12 入校後
入校前に事件はあったが、入校してからもトラブルはあった。
学校に通い出してあまり間もない頃、ハロルドは課題のために班を組んだ他の訓練生からいきなり仲間外れにされた。女みたいで気持ち悪いと言われて、班の面子のほぼ全員から一緒にいることを拒まれた。
教官から班全体で行動が出来ないのであれば全員の単位を落とすと言われ――留年制度はないので単位を落として進級できなければ退校処分になり銃騎士にはなれない――そのために班の面子も渋々といった様子でハロルドと共に課題演習を行うことにしていたが、無視されたり蔑むようなことを言われたりして当たりはずっときつかった。
演習自体はハロルドにはそこまで難しくない内容だったが、班の面子とのやりとりには疲れ切ってしまった。あまりにも腹が立ちすぎて、模擬戦で同じ班だった輩と当たった時は、全力でコテンパンにしてしまった。
彼らは自分よりも小柄でひ弱そうに見えるハロルドに負けたことが信じられない様子だったが、最初は負けて悪態をついていた彼らも、ハロルドとの対戦を繰り返すうちに何も言わなくなった。
入校して最初に模擬戦が行われた時、他の訓練生の動きを見て気付いたが、ハロルドには他の者たちの戦う動きがかなり遅く見えた。校内全体では強そうな者も何人かいたが、ほとんどの者には勝てそうだなと思ってしまった。
けれどハロルドは、同じ班だった相手と当たる時以外は、模擬戦では時々手を抜いていた。
稀人であることを知られたくなかったからだった。
悪い事ばかりではなく良い事もあった。相手にとってはこんな思いは傍迷惑でしかないだろうが、ハブられて一人で落ち込んているハロルドを気にして、他の班なのに何度も声をかけてくれるキラキラ王子様と友達になれた。
名をゼウス・エヴァンズといった。
過去の出来事から、金髪碧眼の美形は胡散臭いという先入観があって、最初こそ避けていたが、何度も話しかけられているとそのうちに誠実な人柄がわかってきて、気付けばその姿を目で追うようになっていた。ハロルドはいつの間にかゼウスを好きになってしまっていた。きっと自分が苦しい時に声をかけ続けてくれたからだろうと思った。
ゼウスと過ごす養成学校生活はとても楽しかった。ゼウスはアスターとレインという一期上の先輩と仲が良くて、ハロルドは彼らとも知り合いになって仲良くさせてもらった。
遠征の訓練開けに娼館行きで盛り上がる訓練生たちをよそに、よく合宿所に残って夜四人でトランプをしたものだった。
聞けば先輩二人とも恋人がいるらしく、アスターはゼウスの姉のアテナと、レインは遠距離で名前も秘密の恋人と付き合っているということだった。
しかしレインに関してはただの可哀想な妄想だとか、本当は男色家なのを隠している言い訳に使っているだけだとか憶測が飛んでいて、本当の所はよくわからなかった。もしも男色家の噂が本当なら自分の仲間だとも思ったが、家族にも秘密にしていることを打ち明けるのが怖くて、最後までレインには何も聞けなかった。
アスターのことは養成学校で出会う以前から新聞などでその名を見ていたので知っていた。アスターとアテナは共に有名人で、二人の交際はよく新聞や雑誌などで騒がれていた。
アテナが有名だったのは人気急上昇中の新人モデルだったからだが、アスターは『アウローラ号事件』の生き残りとして有名だった。
それはハロルドが養成学校に入る二年ほど前、アスターが成人である十四歳の誕生日を迎える少し前に起こった。




