2 変態おじさんと白い少女 2
R15注意
女の子(ロリ)が裸になります
恐怖に駆られたハロルドはそれまで以上に激しく身をよじるが、背後の少女の力が強すぎて逃げ出せない。
ハロルドはまだ八歳だが、同年代の少年たちや姉たちとの腕相撲では誰にも負けたことがないくらいには強い。父親のシュバルツはハロルドの身体能力が高く才能があるようだと喜んでいた。この少女はハロルドよりも年上ではあるが、まだ子供であり、ハロルドが必死の全力を出しても拘束から抜け出せないことが不可解だった。
(見た目も変だし、この子は一体何なんだ?)
「そうか。でも個人差もあるし、『稀人』は身体の成熟が早い者もいるから、君の状態ならもう出せるかもしれない」
「心配はいらない。僕はこれでも生物学者だからね、こういうのは慣れている。これは君が大人になるための通過儀礼のようなものなんだ。時間はたくさんある」
「スノウ」
「はい」
男はハロルドの背後で、拘束をし続けている少女に呼びかけた。スノウと呼ばれた少女は抑揚のない返事をする。
「服を脱ぎなさい」
「はい」
(えっ?)
ハロルドは男が指示した内容に面喰らう。少女も少女で男に異を唱えることもなく、一度目と全く変わらない感情の伴わない返事を返す。
身体に回されていたスノウの腕が外れる。衣擦れの音が響いてきて、ぎょっとしたハロルドは思わず背後を振り返ってしまった。
白い肌を持つ少女が服を下に落とした。幼い身体付きだが滑らかな肌、そしてその肌を蝕むように存在している幾つもの痛々しい傷痕……
刃物で切られたような切り傷や、まるで火かき棒の先端でも押し付けられたかのように、ほとんど全く同じ形をした火傷の痕が何ヶ所もあった。それとは別の、細長く茶色に近い傷痕もあるが、もしかして鞭で打たれたものだろうか。
傷痕は特に背中が一番多いのだが、スノウの身体にはまるで拷問を受けたような酷い傷痕が多数残っていた。
「何で…… こんな傷だらけ……」
もしかしてスノウにこれほどまでに酷い事をしたのはこの男なのではないかとハロルドは思った。自分も同じ目に遭わされるのではないかと思ったハロルドは、青褪めてガタガタと震え出した。
「酷い傷だよね。これはスノウを物扱いしていた連中がやったんだ。僕が連れ出していなかったら今頃はもうとっくに死んでいたかもしれない。これでもだいぶマシになったんだよ。色々試してみたんだけれどね、皮膚の奥の方まで傷付けられた傷は消えなかった」
ハロルドの呟きに男がそう説明する。
この二人の関係性もいまいちよくわからなかったが、この少女も自分と同じように男がどこかから連れて来た――――いや、助け出して来たということか?
「親代わりの僕としては、こんなに辛い目に遭い続けてきたスノウには幸せになってほしい…………
年上の僕がこの子が死ぬまでずっとそばで守ってあげることはできないし、この子の心身の傷を癒やしてずっと守ってくれるような素晴らしい騎士を探していたんだ。
――――ハロルド君、どうだろうか? スノウと結婚してみない?」
「け…… 結婚?」
うん、と男が頷くが、ハロルドはすかさず首を思いっきり横に振った。
近くで見るとスノウの眼球の虹彩と外側の白目の部分は微妙に色味が違っていて、ちゃんと瞳があるように見える。初見で驚いた時よりも人間っぽく見えるし顔立ち自体は美人に分類されると思うけれど、あまりにも得体が知れなさすぎて結婚なんて絶対に無理だ。
「スノウは感覚も感情も閉ざしぎみな所があってね、僕は彼女に本来の彼女自身を取り戻してほしいと願っている」
男はうんうんと感慨深げに頷いている。
「いきなり過ぎて戸惑わせてしまったのかもしれないけど、僕は是非ハロルド君にスノウのお婿さんになってほしいと思っている。駄目かな? まあ、時間はたくさんあるから、今すぐにここで答えを出さずにじっくりと考えてほしい。
どっちにしろ今のスノウに子を産ませるのはまだ早いし、もう少し成長してからになる」
「なるほど…… ハロルド君、君は男の子が好きなんだね?」
「え…… ち、違いますよ」
ハロルドは咄嗟に否定した。
自分には姉が六人もいて、姉たちとは未だに一緒にお風呂に入っている。スノウの裸を見たりしても、驚きこそすれ自分が全くいやらしい気持ちにならなかったのは、きっと姉たちの裸に見慣れているせいだ。
自分は、世間一般でいうところの普通の感覚を持っているはずだ。
「では、好きになった相手は今まで全員女の子だった? 初恋は男の子じゃなかった?」
「いえ、今まで好きになった人はいません……」
「なるほどなるほど。恋はまだ知らないと。ではわからないよね」
「スノウ、ごめんね。君のお婿さんならまた別の格好いい子を見繕ってくるから、ハロルド君は諦めてくれ」
「……はい」
スノウの返事はやはり淡々としていたが、これまでとは違い一拍だけ遅れて聞こえてきた。
「そうか。スノウもハロルド君を気に入っていたのか。こんなに可愛いのだからわかるよ。失恋させてしまってすまない。
けれどこの子は女の子では駄目だから、君の伴侶にはなれないよ。
だから、ハロルド君――――――」
男が視線をスノウからハロルドに戻した。彼は端正な顔に熱の籠もった妖しい微笑みを浮かべながら、射抜くように鋭くなった瞳でこちらを見ていた。
「君の相手は、僕がするよ」