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たかが子爵家  作者: 鈴原みこと
第十六章 皇子の訪問
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Ⅲ.告発の首謀者③


 ひどく不穏な話を聞いた気がして、ユリウスは胸やけのような不快さに顔をしかめた。

 腹黒子爵のやることは大胆すぎて心臓に悪い。

 アルフレートはなお不納得な様子で反論した。


「ヒュッテンシュタット公爵はもともと当事者だろう」


 だがジークベルトは首を振ってきっぱりと言い返す。


「いいえ。オットマールから相談を受けてその真偽を確かめていた間は、あくまで第三者でした。自分()()が命を狙われたことで、事情が変わったんです」


「たち」というのが曲者(くせもの)だな、と横で聞いていたウリカは思った。


「つまり、ディアーナ伯母様を巻き込んだことが、お父様にとっては最大の功績だったわけね?」


 ウリカの一言で、不穏さに拍車がかかった。


「面倒くさがりなカルステン様をその気にさせるには、それが一番有効な手段ですからね」


 世間話でもするようにジークベルトが答える。

 シルヴァーベルヒ家の姉弟(きょうだい)は父親の蛮行に慣れているせいか、ユリウスの青ざめた表情には気づいてくれなかった。


「どういうことだ?」


 ひとり事情が分からず、アルフレートは首をひねる。


「カルステン様にとって最も大切なものはディアーナ伯母様なんですよ」


 と、ウリカ。


「彼女と結婚できるなら家督を継いでもいい、と公言したくらいだからな」


 ユリウスがため息まじりで補足した。

 先のヒュッテンシュタット公爵は優秀な長男に何がなんでも家督を相続させたがっていた。しかし当のカルステンは「面倒くさい」の一言で頑なに相続を放棄しようとする。

 そんな折に出会ったのがディアーナだった。


 他の貴族令嬢とはどこか違う彼女の凛々しさに魅了されて、カルステンは恋に落ちた。

 そこに目をつけた父親が、家督を継ぐなら彼女と結婚させてやると約束したのである。


 アルフレートは唖然とした。


「公爵位が重いんだか軽いんだか分からん話だな」


 それを聞いたシルヴァーベルヒ家の姉弟はどこか遠い目をしている。


「『こんなクソ重いものを継いだんだから、彼女への深い想いがいかほどか分かるだろう?』が、有名なカルステン様の口癖ですねぇ」

「『やめろ恥ずかしい!』って伯母様にしばかれるまでがセットよね」


 と、聞きたくもなかったノロケ話を声真似つきで披露してくれた。

 意外とお茶目な姉弟である。


 ともあれ、大切な妻を守るためにも、ヒュッテンシュタット公爵は積極的に動かざるを得なくなった、というのが事の真相らしい。


「なんというか……子爵は悪魔のような男だな」


 ステファンの率いる連隊が『悪魔の部隊』と囁かれていることを思いだしたアルフレートは、その片鱗を垣間見た思いでつぶやいた。


「確かにあくどいやり口ではありますね」


 子爵の息子がくすりと笑う。その苦笑はどこか自嘲めいていた。

「ですが」と言葉を続けたジークベルトが、物言いたげに目を細める。


「ヴァルテンベルク公爵を追い詰めるためのアドバイスはちゃんとしたらしいですよ」


 アルフレートがにやりと笑う。


「それはつまり、ヴァルテンベルクに実はもう一つの逃げ道があったという類いの話か?」

「ああ、やはり殿下は気づいておられたのですね」


 お互いの言いたいことを悟って笑いあう皇子と弟をきょとんと眺めて、ウリカが首をひねる。


「それって、ヴァルテンベルク公爵が不正を行なっていた年数と、オットマールの勤続年数に矛盾があることと関係のある話ですか?」


 小冊子を指さして、彼女はそう聞いた。ひと通り読み終えて、ウリカにも事の全貌が見え始めていた。


「まあ、そういう話だな」


 改めてシルヴァーベルヒ姉弟の察しの良さに感心しながら、アルフレートはあのとき誰も指摘しなかった矛盾点について考えを巡らせていた。

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