15話ー戴冠式
いよいよやって来た、戴冠式前日。
ソルセルリーには各国からの来賓がやって来て、晩餐会が開かれた。
飾り付けられた長方形の机。大きな燭台が乗せられて、料理の皿と磨かれたカトラリーが並ぶ。それぞれの国の伝統と礼節とに従って着飾った各国の代表が会食の席に付く様子は、優美かつ荘厳である。
宮廷楽団の音楽と、並み居る高貴な方々のお喋りの聞こえる中、警備のために建物の内と外に配備された面々に、ネロとノワールも加わっていた。
ネロとノワールがいるのは会場内の、客人からも見える位置だ。魔法士団の制服を着て、普段は着けない徽章も着けている。この徽章は、いわばこいつは安全な天恵持ちですよ、という印として国から贈られるものだ。つまりは見る人が見れば天恵持ちの魔法士と丸わかりのプラカードを持って歩いているのと同じである。魔法士であることを分かりやすくするため、制服のフードも被っているので、むしろプラカードが服を着て立っているといったほうがいいか。
会場の対角にはノワールがいる。彼の指揮する隊は要人警護が主な任務なので、魔獣の討伐よりはこちらが本職と言える。
会場が広いので、ここからは小さくしか見えないが、規定通りに表情を変えることなく背筋を伸ばして立っている姿は、正直惚れ惚れするほど格好良かった。
彼の持つ強者らしい佇まいに恐れをなす者の方がも多いだろうが、ノワールを恐れる理由のないネロからすれば、ただただ洗練された雰囲気の美丈夫に見惚れるだけである。
とはいえ仕事中だ。呆けているわけにはいかない。
巡回する騎士からの異変の通知が無いか。警備用の様々な魔法に反応は無いか。有事の際にはすぐに動ける心構えでいなければ。
巡回する騎士は近衛騎士団の団員だ。警護、護衛についてはプロフェッショナルである。ノワールは仕事仲間として顔見知りもいるようだが、ネロ個人はほとんど接点がない。強いていえば兄のラファルがいるくらいで、よく知る人は兄くらいだ。
ネロは姿勢を変えずに目深に被いたフードの下から、べネスティの代表者の席を盗み見た。べネスティ国王と王妃。それから、国王の隣に座る壮年の男はコルロー公爵。その他にべネスティの貴族が十数名。
コルロー公爵は先のべネスティ内戦にてレジスタンス一味を討ち取った英雄とされる男だ。それでいて警備を引き受けた際に閲覧を許可された要注意人物リストの一番上に名前を書かれた男でもある。べネスティ国王の目を盗み、ヴェスタ公爵やハーミッド伯爵を唆したらしいという嫌疑がかけられている。
そのコルロー公爵の眼前で、べネスティ国王はアリステアの一行と和やかに話をしていた。
ヴェスタ公爵を唆したのがコルロー公爵であるなら、ソルセルリーとアリステアの不和を狙っている可能性が高いが、自国はアリステアと良好な関係を築きたいらしい。アリステアとべネスティの両国から目の敵にされれば、ソルセルリーは窮地に立たされることになる。
何より面倒なのはべネスティ国王がこの公爵の思惑に気づかぬまま傀儡化されているらしいことだ。
べネスティ国王はコルロー公爵の隠れ蓑であると同時に目の上の瘤でもある。
ソルセルリーの警備隊の間では、コルロー公爵がべネスティ国王に妙な手出しをしないかも警戒されている。ソルセルリーに滞在中に何かあっては、ソルセルリーの方へあらぬ嫌疑がかけられないとも限らないからだ。
ノワールのみならず、ネロも警備の一員に加えられたのは、べネスティへの牽制が意図されているだろうというのは簡単にたどり着ける想定だ。
天恵持ちだと分かりやすく表示して見えるところへ置いておけば、ここの警備が厳重に固められていることのアピールになる。悪意のある相手には、下手なことをしようとすれば勝てない相手が取り押さえに行くぞ、脅しになり、悪意のない相手からは頼もしい護衛として喜ばれるという寸法だ。
いつだったか、ライオネル殿下が戴冠式では僕の招待客として並んで歩いてもらおうかな、などと言っていたのを思い出す。その時はもっと殺伐とした対面をイメージして肝を冷やしたが、こうして見世物になるだけでべネスティの動きを抑制できるのならば安いものだ。
警報の発報無し。
怪しい人影なし。
魔力の気配なし。
水面下の攻防は知らぬ存ぜぬのふりをして、晩餐会の夜は見かけ上平和に過ぎていった。
え、リアクションいただいてる…!
うれしー…(>ω<)
お待たせしてる割に、今回の更新が読んでて楽しいシーンではなかったので、近日中に続きもあげられればと思っています。いちおうGWですし…文字数も少ないですし…
色々と齟齬が出ないように世界情勢を一通り決めているのですが、ネロもノワールも蚊帳の外すぎて、設定が死にそう。回収されなくても許して。




