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変態おじさんと不良銃騎士と白い少年  作者: 鈴田在可
第一章 変態おじさんと白い少年
4/52

3 過ち

R15注意 BLです











「ごめんね、どうしても君の子種がほしい。今日すぐには無理かもしれないけど、少しでも早く――――」






「ハロルド、キスしようね」


 呼び捨てにされて驚く。いつもは「ハル」か名字呼びばかりなので、それが新鮮だった。


 男の端正な顔が近付いてきた。熱を持ったような蒼い瞳に釘付けになってしまって動けない。


 男の大きな唇に自分の唇を覆われる。キスをするのは初めてだった。酷い事をされているのに、熱を含んだその唇を温かいと思ってしまった。


 ハロルドが息苦しくなると唇はつけたまま少しだけ隙間を作り、呼吸しやすいようにしてくれる。


「ハロルド、鼻で息をするんだよ」


 囁くようにそう言ってからまた唇をつけて、優しいキスをする。ハロルドはずっと目を閉じていたが、思っていたよりも男が優しいので不思議な感じがして、そっと目を開けてみた。


 嬉しそうに目元を緩めた蒼い瞳がそこにあった。名も知らぬ変質者に初めての口付けを奪われていて、こんな状況は拒まなければいけないのに、なぜだが胸がきゅんきゅんした。


「…………可愛いね。本当はスノウとの結婚を断られたら、精液だけ貰って解放するつもりだったんだけど、手放したくなくなってきた」


(それってどういうこと?)






「おじさんでもいいけど、できれば名前がいいな。リックって呼んで。呼べる?」






「でも子種が出ないと僕の研究が完成しない……」


 リックは若干難しい顔になって独り言ちた。






 スノウはハロルドを抑える役目から外れ、服を着て部屋の中の椅子に座り、無表情のまま二人の様子を見ていた。


 ハロルドには逃げる素振りが全く見られなくなってしまい、スノウの力は必要なくなった。






 リックはハロルドを抱き起こす。逞しい胸に抱かれたハロルドは幸福を感じてしまっていた。リックとの行為や彼への好意に似た気持ちを通して、確かに自分は女ではなくて男が好きらしいということを、ハロルドは自分の中に発見していた。


 ハロルドはもうずっと頭がぼーっとしていた。


 リックがハロルドの薄茶色に染めた髪を撫でている。


「ハロルド、今日はもう疲れたね。よく頑張りました。また明日――――」


「………………うん」


 思考が麻痺していて、家で心配しているはずの家族がいることなんて忘れてしまった。


「男が好きなことは悪いことじゃないよ。男が男を好きになるのは自然界でもたまにあることだ。自分はどこかおかしいんじゃないかとか悩む必要もないよ。ハロルドには僕がいるし、スノウもいる。君たちは僕がやっと見つけた宝物なんだ。これからはずっと一緒だよ。僕たちはもう家族だ」


「…………………………うん……」


 本来ならば社会的には異常と判断されてもおかしくない自分の性癖を認めてもらえたことが嬉しくて、ハロルドはあまり深く考えずに頷いた。でも…………


(家族…… 家族…… 僕の本当の家族は……)


「ハロルドはすごく可愛いね。稀人(まれびと)を探す旅の途中でこんな天使に出会えるなんて思わなかった。どうか僕のお嫁さんになってほしい。お婿さんでもいいけど」


 稀人ってなんだろう、とその言葉が引っかかってしまって反応が遅れた。


「好きだよハロルド。僕と恋人になって」


 ハロルドの唇にリックのそれが降ってくる。彼の口付けは情熱的で、愛されているのかなとハロルドの胸に喜びが浮かぶ。


「ハロルド……」


 リックの唇が離れて答えを求められる。


 ハロルドは、うん、と言ってしまいそうになって――――


 その時に、遠くでダンダン! と強く扉を叩くような音が聞こえてきた。


「ハル! ここにいるのか? ハル!」


 声の主は、一悶着あったが最近ようやく三姉エマとの婚約が整ったばかりの、ケント・フォレスター公爵令息だ。


 きっと、いなくなった自分を探しに来たのだ。


「ハル!」


 ケントの声が響き渡る。しかし今自分は素っ裸で今日出会ったばかりの誘拐犯と一緒に寝台の上にいるというとんでもない状況だ。とても返事なんてできなくて、ハロルドは瞳に怯えの色を宿して縮こまる。


 リックはそんなハロルドの様子を伺うように顔を近付けて、自分の唇の前に人差し指を立てた。静かにしていて、ということのようだ。


 ハロルドは言われた通りにリックの胸の中で息を潜めた。


 突然、ガシャァァァン! と硝子が砕けるようなけたたましい音が響いた。音がしたのはすぐ近く、見ればカーテンの向こうの窓硝子が割られたらしく、靴で硝子の破片を踏みながら部屋へ侵入する人物の脚が見えた。


「ハル! 無事か!」


 カーテンを開けて現れたのは、真っ直ぐな黒髪を肩のあたりで切り揃えた四姉ヒルダだ。


「ヒルダお姉ちゃん……」


 ハロルドたちの様子を見たヒルダの表情は驚きに包まれていた。


 寝台の上に全裸の男がいて、しかも素っ裸で泣き腫らした目をしている幼い弟の身体に触れている。


 驚愕からの激高。ヒルダの表情変化はわかりやすかった。


「貴様ぁぁぁ!」


 ヒルダは腰に差した剣を抜刀して斬りかかってくる。巻き込まれないようにリックがハロルドを突き飛ばした。ハロルドは急な展開に言葉も出なかった。






「おとうさん!」






 少女の叫び声が聞こえ、次いで赤い鮮血が舞ってパシャリとハロルドの顔にかかった。


 目の前ではリックを庇うようにスノウが彼に抱きついていて、彼女の背中の衣服が裂けて血が滲んでいた。


 斬られたのはリックではなくて、スノウだった。


 スノウは斬られる直前にリックを父と呼んでいたが、それ以降は一言も言葉を発さず、斬られた瞬間ですら呻き声一つ上げなかった。


「スノウ! スノウ!」


 リックが必死な様子で彼女の名前を叫んでいる。スノウは苦痛の表情一つ浮かべることもなくリックを見上げていたが、やがてその瞼が閉じてしまう。


 リックは手近にあった自分の衣服を掴み、スノウの服の上から圧迫して血を止めようとしていたが、リックの衣服にまで血が染み込み始めていて止まらない。


 カタン、と乾いた音が室内に響く。ヒルダが血濡れた剣を取り落していた。ヒルダは呆然とした様子で、血を流し意識を失った少女とリックを見ていた。


「何てことだ! 早く医者を!」


 割れた窓からケントと公爵家の人間たちが現れる。慌てた様子で指示を飛ばすケントの声が聞こえた。


 騒然とし始める室内で、ハロルドもまた、為す術もなく呆然と状況を見ていることしかできなかった。


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《転章直前と転章以降の時間軸の、本作品以外のシリーズ別作品に書いたハロルド周辺の話のまとめ》
※【 】の中はその時のフランツの状態やフランツとの関係性など

・シリーズにハロルド初登場とハロルド家族(父、四姉、五姉、六姉)が出てくる話【フランツと出会う前】
「その結婚…」の恋の危機編の「遠距離 2」から「同期と上官 3」あたりまでの約6話

・ハロルドたちが南西列島へ出立する直前の話【フランツと出会う前】
「その結婚…」の恋の危機編の「ハロルドの秘密」と次話「「彼女」との別れ」の2話

・南西列島に着いて以降、ハロルドが戦闘能力高めと仲間にバレていた話【フランツとは単に上司と部下】
「その結婚…」の恋の危機編の「友の実力」と次話「届かない便り」の2話

・南西列島が獣人に襲われたらしいと首都に伝わってる話【フランツにとってこの時にハロルドが特別な存在になる】
「その結婚…」の首都からの撤退前編の「アンバー兄妹 2」の後半部と、次話「銃騎士隊の魔王」の後半部の2話

・ハロルドとフランツの微ラブラブ話【フランツのハロルドへの思いは友情以上恋愛未満】
「その結婚…」の悲恋編の「慣れない距離感」

「その結婚…」の悲恋編の「告白」と、
次々話「ヒーロー(仮)は遅れてやって来る」にもハロルド視点の話あり

・【フランツ、ハロルドの服を乱す→胸を見る→殴られて恋と気付く】
「その結婚…」の悲恋編の「三角関係?」
と、
「その結婚…」の悲恋編の「疑問解消せず」の中頃 に脱がされシュチエーションになるまでの経緯等の説明あり

・フランツ、夜な夜なハロルドの寝袋に侵入する(セクハラ止まり)【フランツ、アタック中】
「その結婚…」の悲恋編の「疑問解消せず」の前半部

・ハロルドがゼウスを守ろうとして危機が去った後に、(以降は本編持ち越し)フランツたぶん襲いながら告白する予定【フランツぶち切れ】
「その結婚…」の悲恋編の「襲来」 と、次話「命を張らせないでよ」の2話


※※※


今作品はシリーズ別作品

完結済「獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~」

の幕間として書いていた話を独立させたものです


ハロルドの思い人であるゼウスの恋模様がわかる別作品

完結済「その結婚お断り ~モテなかったはずなのにイケメンと三角関係になり結婚をお断りしたらやばいヤンデレ爆誕して死にかけた結果幸せになりました~」(注:異性恋愛もの)

こちらもよろしくお願いします
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