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たかが子爵家  作者: 鈴原みこと
第十六章 皇子の訪問
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Ⅲ.告発の首謀者①


「なるほど。それは確かに面白そうな技術だな」


 晩餐(ディナー)を終えたアルフレートは赤毛の少年と会話を楽しんでいた。

 今は全員でティータイムの時間である。


 ユリウスが従弟に近況を尋ねたのが話の発端だった。

 ジークベルトが「街外れに住む錬金術師の手伝いをすることになった」と報告したら、皇子が興味を示し、錬金術の説明をすることになったからだ。


 本来ならこの話題に食いついてきそうなウリカは、不意打ちの召喚命令を受けたせいで()ねてしまったらしく、不機嫌顔でティーカップのフチをなぞっている。


「噂を耳にしたことはあったが、我が国ではいまだ懐疑的な者が多いようでな。不確かで否定的な噂が無責任に飛び交っているのが実状だ……一度、自分の目で確認してみたいものだが」


 城に帰ったら異母妹(いもうと)のツェツィーリエからも話を聞いてみようか、と思いながらアルフレートは紅茶に口をつけた。

 豊かな花の香りが口の中に広がる。フレーバーティーだった。


 茶葉に花や果実、ハーブなどで香りづけされたフレーバーティーは、元々は古くなって味の落ちた紅茶を誤魔化すために作られ始めたものだ。そのため邪道だと言われることもあり、気位の高い貴族にはあまり好まれていない。

 しかし今回は、フレーバーティーを飲んだことがないというアルフレートの希望でこれが振る舞われていた。


 既成概念に縛られない柔軟さ、といえば聞こえはいいが、この皇子の場合は単に好奇心旺盛なだけともいえる。

 意外と悪くない、と感想を抱いてアルフレートはカップをソーサーへと戻した。


 皇子の動作と入れ替わるようにしてカップを持ち上げたジークベルトが、香りを楽しむように紅茶を鼻先に近づける。それを眺めながら、アルフレートは「ところで」と話を切り替えた。


「これを見てほしいんだが」


 と言って、少年の目の前に紙の束を放った。

 簡易的な装丁をされた本。厚みはそれほどない。

 首をひねりつつ、ジークベルトは薄い小冊子を手にとった。


「先日ヴァルテンベルク公爵の不正を暴いた際の謁見記録の写しだ。それを読んだ感想をそなたに聞いてみたくてな」


 少年がパラパラと冊子を(めく)っていく間にアルフレートは説明する。


「あの時のやりとりにはいくつか思うところがあるのだが、一人ではどうも考えをまとめきれなくてな。ユリウスが日頃から利発だと自慢しているそなたなら、私と違う視点の意見も聞けるのではないかと思ってそれを持ってきたのだ」


 皇子の揶揄(やゆ)的な口調に、ジークベルトは従兄の顔をちらりと見る。

 ユリウスは眉尻を下げて肩を(すく)めた。


 なるほど。この皇子にはとかく人を試そうとする癖があるらしい。そう諒解して、少年は何も言わず冊子を閉じた。

 脇に置いたそれを今度は隣に座るウリカがひょいっと拾い上げて、中を確認し始める。


「内容は把握できたかな?」


 皇子の問いかけにジークベルトが頷き、


「実は先日ヒュッテンシュタット公爵にお会いして、この件に関するお話を伺ってきました」


 と、告白した。

 ヒュッテンシュタット公爵といえば、先日ヴァルテンベルク公ザムエルの公金横領を暴露した南の領主である。


 彼の妻であるディアーナ夫人はユリウスの叔母であると同時に、シルヴァーベルヒ子爵夫人クリスティーネの姉でもある。ヒュッテンシュタット公カルステンはウリカやジークベルトにとっても義理の伯父にあたるわけだ。


 引きこもり公爵として有名なカルステンが珍しく王都に来ていると聞いて、ジークベルトは挨拶に行ったのだという。


「それはまた、渡りに船というべきか……では、その時の話を詳しく聞かせてくれないか?」


 アルフレートからの要望に赤毛の少年は「そうですね……」と考える素振りを見せてから、


「では、まず結論から言ってしまいますね」


 と前置きした。

 ユリウスの眉がぴくりと震える。嫌な予感を覚えたからだ。

 従兄の気持ちを知ってか知らずか、ジークベルトは事もなげに告げた。


「カルステン様によると、あの告発の裏で糸を引いていたのは、我が父ステファンであるとのことです」

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