39 崩壊
R15注意
男女の絡みあり
浮気され注意 胸糞注意 胸についての内容注意 嘔吐注意
フランツは養成学校卒業後、予定通りジョージ隊長率いる一番隊に配属された。
フランツは、一応伯爵令息として社交場に出たこともある経験から、一番隊の主な仕事である「貴族たちの護衛」は骨の折れる業務だと覚悟していたつもりだったが、実際に任務に当たった所、顔の良いフランツを狙って文字通り体当たりで迫り来る御婦人方のあまりの多さに、ため息と共に口から魂が出そうになる有様だった。
フランツにはオゼットという婚約者がいるのだから、「浮気、絶対ダメ!」精神を守り、どんなに誘われたり罠に嵌められそうになっても回避し続けた。
しかしあまりにも精神が摩耗していくので、時にはジョージに呼ばれたふりをして、一番隊長執務室に籠ってサボってしまうこともあった。
ジョージはそんなフランツを叱るでもなくお茶まで振る舞ってくれるのだが、優しい顔をしながらも、「あの令嬢に接近してちょっと探ってきてほしいことがあるんだ」などと、ワルイ指示を出すこともあるクソジジイである。
「……カイザーのお茶が飲みたい」
ジョージの淹れたお茶が不味いわけではないが、フランツは一番隊長執務室で茶を啜りながら、ため息と共にそうぼやいた。
カイザーも養成学校卒業後に一番隊へ配属になったが、一番隊は一番隊でも本隊ではなくて、南西列島にある一番隊の支隊へ配属になった。
支隊は首都からかなり離れた勤務地なのでカイザーとは全く会えていない。
南西列島は無人島に獣人が住みついたため、獣人との戦闘も発生しやすくなっている。首都の一番隊本隊とは違って遥かに命の危険の伴う赴任先だ。
カイザーが支隊へと旅立つ日、見送りには行ったが、それが永遠の別れになる可能性もあった。
カイザーが始終フランツに何かを言いたそうに見えたので、「言いたいことでもあるのか?」と聞いてみたが、特別なことは何も言われず、ありきたりな別れの挨拶をしただけで、カイザーは出立して行った。
入隊して最初の頃は互いの近況などを書いた手紙を送り合っていたが、お互いに忙しく、手紙のやり取りも自然と途絶えがちになった。
銃騎士として働き出した後、オゼットからは結婚を急かされていたが、フランツとしては、自分一人だけで生計が立てられるようになるまでは結婚するつもりはなかった。侯爵令嬢を娶るのであれば、それなりの生活水準を維持するだけの稼ぎも必要だったし、とにかく銃騎士隊一年目は結婚よりも仕事を優先させようと思っていた。
それでもオゼットは「早く結婚したい」の一点張りだったので、その部分ですれ違いはあったと思う。
フランツが一向に挙式日や結婚式場などを決める様子がないことや、隊の活動で他の貴婦人たちからもチヤホヤされて粉をかけられまくっていることに、オゼットは憤り、腹に据えかねていた部分もたぶんあったのだろうと思う。
銃騎士隊の新人一年目、夏が過ぎて秋に差し掛かろうとするその頃に、オゼットの浮気が発覚した。
フランツはその日、異母弟ハインツから「重要な話があるのでこの場所に来てほしい」と記された手紙と鍵を使用人経由で受け取った。
謎に思いつつ、言われた通りに街中にある住宅地の奥まった場所に辿り着いたフランツは、渡されていた鍵を使い、中に入った。
玄関の扉を開けた瞬間から、明らかにソレ中の女の声が聞こえてきて、フランツは当惑したが、その声がどうにもオゼットに似ているように思えて、フランツは危機感を募らせながら中を進んだ。
主寝室の扉を開けた先では、オゼットが男と交わっていた。
「ひっ…… フ、フラン様……」
フランツがこの場に現れたことに気付いたオゼットは、真っ青な顔になり慌てていたが、そばにいる男の様子はまるで違った。
「あっ! お兄様! やっと来てくれましたね! もしかしたら来てくれないかもって心配してたんですよ〜」
オゼットの浮気相手は、ハインツだった。
ハインツは明るい表情のままで嬉々としてそう言った。
「さあお兄様! これがあなたの婚約者の正体です!
いくら言い寄られたとしても、婚約者の弟とホイホイ寝るような尻軽女ですよ!
破棄破棄破棄! もちろん婚約は破棄しましょう! 結婚前にクズ女だってわかって本当に良かったですね! 僕がお兄様のために身を持って証明しました!」
クズはお前もだ、と脳裏をよぎったが、フランツは衝撃が強すぎて、何も言葉を発せなかった。
目の前に婚約者がいる。フランツが初めて見るオゼットの胸は予想通りにささやかだった。
小さくても明らかに女性のものである胸を見ながら、フランツは自分が大事にしていたはずのものが崩れていく感覚を覚えて、吐きそうになっていた。
「や、やめて! やめてったら!」
フランツが現れるまでは楽しそうな声を立てていたオゼットも、今や涙を流してやめてほしいと懇願しているが、ハインツはオゼットを気にする様子は微塵もない。
「✕✕っていうのも真っ赤な嘘でした!
聞いたら僕で五人目だってさ! 結構遊んでない? 僕なんて✕✕✕だったのにさ! 僕の✕✕本当に返してほしいよね! でも大丈夫! お兄様に捧げるはずの✕✕の✕✕は無事ですよ〜」
「……黙れ」
「ん? 何? 僕の献身に感動してやっと僕と付き合ってくれるのお兄様?!」
ようやく絞り出したフランツの声は怒りに満ちたものだったが、ハインツにはよく聞こえなかったようで、フランツの神経を逆撫でするような言葉と共に聞き返してきた。
「黙れって言ってんだよ! 誰がお前と恋人になんてなるか! ふざけるなこの野郎!」
固まっていたフランツの身体がようやく動いた。空気が痺れそうなほどの怒気を纏い、拳を握りしめて、生まれて初めて弟をぶん殴ろうとしたが、その前に――――
「おぅぇえぇえーーーー」
ハインツが行為を止めない中でフランツの本気の怒気に当てられ、最悪な状況に追い詰められすぎたオゼットがその場に盛大に嘔吐したため、フランツはクソ弟を殴ることができず、修羅場と化していたその場は惨状の場へと変化した。
後からわかったが、オゼットはこの時ハインツの子を妊娠していて、嘔吐は始まりかけていた悪阻のせいでもあったしい。




