28 胸に秘める
この島に来てもう一ヶ月ほどが過ぎた。ハロルドは赴任当日に支隊長の専属副官に任命されるという無茶振りを受け、訓練と慣れない副官の仕事にてんやわんやではあったが、支隊長フランツ・クラッセンや副主幹ショーン・ジュエルたちの手厚いサポートもあって、なんとかこなせていた。
ハロルドはその日も、南西列島の母島にある南西支隊本部の支隊長執務室にて、鋭くも品のある美しい容貌をした金髪碧眼の支隊長フランツと共に業務を行っていた。
フランツは貴族のはずなのに言葉遣いが悪く、そのせいで初対面では乱暴な印象だったが、仕事はきちんと教えてくれるし、ハロルドを専属副官として育てようという気持ちは見えた。
フランツは表面上、言葉も態度もやはり乱雑だしぶっきらぼうだが、本質的には部下思いの優しい人なのだなと思った。
直属の上司としてはアタリを引いたと思っていたが、ただ一点だけ、ハロルドにとってはとても困る部分があった。
本日のフランツ支隊長の服装は、支隊長特権でも発動してるのか上着だけは隊服ではなくて私服だが、柄の悪い不良が好みそうな派手派手で原色の入り乱れた目が痛いシャツを素肌の上に着ていた。
シャツのボタンは留められていなくて全開のため、鍛えられた美しい胸筋から、綺麗に割れた逞しい腹筋の一部までが見え隠れしている。
フランツはワイルド系を目指しているのかセクシー系を目指しているのかわからないとしても、ハロルドだったら一生絶対しないなという格好をしていたとしても、そこら辺は個人の趣味であるし別に構わない。むしろ色気増量で似合っている気もする。
問題は、目のやり場に困ることだった。ハロルドはフランツの首から下はあまりに見ないようにしていたが、会話する時にはどうしたって視界の端に写るし、業務中に煩悩と戦わねばならない時も多かった。
派手シャツではなくてちゃんと隊服を着てくる時もあったが、規定の水色シャツであってもフランツはボタンをきっちり上までは留めない。首元から醸し出されるイケメンの色気に最初の頃は赤面してしまうこともあって、「今日は暑いですね!」などと言って誤魔化したこともあった。
副官就任からしばらく経つと何とか赤面は抑えられるようになったが、フランツと同じ部屋で、机に向かってただ仕事をしてるだけなのに、ドキドキしてしまう。
ハロルドは、自分は結構ちょろい奴なんだなという自覚を持った。
ハロルドは訓練学校時代からゼウスに片思いし続けてきたが、ゼウスはもう恋人のメリッサと結婚するし、近頃は別の人を好きになってもいいかなと思っている。
ただ、自分相手では男同士の恋愛になるし、まして支隊長は職場の上役であるので、色々とマズイと思ったハロルドは、芽生え始めたフランツへの好意は胸に秘めておこうと思った。




