27 出世
三人称→ハロルド視点
ハロルドが教育係と親交を深めている一方、フランツ・クラッセン支隊長はかつて自分の専属副官を務めたこともあるカイザー・ロックウェル副支隊長に、ジョージ一番隊長に返信しとけ、という意味で伝令を押し付けたのだが、すぐに突き返されてしまった。
「私はもうあなたの副官ではないのですよ。そろそろご自身の副官をお決めになられたらいかがですか? 支隊長であるあなたには早く女房役が必要です」
フランツは思いっきり眉を寄せて不機嫌そうな顔になった。
「まだ二ヶ月だ」
「もう二ヶ月です。支隊長がいつまでも腑抜けた状態では困るのです。隊を立て直さねばなりませんし、人員が増えたこの契機にあなたにはしっかりして頂きたいのです。いつまでも腑抜けたままでいるのなら、そのお手紙には『謹んでお受け致します』と記してあなたごと首都に送付して私が支隊長になっても良いのですよ」
カイザーの過激な発言にフランツが怒り狂いやしないかと、カイザーの後ろにいた彼の専属副官であるリオル・ブルームはオロオロしていたが、フランツはカイザーを睨む視線を鋭くするのみで言い返さない。
睨み合いの末、フランツが動いた。目を閉じて片手で思いっきり頭を掻きむしり始めたのだが、そのせいで綺麗に整えていた髪の毛がかなりボサボサになった。
「……わかったよ」
フランツの答えにほっとカイザーは胸を撫で下ろした。フランツはぐるりと周囲を見渡した後、一歩踏み出してカイザーの横をすり抜けていく。
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「おい、そこのお前。お前だよ、そこの長髪」
声をかけられて、ハロルドは握手をした状態のまでショーンと共に振り返った。
「いや、ショーンじゃなくてチビの方だ」
「え、あ、はい…… 俺ですか?」
いきなり美貌の支隊長に声をかけられてハロルドはびっくりした。なぜかフランツ支隊長の髪が無造作にボサボサになっているのも驚いたが、それはそれで野性味が増した感じで格好良いかも、と、ハロルドは全然関係のない明後日なことを考えていた。
「お前、今日から俺の専属副官やれ」
「「「「「は?」」」」」
ハロルドのみならずすぐ近くにいたショーンやゼウスやアランはもちろんのこと、その他の隊員たちやフランツに副官を持つように進言したカイザーですら、支隊長の突飛な行動に唖然としていた。
「まさか、この場で指名するとは……」
カイザーが呆気に取られたように呟いている。
「ええっ! いや、ちょっと待って下さい! なぜ俺なんですか? そんな、いきなり副官だなんて…… 恐れ多くて俺には無理です!」
「嫌ならてめえはクビだ。支隊にはいらねえから首都の一番隊へトンボ帰りしろ」
(そんな横暴な……)
ハロルドが絶句していると、カツカツとフランツが歩み寄ってきて手にジョージからの手紙を握らされた。
「副官としての初仕事だ。クソジジイに返事書いて出しとけ。俺は首都には戻らないし二度とこんな連絡寄越すなボケカスって」
「ボケ…… カス……」
ハロルドは展開についていけずにフランツが言った過激な単語を繰り返すのみだった。
「首都への連絡の出し方はショーンに聞いとけ。それが終わったら俺の執務室へ来い」
支隊長はハロルドの反応などお構いなしで言いたいことだけを言って去ってしまった。
「あなたすごいじゃない! 新人ちゃんが支隊長の専属副官だなんて大抜擢よ! 私も応援するから頑張りなさいね」
「え、でも……」
断れるものなら断りたい。ちょっと涙目になりながらゼウスとアランを見ると、彼らも呆気に取られつつも、ハロルドの視線に気付くと笑顔を向けてきた。
「すごいなハル! 十代で副官だなんてなかなかないぞ! 大出世じゃないか!」
アランは喜んでくれた。
「ハル、頑張って。ハルだったらきっとできるよ」
ゼウスは背中を押してくれた。
「大丈夫大丈夫、私もちゃんとフォローするから!」
豪快に笑いながらショーンが背中をばしばしと痛いくらいに叩いてくるが、ショーンの励ましに反してハロルドの心中は不安だらけだった。
(俺、これから一体どうなっちゃうのかな……)




