保存したもの
久住に話をしたのは、閉館後だった。
最後の来館者が帰り、受付の照明が半分落とされたあと、直人は聞き取りノートを持って資料整理室へ向かった。
木箱は壁際の机に置かれたままだった。
第三収蔵庫から運び出して以来、そこが仮の置き場所になっている。
蓋の端に、黒い文字でK.M。
直人は向かいの椅子を引いた。
「久住さん、少しいいですか」
書類を抱えて入ってきた久住が、木箱と直人を順に見た。
「佳奈さんのこと?」
「はい」
久住は持っていた書類を別の机に置いた。
「分かった」
二人で向かい合って座った。
直人はノートを開いたが、すぐには見なかった。
「何人かに話を聞きました」
「聞いてるわ」
「藤川先生と、森本さん。それから当時の市役所にいた人や、商店の人。美智子さんにも会いました」
久住は頷いた。
「町の人が口止めされていた、という証拠は見つかりませんでした」
「そう」
「開館準備の記録にもありません。佳奈さんのことを小さく扱えとか、書くなとか。そういうものは」
「ないでしょうね」
「森本さんも、会社から何か言われた覚えはないと言ってました」
直人はノートのページをめくった。
「あそこがなくなったら困る家がいっぱいあった、とも言ってました」
久住の目が少し動いた。
「会社が苦しいと外に出れば、銀行や取引先が離れる。だから普通は言わないって」
「ええ」
「学校でも、最初は警察が来て騒ぎになった。でも、日が経ったら家出とか、家庭の事情とか、そういう言葉に落ち着いていった」
久住は黙っていた。
「誰か一人が決めたわけじゃないのかもしれません」
直人は言った。
「それぞれが、自分のところでそれ以上のことをしなかっただけで」
「そうかもしれないわね」
「でも、一つだけまだ分かりません」
久住が直人を見る。
直人は木箱に手を置かなかった。
「この箱です」
空調の低い音が続いている。
「第三収蔵庫に置いたの、久住さんですか」
久住はしばらく木箱を見ていた。
「そうよ」
返事は短かった。
直人はノートを閉じた。
「いつですか」
「佳奈さんがいなくなったあと」
「すぐ?」
「そこは、もう覚えてない」
久住は言った。
「何日後だったか、一か月経ってたか。箱にまとめた日のことまでは残ってない」
「じゃあ、佳奈さんから直接?」
「テープはね」
久住は蓋を開けた。
六本のカセットが並んでいる。
「預かったの」
直人は久住の手元を見た。
「いつですか」
「八月十二日」
さっきとは違い、迷わなかった。
直人が顔を上げると、久住は少し苦笑した。
「日付を三十一年間ずっと覚えてたわけじゃないわよ」
「違うんですか」
「佳奈さんがいなくなったあと、警察に最後に会った日を聞かれたの。そのとき準備室の日誌を見て確認した。十二日の夕方」
「日誌は残っていますか」
「たぶん。前に見たことがあるから」
記憶だけではなかった。
直人はそのことを頭の中に置いた。
「その日、佳奈さんは何を?」
「来たのよ。準備室に」
「聞き取りの予定があった?」
「なかったと思う」
久住は少し考えた。
「そこは日誌を見ないと分からない。高校生は夏休み中、予定がなくても顔を出すことがあったから」
「佳奈さんも?」
「よく来てた」
録音の整理をしたり、次に話を聞く相手を探したりしていたという。
その日の佳奈が何を着ていたか。
何時何分に来たか。
どんな鞄を持っていたか。
久住は覚えていなかった。
「変わった様子は?」
「今なら、そうだったと思いたくなるけど」
久住は首を振った。
「分からない。当時の私は、明日も来ると思ってたもの」
「何か話しましたか」
「少し」
「何を?」
「会社のことで家にいたくないとか、その程度だったと思う」
「思う?」
「言葉までは覚えてない」
久住はそう言ってから、箱の中の一本へ指を置いた。
「ただ、一つだけ覚えてる」
無記名のカセットだった。
「これを渡されたときに言ったこと」
直人は待った。
「『私が戻ってこなかったら、いつか誰かに聞かせてください』」
久住はゆっくり言った。
あの無記名テープで聞いた佳奈の声が、直人の中に戻った。
「それは、間違いないですか」
「それだけは」
「どうして?」
「三十一年間、何度も思い出したから」
久住は言った。
「忘れたかったときも含めてね」
直人は何も書かなかった。
「戻ってこなかったら、って聞いて、何も思わなかったんですか」
「聞いたわよ。どこへ行くのって」
「佳奈さんは?」
「答えなかった」
「全然?」
「ちゃんとした答えは」
久住は眉を寄せた。
「『ちょっといなくなるだけ』みたいなことを言った気もする。でも、そこは自信がない。あとから録音の言葉と混ざってるかもしれないから」
直人は頷いた。
久住は木箱から手を離した。
「だから、その日に何を言ったかについて、私の記憶だけで決めないで」
*
佳奈がいなくなった翌日、久住は預かったテープを聞いた。
それも、最初から全部ではなかったという。
「聞き取りのテープも一緒だったから」
「六本全部、佳奈さんが持ってきたんですか」
「そこは分からない」
久住は答えた。
「箱に入れたとき、準備室にあったものを混ぜた可能性もある。少なくとも、この無記名の二本は佳奈さんから渡されたものだと思う」
二本。
直人が再生したのは、そのうち一本だけだった。
「もう一本、聞きました?」
「ええ」
「僕はまだです」
久住が直人を見る。
「そうなの」
「最初の無記名テープで、佳奈さんが一人で話していたので。もう一本も同じだとは思ってなくて」
「聞く?」
直人は少し迷ってから頷いた。
久住がカセットを取り出す。
透明なケースにも、本体にも文字はなかった。
デッキへ入れ、再生する。
最初は長いノイズだった。
遠くで扉の閉まるような音がした。
それから佳奈の声が入った。
『これ、二本目』
直人は音量を少し上げた。
『一本に入ると思ってたけど、足りなかった』
紙をめくる音がする。
声は、聞き取り③のときより低かった。
『最初に言っときます。私は自分で出ます』
直人は動かなかった。
『誰かに連れていかれるとかじゃないです』
数秒、ノイズだけになる。
『たぶん』
佳奈は付け加えた。
『そういう予定です』
そこで、小さく笑った。
十七歳らしい言い直しだった。
『どこに行くかは言いません』
紙の音。
『言ったら意味ないから』
久住はデッキを見ていた。
直人は手元の紙に、
自分で出る
とだけ書いた。
『会社のことは、私が間違ってるかもしれないです』
佳奈の声が続く。
『でも帳簿の数字がおかしい』
間がある。
『同じお金が二回あるみたいになってるところとか、逆に、あったはずのお金がないところとか』
直人はペンを止めた。
『退職金の積立っていうのも見ました』
紙を裏返す音。
『社員の人のために取っておくお金だって書いてある。でも別の支払いに回したみたいになってる』
佳奈は専門用語を使わなかった。
自分が見たものを、自分に分かる言葉で話していた。
『お父さんに聞いたら怒られた』
一度、声が途切れる。
『お母さんには、今そんなこと言ったら会社が終わるって言われた』
ノイズが入った。
『会社の人にも聞いた』
そこから先は音が少し遠くなった。
『何百人いると思ってるんだって』
森本の言葉を、直人は思い出した。
あそこがなくなったら困る家、いっぱいあったんですよ。
『分かってます』
佳奈が言った。
『分かってるけど、それを言われたら、何も言えない』
少し間が空く。
『黙ってたら、なくなったお金は戻るのかな』
直人は目を上げた。
『誰に見せればいいか分からないから、何枚か持っていきます』
紙をそろえる音。
『コピーです。元のは持っていけないから』
そのあと、声は急に小さくなった。
『これ、久住さんが聞くかもしれない』
久住の指先がわずかに動いた。
『ごめんなさい』
テープはそこで終わった。
デッキが回り続ける。
直人が停止ボタンを押した。
資料整理室が静かになった。
「これを、失踪したあとに?」
「ええ」
「全部?」
「全部」
「警察には出さなかった」
「出さなかった」
久住は言った。
直人はすぐには次を聞けなかった。
「どうしてですか」
「分からなかったから」
「何が」
「これを出したら、何が分かるのか」
「佳奈さんが会社のことを調べていた」
「それは分かる」
「自分で町を出るとも言ってる」
「そう」
「なら、警察が探す手掛かりには」
「どこへ行ったかは言ってない」
久住は答えた。
「それに、あのころ警察も家出の可能性を見てた。家族も、少なくとも私が聞いた範囲では、それを強く否定してなかった」
「会社の話は?」
「私は会計のことなんて分からなかった」
久住はカセットをケースへ戻した。
「高校生が帳簿を見て、おかしいと言ってる。それだけだった」
「でも、退職金の積立を使ったって」
「佳奈さんがそう考えた、という録音よ」
「だから確認してもらうために警察へ」
「そうね」
久住は言った。
「今なら、そう言える」
直人は黙った。
「当時も、出したほうがいいとは思った」
「じゃあ、なぜ」
「佳奈さんが私に預けたから」
「警察じゃなく」
「そう」
「それだけですか」
久住は少し考えた。
「それだけじゃない」
木箱の中には、高校生たちが集めた聞き取りの録音もある。
準備室の仕事として録ったもの。
佳奈個人が残したもの。
会社の内部の話。
家族の話。
全部が同じ箱の中で混ざっていた。
「佳奈さんが戻ったら、本人に聞こうと思ってた」
「でも戻らなかった」
「一週間経った」
久住は言った。
「その次の週も戻らなかった。夏が終わっても戻らなかった」
「その間ずっと?」
「ずっと考えてたわけじゃないのよ」
久住は直人を見る。
「そこを間違えないで」
声は穏やかだった。
「仕事もあった。開館準備も進んでた。展示のこと、資料のこと、予算のこと。毎日、別のことがあった」
直人は、開館準備委員会の会議録に並んでいた議題を思い出した。
展示ケース。
収蔵庫の空調。
開館式。
寄付物品。
「警察からまた聞かれたら言おうと思った日もあった。こっちから持っていこうと思った日もあった」
「行かなかった」
「ええ」
「そのうち、聞かれなくなった」
「そう」
久住は蓋の端のK.Mを見た。
「それで、箱に入れた」
*
「正式な資料にはしなかったんですか」
直人が尋ねると、久住は少し笑った。
「何て登録するの?」
「開館準備時の音声資料」
「聞き取りの分はね」
「佳奈さんの録音は非公開にするとか」
「今ならそういう話になるでしょうね」
久住は言った。
「でも、受入の経緯は?」
直人は答えなかった。
「誰から、いつ、どういう理由で受け取ったか。書くでしょう」
「はい」
「水原佳奈本人から、失踪前日に預かった。会社の会計について本人が話している。本人は翌日から行方不明」
久住は一つずつ言った。
「そこまで書いたら、登録するだけでは済まない」
「だから書かなかった」
「そう」
「木箱にK.Mだけ書いて」
「正確には、それをいつ書いたのかも覚えてない」
久住は言った。
「もともと別の音声テープを入れていた箱だったかもしれないし、私があとで書いたのかもしれない。分類案にK.Mがあったことは覚えてる。でも、箱に文字を書いた瞬間までは覚えてない」
直人は蓋を見る。
木箱を見つけたときから気になっていた二文字だった。
「ただ、台帳に入れなかったのは私」
「それは覚えてる?」
「覚えてるというより」
久住は少し間を置いた。
「入れた記録がないでしょう」
「はい」
「そして私が預かった。それなら、ほかの人が登録を外したとは考えにくい」
久住は記憶と推測を分けて話していた。
「捨てようとは?」
「思わなかった」
返事は早かった。
「一度も?」
「それは、一度も」
「じゃあ、残そうと思ってた」
久住は答えなかった。
「保存したかったんですか」
「その言い方は、きれいすぎるわね」
直人は口を閉じた。
久住は箱の中のテープを見た。
「捨てられなかったの」
「だから残した?」
「そう思ってた時期もある」
「三十一年間?」
久住はしばらく黙った。
「最初の数年と、そのあとを同じにしたくない」
「どう違うんですか」
「最初は決められなかった」
久住は言った。
「そのあとは、決めなかった」
直人は手元のノートを見る。
久住は続けなかった。
*
水原繊維の不正が確かなものになったのは、佳奈がいなくなってから数年後だった。
「覚えてるのは記事です」
久住は木箱から黄ばんだ紙を一枚取り出した。
薄いコピーだった。
直人も木箱の紙を確認したときに一度目にはしていたが、聞き取り関係の資料だと思い、記事の内容までは読んでいなかった。
広げると、地域紙の経済面だった。
水原繊維が倒産した翌年の記事。
債務整理をめぐる続報だった。
見出しの下に、
退職金積立金の一部を運転資金へ転用
という文字がある。
別の段には、決算書上の処理についても書かれていた。
「これを見たとき」
久住は言った。
「佳奈さんが言ってたのは、これだったんだと思った」
直人は記事を読んだ。
積立金の転用。
実態と異なる会計処理。
経営悪化の中で行われていたこと。
当時の経営責任者についても触れられている。
水原という姓があった。
「このコピー、久住さんが入れたんですね」
「そう」
「佳奈さんがいなくなってから数年後に」
「ええ」
「そのとき、箱を開けた」
「開けた」
久住は認めた。
「テープも?」
「一本目は聞いた」
「会社の話のほうは」
「聞いたと思う」
少し間を置く。
「でも、そこは自信がない。記事を読んだから頭の中で結び直してるかもしれない」
直人はコピーの日付を書き留めた。
「警察へ行こうとは?」
「思った」
「また行かなかった」
「ええ」
「今度は、何が分からなかったんですか」
久住は直人を見た。
「今度は、分からなかったんじゃない」
久住の手がコピーの端を押さえた。
「怖かったの」
直人は待った。
「何年も出さなかったものを持っていけば、どうして今まで黙ってたんですかって聞かれるでしょう」
「聞かれるでしょうね」
「自分でも答えられなかった」
久住は記事を折り直した。
「最初の判断を説明できないまま時間だけ経って、その時間が次の判断の理由になった」
コピーを箱へ戻す。
「そうやって増えたのよ」
「何がですか」
「出さない理由が」
*
翌日、直人は開館準備室の日誌を探した。
久住が言ったとおり、三十一年前の八月分が残っていた。
八月十二日。
高校郷土研究部 録音整理。
午後の欄に、鉛筆で名前が二人書かれている。
一人は別の部員。
もう一人。
水原。
時刻まではない。
翌十三日。
水原の名前はない。
直人はページをコピーした。
久住の記憶と記録が一致している部分。
記録からは確かめられない部分。
それを分ける。
次に、箱に入っていた紙を一枚ずつ確認した。
佳奈が会社から持ち出したというコピーそのものは、一枚だけ残っていた。
水原繊維の会計関係書類。
数字と項目が並んでいる。
赤鉛筆で丸が三か所。
佳奈が付けたものかどうかは分からない。
久住にも分からなかった。
紙の右上の余白に、短い書き込みがあった。
八・一三 七四二
その下に、地名。
さらに、二文字の名字。
片瀬。
木箱の紙を一度確認したときにも目に入っていた文字だった。
そのときは、人名なのか、地名なのか、会社名なのか分からず、メモに書き写しただけだった。
今見ると、数字の並びが違って見えた。
八月十三日。
七時四十二分。
直人は古い時刻表を出した。
該当する年の夏。
市内の駅を午後七時台に出る列車。
七時四十二分発があった。
行き先は、コピーに書かれた地名と同じ方向だった。
「これ」
直人は久住を呼んだ。
久住が机の横に来る。
「見覚えありますか」
紙を示す。
久住は眼鏡を掛けた。
「紙自体はね」
「この書き込みは?」
「覚えてない」
「片瀬って人は?」
久住は首を振った。
「佳奈さんの知り合い?」
「私は知らない」
直人はそれ以上聞かなかった。
時刻表と書き込みを並べる。
佳奈は録音で、自分で町を出ると言った。
会社の資料のコピーを何枚か持っていくとも言った。
そのコピーの一枚に、失踪日の列車らしい時刻と、町の外の地名が残っている。
情報そのものは、最初からそこにあった。
直人が意味を知らなかっただけだった。
*
直人は数日かけて「片瀬」を調べた。
水原繊維の社員名簿にはない。
博物館の記録にも、高校の郷土研究部にもない。
だが、倒産関係の記事を追っていくと、一件だけ名字が出た。
水原繊維の元取引先。
県外にあった小さな繊維問屋の担当者だった。
片瀬という姓。
住所は、コピーの余白に書かれた町と一致する。
そこから先は簡単ではなかった。
会社はすでになくなっている。
片瀬本人の名前も、古い商工名鑑に一度出るだけだった。
ただ、その町に佳奈が向かった可能性は高くなった。
直人は地方紙の縮刷版と図書館間の資料照会を使って、地名と佳奈の名前を追った。
水原佳奈では出なかった。
三十一年前の記事にもない。
十年分。
十五年分。
同じ名字では何も見つからない。
直人は一度検索を止めた。
結婚して姓が変わっている可能性がある。
そこまで考えて、手元の資料を見る。
佳奈が持っていたコピー。
片瀬という名字。
県外の町。
その町の古い市民活動記録。
検索語を変えた。
佳奈。
聞き取り。
郷土。
数件目で、小さな記事が出た。
二十年ほど前の地域紙だった。
市民グループが商店街の古い店を訪ね、店主から昔の話を聞く活動についての記事。
大きな記事ではない。
参加者が数人、名前だけ載っている。
直人は一行ずつ読んだ。
その中に、
榎本佳奈
という名前があった。
同名の別人かもしれない。
年齢はない。
写真も小さい。
これだけでは何も言えない。
直人は次の記事を探した。
五年後。
同じ市民グループの活動報告。
榎本佳奈。
さらに数年後。
昔の生活道具についての聞き取り会。
榎本佳奈。
記事の中に、一か所だけ発言が載っていた。
道具の名前だけではなく、誰が使ったのか、どこで買ったのかまで聞いておかないと、あとで分からなくなる。
直人はそこで手を止めた。
藤川の家で聞いた言葉を思い出す。
どこで買ったんですか。
誰が使ってたんですか。
壊れたらどうしたんですか。
聞き取り③の声も思い出した。
『五十年前でも、おいしかったものは覚えてると思う』
直人は記事をコピーした。
榎本佳奈。
まだ、水原佳奈だとは断定できない。
記事は二十年前のものだ。
現在も同じ町にいるとも限らない。
それでも、これまでの資料とは違った。
三十一年前の水原佳奈を説明する記録ではない。
失踪よりあとに、「佳奈」という人間が別の町で何かをしていたかもしれない記録だった。
直人は聞き取りノートを開いた。
美智子の言葉。
あの子を、もう探さなくていいんです。
その下に書いた、
生存?
を見た。
丸は付けなかった。
代わりに、その下へ、
榎本佳奈
と書いた。
さらに、その横に記事の日付と町の名前を書き添えた。
紙の上には、三十一年前から現在へ向かう線が一本だけできていた。




