って、ハロルドに突撃するために寮に戻ってきたらしい。
昨夜は何かあった時のためにアークも別の場所で控えていたが、今夜からハロルドも参加すると聞きつけると、「なら大丈夫だ」と言って、「何かあったらすぐに呼べ」とだけ言い残し、既に南西列島から離れている。
ハロルドも含めた四人でゼウスの守りを固めるはずが、ハロルドが警護にも参加すると知ったフランツが「俺も参加する」と言い出したので、結局夜の集会室では、ゼウスの寝袋の周囲に五つの寝袋が用意されることになった。
「三つの願い」については「その結婚…」の「128 襲来」の真ん中あたりにも書いてあります。台詞の重複あり。
https://ncode.syosetu.com/n5840ho/131




